19話 報酬と毒盛り
「ということでイリスが俺の奴隷になった。」
「うん。なんか分かってた。アルムさんから盗賊の頭は女だって聞かされた時からこうなるだろうなって。」
「ナイト様は見境が無さすぎです。」
「ご主人様の配下が増えればそれだけ護衛力が上がります。私としてはもう100人は欲しいですね。」
三者三様の反応をどうも。
それにしてもカトレアはいつでも平常運転だな。
さて、俺とイリスは捕えられていた村人のに近づいた。
「1度は盗賊として悪事を働いてしまったが主殿がその目を覚ましてくださった。もう悪事は働かないとここに誓う。」
「まぁ、イリスもこういうってるし許してやってくれ。アルムもいいよな。」
「え、あ、はい。問題ないと思います。」
で、問題は盗られたものをどうやって戻すかだ。
ある場所は分かってるし量も分かっているが人手が足りない。
仕方ない。
村人にも手伝って貰おう。
俺が手伝ってくれと声をかけると私も俺もと次々に手が上がった。
正直ありがたい。
「ナイトさん。少しいいですか?」
「あぁ、わかった。」
戻す作業はミミ達に任せて俺はアルムに呼ばれて家に入っていった。
「あの、報酬なんですけど。今のこの村にはこのくらいしか出来ません。ですから、私の体でどうかご容赦下さい。」
「報酬?もう貰ったぞ?」
「え?私たちは何もしておりませんよ?」
「いや、さっき確認したろ?『イリスを俺の奴隷にしてもいいか。』と。」
「はい。先ほどそう確認されました。」
「イリスはこの村を何の怨念も無しに急に襲った。村人に害が無かったとはいえそう簡単に許せるものじゃない。けど、アルムはそれを許した。それが今回の報酬だ。」
「つまり、イリスさんの所有権が今回の報酬と?」
「そういうこと。あと、無理に体を差し出そうとするな、俺だって男だ。本当に襲われたらどうする。」
「そのまま受け入れます。それが報酬ですから。」
「だー!そうじゃ無くて誰にでも報酬だとか言って体を差し出すな!分かったか。」
「は、はい。分かりました。」
分かればよろしい。
俺だって男だ。そういう気がない訳では無い。
ただ今はララの事とかメアの事があるから手を出さなかっただけ。
本当なら押し倒しているかもしれない。
俺は聖人君子じゃない。どちらかというと猛獣に近い。
そしてミミ達は俺を止める鎖。
ミミ達が居なければ鎖がない猛獣は大暴れだ。
「ナイトさんは優しいのですね。」
「.....人の話聞いてたか?もしかしたら襲われ出たかもしれないんだぞ?」
「それでも、助けた相手の事を考える人は少ないですよ。」
腐ってんなーこの世界。
俺はすぐにそう考えた。
****************
盗賊のアジトから財宝を運びだし。
今回の賠償として運び出した財宝の3分の1を村に寄付した。
「そう言えばナイト様。お米?という食べ物はよろしいのですか?」
「全然良くない。すっかり忘れてた。」
俺は再びアルムの元へ向かった。
話してて分かったことだがどうやらこの村の村長はアルムらしい。
他にアルム以上に歳をとっている人もいるがアルムが1番しっかりしてるから村長はアルムになったらしい。
ほんとにこの村大丈夫か?
