48話 決着
問題はあの無傷の3人組だな。
1人は見覚えがあるがもう2人はない。
[神眼]があるからまだスキルと能力が見えるだけまだマシか。
「なんだ、お前ら。」
「我らは粛清する者。貴殿が『漆黒』でよろしいかな?」
「お前らみたいなやつに教える義務はないな。」
「そうか。残念だな。そういえば、君が今焼き尽くした兵士は僕の能力で複製した人形なんだよ。だから、こうやってなん百体と出せるんだよ。」
そう言ってカタルは魔法陣を広げさっきの兵士を出した。
正直言ってめんどくさい。
このままでは相手の魔力が尽きるまで永遠に雑魚の相手をすることになる。
そんなのは単なる作業でしかなく非常につまらない。
俺はカタル目掛けて走り出した。
兵士を出される前に主人を殺せば兵士はただの案山子になる。
もう少しで剣先が届きそうなところでワイヤーのようなもので遮られた。
そもそも、あの3人にワイヤーとかそういう細い物をだす奴はいない。
ということは4人目がいたことになる。
俺は、後に飛んで距離をとる。
その時、俺は目を疑った。
ワイヤーの正体は髪の毛だった。
ワイヤーだと思ったのは銀色で鉄の色だったから。
しかし、そんなことは今はどうでもいい。
重要なのはその頑丈な髪の持ち主。
『ルージュだ。』
「ルー.....ジュ?」
俺の目の前にいるのはどう見てもルージュだ。
けど、感情がないのか記憶がないのか俺だとは認識出来ていないようだった。
「ハッハッハ。これは傑作だ!」
「彼女の名前を知っているということは君とルージュはそれほど仲が親しかったということだろ?そいつが今は敵となって目の前にいる。それに、お前のことは覚えていない。『漆黒』の絶望した顔が頭から離れない!」
後ろでなんか言われているが俺としてはそれどころではない。
唖然として体が動かない。
それを見越したかのようにルージュが髪を伸ばして俺を串刺しにしようとする。
髪が届くギリギリで我に返ってルージュの髪を弾く。
しかし、相手は髪の毛。
弾いても次から次はへと襲いかかる。
右へ左へ、伸ばされる髪を俺は2本の剣で弾く。
(あれは、ルージュなのか?いや、でもルージュなら俺を見たら分かるはず。そもそもルージュは死んだ。俺の目の前で死んだじゃないか。それなのに、今こうして戦っている。)
ルージュの髪を弾いている間にも俺は状況の整理をしていた。
否、そうすることに集中した。
俺は今起きている現実から逃げたのだ。
ルージュが生きていたことは喜ばしい事だが敵となって再開すれば話は別だ。
しかも、相手には俺を殺すことに躊躇いがない。
一方こっちは、殺したくない。
この段階でもう勝負がついていた。
ルージュの髪が何本かを掠め服には血が滲んでいる。
「ルージュ!俺だ!ナイトだ!もう100年も前の事だけど忘れたのか?」
「無駄だ。彼女はもう貴様のしっている女ではない。我らの兵器だ。」
俺の必死の呼びかけにもルージュは応じない。
ただ、訳が分からないというように首を傾げるだけ。
「ナイト。彼女は今はただの兵器です。この状況を打開するには彼女を倒すしか、道はありませんよ。」
いやだ、殺したくない。
1度救えなかった命を救おうとした命を自分で殺すなんて俺にはできない。
甘えだというのは分かっている。
今まで人を散々殺して置いて都合の良い時には殺したくないなんて卑怯者のやることだ。
けど、実際死んだはずの恋人がどういう形であれ目の前にいたら誰でも救いたいと思うのは当然ではないだろうか?
