58話 条件と不安
「王宮の連中がなんの用だよ。」
俺より先に反応したのはジルだった。
ジルは自然とミカとシャルとの間に入った。
「私はナイトさんに用があってきたんです。」
「俺に?」
そこにサヤが来て中で話すように言ってきたので中で話すことに。
「で、俺にようとは?」
「この村にいる悪魔を倒してほしいのです。」
「悪魔?」
「はい。悪魔さえ倒せばここから立ち退きをしなくていいとお父様が仰っていましたので。」
「サヤ、この村に悪魔が潜むとかそういう噂、伝承はあるか?」
「いえ、そういうのは聞きません。」
となると、誰かに化けているかただ、サヤが知らないだけか。
「一応調査はするが期待はするなよ。」
「ありがとうございます。」
この時サヤの表情が変わるのを俺は気づいた。
シャルが帰ったあと。
「サヤ、単刀直入に聞く。」
「シャルが言っていた悪魔というのはこの孤児院にいる誰かか?」
「....はい。多分その悪魔というのはジルの事だと思います。」
「そう思うのは、なにか理由でも?」
「そういうのは特にないんですけど。ただ、彼一人だけなんです。この村に親がいないのは。」
「つまり、ある日いきなりこの孤児院の前に置かれていたと?」
「そういうことです。」
「サヤ姉ちゃん、話終わった?」
色々考えていると丁度ジルが来たので[神眼]スキルで視てみた。
ジル
種族:人魔
性別:男
レベル36
スキル[剣術]、[体術]、[物理耐性]、[根性]、[能力封印]
能力≪守護者≫、≪腐蝕≫
備考、≪腐蝕≫は[能力封印]により封じられている。
なるほど、そういうことか。
人と悪魔のハーフだったから違和感がなかったんだ。
ジルはどちらかというと人の方の血を受け継いでいて人間のミカと見てみても全く違和感がない。
「確かに、ジルがシャルの言っていた悪魔で間違いないだろう。」
それより問題は、
「ジルを殺してしまうのですか?」
そこだ。
シャルが望んだのは悪魔の退治。
退治といったのは別に殺してくれとは言われていないから。
「俺だって将来有望なジルを殺したくはない。それにジルには守らなきゃいけない奴がいる。」
「では、どうしたら。」
うーむ。
鳳王はなぜか、この村に悪魔がいると知っている。
そして、悪魔が居なくなれば立ち退きはしなくていいと言っている。
ジルをここに残したまま。悪魔を消し去る方法。
「ここを俺の領地にしちゃえばいいんじゃね?」
幸いここは王国との国境辺りに位置している。
ここなら、王国からでも簡単に来れるという弁解が出来る。
「すごい発想力ですね。けど、ここは王宮ともちかい土地です。ナイトさんの土地にするのは難しいと思いますよ。」
「そこは、悪魔の調査ということで何とかする。」
ということで、俺は今鳳王の前にいる。
隣にはシャルがいる。
「初めましてだな。ナイト君。」
「初めまして鳳王。」
鳳王は見た目通りのよぼよぼの爺さんで俺が殴ったら死んでしまいそうだった。
まぁ、俺が殴ったらだれでも死ぬけどな。
「今日は、あの土地を譲ってほしくて交渉に来た。」
「あの土地というと例の悪魔が住むと言われるあの土地かね。」
「そうだ、あの土地には確かに悪魔がいる。だから、あそこの土地を詳しく調べたい。その為にあそこを俺の土地としたいんだ。」
「しかし、」
あと一押しか。
「勿論、王様の言うことにはできる限り従う。鳳国を襲うなんて馬鹿な真似はしない。」
作戦なんかなくても俺一人で十分だ。
「そういうことならあの土地は好きにして貰って構わない。ただし、条件があるんだよ。」
「条件?」
「そう。その条件は悪魔の討伐は勿論、シャルの夫になって欲しいのだ。」
「は?ボケたかジジイ。」
「これは、冗談なんかじゃない。本気の本気だ。シャルもそろそろ結婚してもいい時期だ。私もそう長くはない。シャルには辛い思いをしてほしくないんだ。」
そういう事じゃねぇ。
「違う、俺が言いたいのはそういうことじゃない。シャルの気持ちも考えろって言ってんだ。」
「私は構いませんよ?この前お父様とメア様がお話している時に少し聞いちゃったんです。」
「ナイトさんは、王国の女王陛下の婚約者なんですのね?」
「まぁ、そうだが...。」
「なら、今更ではありません?1国の女王と比べれば私は国王の娘というだけですよ?」
「いや、でも俺とシャルは出会ってまだ間もないしお互いのことは何も知らないし。」
「そこは、後々知っていけばいいんですよ。」
「大事なことは後々かよ。」
異世界だからか、結婚だとか婚約のハードルが低すぎる気がする。
...前の世界じゃ婚約とか結婚はしたことないけど。
「その条件を受けるというならあの土地は好きにしたまえ。」
どうする?
条件を受ければ俺が婚約者を増やすことになる。
けど、ジルは救える。
となると、答えは決まっていた。
「わかった、その条件を受ける。けど、すぐには結婚できないからその辺は分かってくれ。」
「その辺は考慮している。相手は1国の女王だからの。」
「ならいい。」
ということで、婚約者が1人増えました。
これで、メアとララとシャルの婚約者が3人とミミとシェリーの嫁が2人となりました。
ホント胃に穴開きそう。
「ということで、ジルのことは当分大丈夫だ。」
「意外とあっさりしてますね。」
こっちは、あっさりどころか、ドロドロしそうだよ。
「まぁ、俺が王宮を襲わないなら好きにしていいって言ってたからジルのことは安心していい。」
「...なにかありました?」
「いや、なんも。」
俺の婚約者が増えた愚痴をサヤに聞かせたところで婚約者は減らないしサヤを不安にさせるだけだ。
「そう...ですか。」
「俺の領地と言っても基本放置だから運営とかは今まで通りで頼む。」
「分かりました。こんな村の為にありがとうございます。」
俺はジルが捕られるのが嫌だから動いたまで。
そうじゃなかったらメイドに料理を届けさせて終わっていた。
「お帰りなさい。鳳王との会談は。」
「あぁ、婚約者が1人増えた。」
「また、増やしてきたの?」
声のトーンが「また犬を拾ってきたの?」という感じがするのは俺の気のせいか?
「そうでもしないと、ジルを救えなかったんだ。」
「結局どうなったのですか?」
「俺がシャルと婚約することを条件に孤児院がある村を俺の領地としてもらった。」
「その結果、ジル君を救えたならいいではありません?」
「俺の首が絞まるだけだな。」
むしろそれが1番重要。
今現在、
婚約者はメア、ララ、シャルの3人
嫁は、ミミ、シェリーの2人
この時点で将来的に5人を娶ることになる。
前の世界で独りだった俺がそんな5人も幸せに出来るのかか今から不安の種として俺の心にある。
前にミミに言われたこと。
『人は誰しも幸せになる権利がある。』
『人を幸せにしてしまったら自分も幸せになって相手には倍の幸せを送る。』
ミミはあの時『義務』と言った。
確かにその通りだと思う。
けど、それを考えるとなんだか逃げ出したくなる。
今までにそういう恋愛経験がないからそうなるのだが今となっては今ある現状をゆっくり噛み砕いて受け付けるしかない。
勿論、断ることはできないことは無い。
けど、1度了承したものを後からやっぱり無理とするのは卑怯な気がしてやる気は起きない。
今一番の不安は婚約者含め5人を幸せに出来るかどうかだ。