「アルム。一つだけ。頼みがある。」
「なんでしょうか?。」
「毎回米が採れる時期なったらこの先のアルベスタにある。『リーフ商会』に卸してくれ。」
『リーフ商会』
メイド達が始めた商会で今はアルベスタでも一二を争う程の商会になっているらしい。」
メイドってなんだっけ?(哲学)
「分かりました。リーフ商会は有名ですからね。お米が採れる時期になったらリーフ照会に卸しますね。」
「助かる。」
ほんとにうちのメイドはどこを目指しているのか。
冒険者もいれば給仕する者もいる。そして商売。
そりゃ、3桁を超えているから人数はいるけどそれにしても多種多様過ぎる。
ほんとメイドって怖いね。(他人事)
アルムから契約を取り付けてミミ達の元へ戻る。
あ、ちなみにもうユミルには連絡済みだ。
────カトレアが。
「よし。この村も解決したし次の村に向かうか。」
「ガンドの村ね。あそこは畜産が盛んでいい牛とか豚が食べられるらしいのよ。」
と、うちの大食いモンスターが申しております。
でも、肉なら俺も興味あるな。
よし、次の目的地はガンドの村だな。
と意気込んだ時、メアから呼び出しの念話がきた。
それも、急ぎとのことだから俺はゲートで王都に戻った。
ミミ達には先にガンドの村に行ってもらうことにした。
「急に呼んでどうした。」
「ナイト!お父様が!お父様が!」
俺が王城に入るとメアが抱きついて来た。
「落ち着いて状況を説明してくれ。」
「夫が毒を盛られて床に伏しています。」
こんな状況でも冷静だったのはメアの母親リーネだった。
「夫はエルディアとの会食中にワインを飲んで倒れました。」
「?ならもう犯人は分かっているんじゃないか?」
ワインを飲んで倒れたのだから普通はワインを持ってきた人物が犯人だ。
「それが、ワインを持ってきたのは会食相手のエルディアなんです。現在エルディアとは外交の取引の途中でした。ですが、」
リーネの言わんとすることは何となく分かる。
エルディアは王国から見て真南にある、ミミの様な獣人が住み統治している国だ。
しかし、その国土は王国と比べてやはり小さい。
何が言いたいかと言うと。
国王を殺したところでエルディアには全く得がない。
という事だ。
だから、バルドに毒を盛ったのは別の誰かの可能性が高い。
「おや。女王陛下にリーネ様。お父様のご容態は如何ですかな。」
俺達が話していると奥から豚みたいに良く肥えた貴族が出てきた。
「非常にまずい状態です。しかし、ご安心をここに王国最大の魔法使いをお呼びしましたから。」
そう言うと豚貴ぞ...豚貴族は俺を睨んだ。
こいつが犯人じゃね。
国王が助かって困るのは現状犯人だけだからな。
「こんな、素性もわからない輩に国王を任せて大丈夫なのですか?こやつは王国に恩を売って女王陛下との結婚を迫るかも知れませんぞ。」
すると、リーネが答えた。
「ご安心をギーベルト子爵。そのものは私達王家が認めたメアの婚約者です。彼への誹謗中傷は王家を馬鹿にしているのと同等ですので以後口には気をつけなさい。」
流石女王の母親。
迫力が違う。
「う、ふん。そのものに毒が消せるか見ものですな。」
そう言って豚貴族は王城をあとにしようとした。
『転べ』
俺のオリジナルスペル。
前の世界でフェルテンに頼まれて作ったスペル。
相手を転ばすだけの魔法だが、これでフェルテンは女の子を転ばして合法的にパンツを見るという、くだらないことを始めたから即刻封印したスペル。
それをかけられた豚貴族は氷の上でもあんなに滑らないだろうというほど派手に転けた。
俺は必死に腹を抑えて笑うのを堪えた。
「今のはナイトが?」
メアの問に俺は親指をたてて笑顔で答えた。
さて、そろそろバルドに会わなきゃな。
「ナイト。こちらへ。」
メアとリーネに連れられて入った部屋には国王バルドが寝ていた。
「おぉ、ナイト。久しぶりだな。こんな態勢で済まない。」
俺に挨拶を交わすが容態は安全とは言えない。
顔は白く唇は真っ青になっている。
「ナイト。どうにかならないですか?このままではお父様が。」
俺の立場ってどうなってるんだろうね。
傍から見れば王族がただの冒険者に国王を助けてくれと頼んでいる図だ。
違和感が凄い。
『リフレッシュ』
俺はバルドに手をかざしてそう唱えた。
『リフレッシュ』は対象の状態異常を完全に消し去る魔法だ。
「あなた!」
「お父様!」
「おー!コレは凄い。さっきまで苦しかったのが嘘みたいだ。」
バルドは手を握ったりして快調な様子だ。
「ナイト。ありがとうございます。」
「お礼を言うのは犯人を見つけてからだろ。」
「犯人探しまで。それは悪いですよ。」
だったら俺のコートの裾を離して欲しい。
「会食場はそのままか?」
「えぇ、ワインは検査のため無いですが他はそのままですよ。」
俺は事件現場に向かった。
会食会場は中央に丸いテーブルを置いただけのシンプルな場所だった。