そんなことはお構い無しにルージュは攻撃を再開した。
未だに決心がつかない俺が髪の数だけある攻撃を捌き切れる筈ともなく俺は次々と被弾していく。
その時、俺とルージュの前に1枚の壁が現れた。
パァン
頬に痺れる様な衝撃。
俺は頬にビンタされたのだ。
「ナイト!しっかりしてください。今この状況を打開出来るのはナイトを除いて他にいません。だから、しっかりしてください!」
普段なら頬を殴ろうとした攻撃くらい避けられるはずなのに今回は体が動かなかった。
「他の二つ名持ちがいない今私だけでなく王都全体はナイトを頼るしかないんです。私の能力は一見強力ですがただ拘束するだけの足止めです。攻撃力など皆無なのです。だから、ナイトの力が必要なんです。」
「だから、『あの約束』を守って?コア君」
それは、まさに衝撃だった。
シーラから発せられた声や口調は今までのシーラの声ではなかった。
ルージュそのものだった。
「シーラ。お前、その声。」
「びっくりした?ずっとね、隠してたんだ。私は死んだ身。多分今こうして喋れているのもあそこに私がいるから。倒したら多分私は消えちゃう。」
「なら、あいつを拘束してルージュがずっと生きられるようにしたらいいじゃないか。」
「それは、ダメだよ。死んだ者を生き返らせるのにはそれなりの代償が必要なんだよ?私がこのまま生き続けるということは誰かが苦しい思いをしてるってことでしょ?そんなの私が嫌だよ。」
「.........。」
ルージュの正論に俺はただ聞くことしかできなかった。
「あの時の約束を守って?」コア君なら出来るよ。それにもう限界だしね。」
「え?」
その時後ろの壁が音を経てて割れた。
俺達が話している間にも相手は攻撃いていた。
そして、今さっき壁の耐久がなくなった。
「コア君なら出来るよ。頑張って。」
ルージュはまた屋根の上に戻った。
「なんなんだよ。ホントに色々起きすぎだろ。そういうのは前の世界で起きてほしかったな。」
ルージュと話してから不思議と偽ルージュを倒す躊躇いがなくなっていた。
「悪いな待たせた。ちょっとばかり混乱してな。もう大丈夫だ。」
言葉を理解できるのか俺が大丈夫だといった瞬間攻撃を再開させた。
しかし、俺の決意が固まったところで相手が強敵なのは変わりない。
それも、さっきより明らかに攻撃の手数が多くなっている。
(さて、どうするか。正直このままだとじり貧だ。)
偽ルージュとの交戦中に考え事が出来る程俺は冷静で落ち着いていた。
迫りくる髪を二本の剣で捌く。
傍から見れば、ただ、俺の近くに火花が散っているように見えるだろう。
それほどまでに相手の攻撃は速く強力だ。
『命令全員動かないでください。』
「コア君!今だよ!」
上からの言葉に俺は振り向かずに偽物に向かって走りだした。
ザシュ。
あと少し...あと数センチというところで喉から込み上げる違和感を覚えた。
俺はそのまま血を吐いた。
視線を下に向けると銀色の髪が俺の心臓を貫いていた。
刺した相手を見ても無表情。
何も感じていないようだった。
「俺を舐めるなよ。」
俺は不敵に笑うと偽物めがけて再び走った。
そのまま、俺は偽物の心臓部分に剣を突き刺した。
「ただでは死なねぇよ。」
俺が剣を突き刺すと偽物は苦しそうに後ろによろめいた。
今更になって思い出したことがある。
相手の組織がしていたことが『死者蘇生』
なら、目の前にいるルージュの偽物も死者蘇生によって蘇らせたものの可能性が高い。
なら、人間であるルージュの心臓の位置は変わらない。
そして、もがき苦しんだ結果ルージュの体は光の粒子となって元ある場所に帰って行った。
「ルージュ。ありが...。」
俺が振り向くとそこにシーラはいなかった。
「ありがとな。ルージュ。」
さて、俺もそろそろ、限界だ。
偽物に心臓を貫かれたためそろそろ意識が手放してしまいそうだ。
けど、まだ、大元が残っている。
「帰るぞ。」
「いいのかい?とどめを刺さなくて。」
「我らではとどめはさせない。近づいた瞬間細切れだ。」
「なるほど、なら帰ろうか。」
そういって、謎の組織3人組は消えた。
と、ここで俺の意識は途切れた。
最強を目指した末路はこんなもんか。
ため息しかでないや。




