23話 温泉と浮気?
「さて、これからどうしようか。」
「?バジリに行くんじゃないの?」
「いや、バジリは今治安が安定してないからな。」
「温泉行きたい。」
ふと、シアがそんなことを呟いた。
「温泉?何それ。」
「温泉というのは地下で温められた水が地上に吹き出し、それに身体を浸からせて疲れをとるというものです。中には効能といって入っているだけで効果がある温泉もあるようです。」
俺の後ろに控えていたカトレアが説明してくれた。
バジリは火都というだけあって火山地帯でそこらじゅうに温泉が湧く。
それを人が入れる位にできるものが温泉として使われる。
中には青魔法で冷やしても入れないほどに熱い温泉がある。
こういうのは牛族などの高温に耐えられる種族が利用するからそれはそれで需要があるらしい。
これ、全部メイド達から貰った情報。
「まぁ、効能といっても腰痛とか冷え性とかそんなんだけどな。」
「なにそれ!入ってみたい!」
シェリーは興味津々だ。
「なら、温泉目的にバジリまで行くか。」
「「やったー!」」
シェリーとシアの声が同時に聞こえる。
肉村から火都バジリまで2時間程で着く。
2時間後。
「着いたー!ほら、ナイト。早く温泉に入りに行こ!」
「ちょっと待てって。まず宿屋を見つけてからだ。」
「ナイト様。この街は宿屋にもう温泉が附属しているお店が結構ありますよ。」
「なら、早く宿屋決めよ!」
シェリーは少し落ち着け。
馬車ごと停められる宿屋に止まることにした。
宿に着くなりシェリーとシアはダッシュで浴場に向かった。
浴室は1つしかなく今は女性の時間らしいから俺はアリスにでも会いに行こうかね。
「アリス。いるかー。」
「な、ナイト様!どうしてここに!」
そう言えばアリスの屋敷に来るのは初めてだな。
いつもはナツの家で会っていたからな。
「ちょっとした観光だ。ミミ達は宿屋の温泉に入っている。」
「そうですか。あの、ナイト様はもう入られたのですか?」
「いや、まだまだだな。それが?」
「あの、その、えっと。うぅぅ。」
「どうした?」
「アリス様はナイト様と一緒にお風呂に入りたいのでございます。」
声のした方を向くと一人のメイドがドアの所にいた。
「ちょっと!ハレル!私はそんなこと言ってないでしょ!」
「おや、違いましたか?」
「いや、その、あってるんだけど。そういうのは自分で言った方がいい気がして。」
このハレルというメイド、読心術でもあるのか?
だとしたらちょっと不味いかな。
理由は言わずもがなである。
「それは申し訳ございません。余計なことをしてしまいました。」
「いいの。ありがとう。」
アリスはメイドにお礼を言うと俺の方を向いた。
「ナイト様。私がお背中をお流しします。」
「いや、ダメだろ。常識的に考えて。」
「えッ。」
なんで、この世の終わりみたいな顔をする。
「私ではダメですか?」
アリスが上目遣い&涙目で聞いてきた。
それは、狡いだろ。ダメって言えなくなった。
「分かったからそんな目をするな。けど、俺だって男だ、後戻り出来ない過ちを犯すかもしれないからそこんとこよろしく。」
一応自重するが俺にも限界はある。
「ナイト様なら大歓迎です。」
アリスがなにか呟いたが俺には聞こえなかった。
アリスの屋敷の浴室は宿屋の食堂位の広さがあった。
つまり、かなり広い。
当たり前だが今俺たちはちゃんとタオルを巻いている。
流石に初っ端からタオルなしはハードルが高い。
それにしても、アリスは着痩せするタイプらしい。
いつもゆったりとした服を着ているためわかりずらいが今ならはっきり分かる。
俺の仲間の戦闘力はこんな感じだな。
メア=ミミ>シェリー≧アリス>カトレア=ララ>シア
となる。
つまり、アリスの戦闘力はシェリー以下カトレア以上ということになる。
似合わない位の大きな胸がそこにはあった。
予想外の強者だった。
「ナイト様?どうかなさいましたか?」
「ナイト様はアリス様のお体に見蕩れていたのですよ。」
「違う!そんなことは.....ない!」
「今の間は何ですか?」
ステータスを見た感じそれらしき能力もスキルも持っていない。
なのにさっきから心を的確に読んでくる。
一応ステータス。
アリス
性別女
種族:人間
スキル[寵愛]、[精霊術]、[精霊使役]
備考、バジリの現領主、ナイトの配下。
ハレル
性別女
種族:熊種
スキル[教育]、[精霊術]、[精霊使役]
備考、アリスの従者、勘が鋭い。
この備考にある勘が彼女がさっきから核心を突いてくる理由か?