早速[神眼]で見渡す。
はい。犯人分かりました。
「犯人が分かった。関係者を全員ここに集めてくれ。」
「「「「「「早!」」」」」」
ま、そうなるよな。メアとリーネ含めここに来ていた全員がそう言った。
[神眼]があれば余裕だ。
数分後会食の場にいた人が集まった。
「さて、国王に毒を盛った犯人だが当然この中にいる。」
「それは、ここにいる国王を殺め王国の実権を握ろうとした愚かな獣人風情でしょう。」
かくいう獣人の方は女の子でカトレアと同じ猫の獣人だった。
「私はそんなことしてません。信じて下さい。」
しかし、性格は真逆で常におどおどしている。
あ、あと豚貴族がなんかいってらー。
無視無視。
「大丈夫。君は犯人じゃない。」
俺が言うと猫耳の子はホッとした様子だった。
「しかし、国王は獣人が持ってきたワインを飲んで倒れたのですぞ?」
「だから?それだけじゃワインに毒が入っていったなんていう証拠にはならない。」
「ほう。この獣人に惚れましたかな?」
「馬鹿言え。んな訳あるか。」
事件を解明する側がどちらかに傾いてはならない。
鉄則だろうに。(前の世界での決まりだがな。)
「で、本題の毒はどこから来たのかということ。」
まぁ、これは実際にやった方が早い。
「ここにその子が持ってきたワインがある。」
俺はそう言うとワインをグラスに注いで一気に飲んだ。
この場にいた全員があっと声を出す。
何故猫耳の子まで声を出す。
猫耳の子は分かるだろ。
「何ともない。つまり、ワインには毒なんて入ってないということが証明された。」
なら、毒はどこから来たのか。
全くこの計画は穴が多すぎる。
杜撰とも言うべきか。
もっと練って欲しかった。
「毒はこのグラスについてたんだよ。そして、このグラスに触った人物が犯人だ。」
「しかし、グラスには私以外触れて無いはずだ。」
「それは、会食が始まってからだろ?」
「む、そうだな。」
「犯人は会食が始まる前に毒を仕込んだんだよ。」
「で、毒を仕込んだのはあんただよ。豚野郎。」
俺に指を刺されて不敵な笑を浮かべる豚貴族。
「それは、不可能ですね。」
「何故?」
「私が来た時にはもう既に準備がされていて獣人が先に来ていましたからな。」
俺が目線でそうなのかと尋ねるとコクンと頷く猫耳。
しかし、そんな言い訳をすることぐらいお見通し。
「いやいや。別に毒でやられるのは国王じゃ無くても良かったんだよ。」
「それはどういう事かね。」
「毒で死ぬのは誰でも良かったんだよ。猫耳の子のワインで会食に来ていた誰かが死ねば少なからず国王はエルディアとの外交を辞めるまではいかなくとも延期するだろう。それも、年単位でな。そしたらエルディアは延期された分苦しむことになる。そこに救いの手を差し伸べてそこから徐々にエルディアを破滅させて自分の領地の一部にでもするつもりだったんだろうぜ。」
「毒を仕込んだのは恐らく昨日の深夜。プロに依頼すれば夜の王城に忍び込むなんて分けないからな。」
俺は更に畳み掛ける。
「それにあんたは毒付きグラスを取らないように持参のグラスを持って来ている。それが何よりの証拠だろ。」
「そ、そんなの貴様が獣人と結託すれば済むことだ。これもなにか仕組まれた茶番だろ!」
な訳あるか。
こっちは今日会食があること自体知らなかったよ。
見苦しい言い訳だな。
「うむ。ナイトの主張は一応筋は通っている。」
「ギーベルト子爵。真実を言うなら今のうちですよ。」
メアの両親から2コンボ。
「俺はやってない。俺はやってない!」
豚野郎が懐からナイフを取り出し、メアを襲おうとした。だから一瞬で移動して腹パンで沈ませる。
「よし。これで女王への不敬罪で連れていけるな。」
「まさか、最初からこれが狙いで?」
「いや、もしかしたらそうなるかなって言うのは予想はしてた。」
「ホント、ナイトをメアの婚約者にして良かったと心から思うわ。」
「それは、買い被りすぎだな。俺はそこまで高尚な人間じゃない。」
兎も角にも。
犯人が不敬罪で連行されて一軒落着。
「あの、ありがとうございます。私のワインで倒れたと聞いた時にはもうダメかと思いましたよ。」
「自分が毒を盛ってないなら自信をもて。あんまりおどおどしてるとつけ込まれるぞ。」
「すいません。気をつけます。」
別に怒ってないけどさ。
損する性格は絶対にある。
性格なんてきっかけさえあればいくらでも変われる。
「ナイト。ご苦労様です。お陰でお父様は助かりました。」
「あぁ、気にすんな。あの豚野郎が気に食わなかったからちょっと悪事を暴いただけだからな。それも、俺個人の恨みだし。」
「それでもありがとうございます。」
俺は頬に柔らかい物が当たる感触を覚えた。
俺は女王、メアからキスされていた。
「では、私は公務があるのでこれで。」
「お、おう。」
俺はこう返すのが精一杯だった。
今回予想以上に長くなってしまった。