21話 『闇夜の成敗者』
アリスと顔合わせた日の夜。
俺はザフトがいるという屋敷に来ていた。
それは、勿論ザフトを殺すため。
女性陣からはダメだとなった時だけ殺していいと言われているがそんなのは待てない。
それに、俺達が作戦を練っている間にも被害者は出る。
なら、元凶を潰すほかない。
ま、調子に乗ったバツだ。
「ん?そこに誰かいるのか。」
自室の扉を開けてすぐに俺に気づいた。
ま、月明かりのある日にベランダにいたら誰でも気づくか。
ま、仮面をしてるから顔はわからないけどな。
前の世界でも少なからずこういった依頼があった。
その度に顔を見られて命を狙われるんじゃキリが無い。
だから、俺は仕事をするときには仮面をすることに決めていた。
あ、あと口調も変える。これで大分特定が難しくなる。
「お初にお目にかかります。ザフト侯爵。」
「なんだ、お前は。ここがどこか分かって来ているのか。」
「えぇ、それは、勿論。ザフト侯爵のお屋敷ですよね。存じております。」
「で、私になにか用かね。私は忙しいのだ。」
「女性の初めてを奪うので?」
「そうだ。これは、当然の権利だ。私は国民のためにこの聡明な頭を使っている。私が頭を使っているのだからその対価として身体を要求しても問題ないだろ?」
「えぇ、それは、問題ないですね。」
「ただし、相手の了承があった場合ですがね。」
「な、何を言っているんだ。勿論了承はとっている。」
「拒否すれば国外追放という条件付きでね。」
「.....貴様どこまで知っている。」
「全部ですね。」
元々初夜権は当人達の同意の元行われるといった感じの法だったがそれは、あくまで表向き。
実際は領主という立場を利用して国外追放だとか親族の処刑だとかで脅して初めてを奪うというものだった。
しかし、それは当の本人達しか知らない情報。
この情報は酒場でナツとの話を聞いていたバジリの人がくれた情報だ。
相手を追い詰める上で重要な情報だ。
「初夜権という法を建てて女性を無理やり犯しているそうですね。しかも、断ったら国外追放又は親族を処刑という残忍な方法で。」
「さっきも言ったがこれは対等な取引だ。」
「対等?どこがです?領主という立場を利用した職権乱用ではありませんか。」
「黙れ!人が大人しく聞いていればいいいい気になりやがって。警備隊!この不審者を捕らえろ!」
ザフトは叫ぶが当たりは静寂に包まれる。
「警備隊なら全員眠って貰ってますよ。それに、こんな月が綺麗な日にベランダなんかいたら流石に気づかれますからね。」
「そんな馬鹿な。警備隊はバジリきっての精鋭達だぞ!それが簡単に突破されるとは…。」
「アレで精鋭?王都の警備隊長一人の方がよっぽど強いですね。」
「貴様は一体何者なんだ。」
「そう言えば自己紹介がまだでしたね。」
「私は『闇夜の成敗者』でございます。初めまして、そしてさようなら。」
『闇夜の成敗者』は前の世界で名乗っていた凄腕の暗殺者の名前だ。
姿を見た者はおらず都市伝説とされていた節もある。
正体を知っていたのは女王と戦友だけ。
仕事の成功率は9割を占め気まぐれ屋という性格までは民衆の間にも広まっていた。
気まぐれ屋は地味にあってるんだよな。
「待ってくれ!そ、そうだ。君にも初夜権を執行する権利を上げよう。バジリの領地内なら誰とでも出来るぞ。」
「そんなものはいりません。第一私には連れがいます。そんなことをしたら連れに怒られてしまいます。」
「ならっ。」
ザフトはなにか言おうとしたが俺が首を掻っ切ったため言葉を紡ぐ事が出来なかった。
ザフトはその場に倒れ伏し辺りには頚動脈を切ったことによって吹き出した血が飛び散っていた。
いつでもそうだ。
違う世界に来ても俺がやることは変わらない。
赤黒く汚れた世界。血に塗れて生活する日々。
全盛期は常にどこかしらに血が付いていた。
それは、自分のであったり他人のでもあったり…。
「さて、用事も終わったし帰るか。早くないとミミ達にバレる。」
俺はベランダから飛び降りて肉村(暫定)に帰った。
次の日。
「ナイトさん。起きてますか!」
ナツの大声によって叩き起された。
まだ寝て5時間程しか経っておらずまだ眠い。
「どうした。そんなに慌てて。」
「取り敢えず。アリスが来てるので一緒に来てください。」
俺はナツに引っ張られて家に向かった。
「で、なんで俺は連れて来られた訳?」
「それが今朝、メイドが兄の寝室に行ったら兄が何者かに殺されていました。」
「ん?なんで殺されたって分かるんだ?自殺とかじゃないのか?」
白々しく聞いてみる。
「兄は首を掻っ切られて死んでいました。それに、人の首を切れる程の刃物があの場にはありませんでした。」
あ、そういうの用意しとくの忘れてた。
「なんだ、それ。じゃ暗殺者の仕業か?」
「恐らく。そして、警備隊を眠らせたことからかなりの手練れです。警備隊は兄が厳選したバジリきっての精鋭ですから。」
「アリス。恨みを持った人に心当たりはないの?」
「ないよ。それに、初夜権とかでさらに恨みとか買ってたし。」
「そっかー。」
「ま、安心はしてもいいんじゃないか?多分アリスが襲われることはないだろ。」
「どうしてわかるんですか?」
「いや、普通一家全員皆殺しにするならその日のうちにやるだろ。何回かに分ける理由がないしそれにはリスクが高すぎる。」
「それは、そうですね。少し安心しました。」
俺もまだまだだな。
アリスに余計な心配を掛けてしまった。
アリスが兄がした事の後処理とかがあるらしく屋敷に帰っていった。
最後に俺達は最後まで協力することを伝えた。
ま、ザフトを殺したのは俺だし。
協力すると言ったのもこっちからだからだから当たり前と言えば当たり前なんだが。
家に帰ると脱力したシェリーが机に突っ伏していた。
「なにしてんの?」
「ザフトが死んだんだって?あー!私がこの手で殺したかったのに!」
おお。可愛い顔して物騒なこと言うねー。
「あんな奴の血でシェリーに手を汚す必要はないさ。暗殺者様に感謝だな。」
「そ、それは、そうだけど。」
「それにしても、何者なのでしょうか。深夜警備隊を一瞬で眠らせてそして主までも手にかけた、暗殺者。」
「んー。でも、なんか矛盾してない?」
「?どこでそう思われましたか?」
「だって、普通暗殺者って誰にも気づかれないように忍び込んで対象を殺す職業でしょ?なのに警備隊と戦闘というか交戦するのは仕事の仕方として矛盾してる気がするのよ。」
「それについては一概にそうとは言えない。」
「そうなの?」
「うん。暗殺者の中には肉弾戦が得意な人もいるしそれに今回の実行犯が一人とは限らない。暗殺者同士では殺す対象が一緒だったり自分の任務に支障がない場合はお互いに知らない振りをするのが鉄則。そこでの交戦は禁じ手。」
「なかなかに暗殺者も深い職業ね。」
どうだとばかりにまだ淡い膨らみしかない胸を張るシアと感心するシェリー。
だけどそれは、大間違い。
実行犯は暗殺者じゃないし2人以上でもない。
ふ、まだまだだな。
後にこの一件は
バジリの人々からは『闇夜の成敗者』
ザフト陣からは『厄災の暗殺者』
としてバラバラに解釈されるのであった。