ホント、
カトレアといい勝負だよ。
いや、アレと勝負出来るだけですごいんだけどさ。
「さっさと汗とか流して風呂に浸かろうか。」
この調子なら過ちを犯すことはなさそうだ。
「アリス。身体洗い終わったか?」
俺はアリスがいる方とは逆を向いて言った。
「はい!今終わりました。」
アリスが勢いよく立ち上がろうとした。
考えても見てほしい。
濡れて滑りやすくなった床で激しく動いたらどうなるかを。
「キャッ!」
「あぶねえ!」
答えは転ぶだ。
俺は咄嗟にアリスを支えた。
「大丈夫か?」
「はい。ありがとうございます。」
普通に喋っているのように見えるがアリスは顔が真っ赤である。
そこにガラッと浴室のドアが開いた。
「「え?」」
俺達は二人して気の抜けた声を出した。
そのあと俺は戦慄した。
なんと、ドアを開けたのはミミ達だった。
そして、この状況である。
普通にアリスと風呂に入っているというならなんにも問題はなかった。
さっきまではそうだった。さっきまでは。
今俺はアリスに覆いかぶさるかたちとなっている。
実際はアリスが転びそうになったから助けただけだが、はたから見たら俺がアリスを襲おうとしたように見えるだろう。
いや、そうにしか見えないだろう。
風呂に入っているにしても真っ赤な顔のアリスに、転んだ拍子に体に巻いていたタオルはアリスの胸を隠しておらず今は下を申し訳程度隠しているだけのタオル。
はい。浮気現場の完成だ。
じゃなくて、ヤバイ。
一刻も早くこの場からどからければ行けないのに体が言うことを聞かない。
「ナイト様。これは、どういうことか説明して貰えますか?」
「ナイト。あんた小さい子捕まえてなにしてんの。ねぇ、あんたはロリコンなの?私達じゃ不満なの?」
「浮気、ダメ、絶対。」
「身体でしたら私のを使って下されば良いのに。」
「浮気はいけませんね。お仕置きが必要ですか?」
浮気現場を目撃された人の気持ちが理解出来た瞬間だった。
「違っ」
「「言い訳無用。そこに正座!」」
「はい!」
このあと俺は小一時間ミミとシェリーに説教された。
どうしてこうなった。
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「なんだ、アリスが転びそうになったから助けただけなんだ。それを早く言ってよ。」
「ごめんなさい。完全に早とちりしてました。」
「言おうといたら遮ったのはどこの誰だ。」
「「うぅぅ。」」
といってもアリスには悪いことしたな。
いくら俺が尊敬する人の婚約者であってもアレは嫌だっただろう。
後で謝らなきゃ。
「その必要は無いですよ。」
「うわ!」
いつの間にいたのだろうか。全く気配を感じなかった。
「アリス様はその事については気にしておられません。それに、ナイト様を浴室に誘った時点でそういうことの覚悟は出来ていたそうです。」
『そういうこと』が怖いけど俺ってそんなに飢えてるように見えるかな?
ま、一応謝って置かなきゃな。
恥ずかしい思いをさせてしまったことは確かだし。
親しき仲にも礼儀あり?だっけ?
東方の言戯だ。
ハレルが言ったとおりアリスは気にしていなかった。
むしろ、押し倒されてドキッとしたとこそんなような事を言っていた。
女の子ってホントにわからない。
あ、ちなみにミミ達は俺との《同調》で俺がアリスと風呂に入ることを知って急いで出てきたそうだ。
これは、改良が必要かな。
今のままではプライバシーなんてあってないようなものだった。
これでは、ザフトの時とか今みたいに秘密にしたいことが全て筒抜けになる。
それは、困る。(色々な意味で)
だから、改良することにした。
バジリ観光一日目からこんなんで先が不安になった。




