98話 『奇跡の女神、──』
この話から15日・16日・17日と3話連続で投稿されます。
いきなり今までのペースを乱し申し訳ございません。
エピローグまで連続で読んでいただきたいという作者の思いでこうなりました。
最高神との戦いは実に面白いのものだ。
キーン。
俺とゼウスの戦いは高次元の戦いだ。
お互いが全力で動けば常人にはただ武器がぶつかる音がするだけの光景。
お互いがお互いの力をフル活用して挑む戦い。
「速さは中々だ。」
「そりゃどうも。」
全速力で動いている俺に対し不動のゼウス。
背後に周るが右手の片手剣で防がれる。
盾も硬く俺のエルシオンですら弾かれる。
黒い方の剣は攻撃力こそあれど貫通力はない。
当てても弾かれるのが関の山。
「お前硬すぎだろ。」
少し、呆れ気味な声になってしまった。
「オレの盾は《無秩序の盾》だ。秩序を乱すルシファーにはピッタリの盾だ。」
「んじゃ、剣は《断罪の剣》か?」
「あぁ、正解だ。」
ゼウスとルシファーとの戦いで使われる剣だ。
ルシファーはこの断罪の剣で斬られて堕天使となる。
しかし、俺は既に堕天使の身だ。剣の効果はない。
「しかし、分からないな。」
「なにが。」
「ルシファー。なぜ本気で来ない?」
「これでも本気なんだよ。」
「嘘だ。ルシファーの力はこんなもんじゃなかった。」
そりゃそうだ。
今の俺には鍵がかかってる。
その鍵を解かない限り俺はルシファーとしての能力は使えない。
『縛られるは無秩序なり。』
ゼウスの後から聞こえた詠唱。
オシリスが俺に直接魔法をかけた。
俺の体を光の鎖が縛る。
呪縛系の魔法。黒魔法のひとつだ。
「最高神様!今です!」
チャンスとばかりに突っ込んでくるゼウス。
単調だ。
「ふっ。効くかんなもん!」
俺は鎖を吹き飛ばしゼウスを迎撃する。
「なっ!」
「ほう。今の魔法を無効化するか。」
「生憎、俺は縛られるのは嫌いなんだ。物理的にも精神的にもな。」
この性格によって出来た能力。
《自由》
ありとあらゆる拘束を無効化する能力。
俺を縛っているのが麻の縄だろうが鉄の鎖だろうが俺からしてみれば縛られてないも同然なんだ。
エレシュキガルの門の能力を無効化したのもこの能力だ。
「そういうとこは、似ているな。」
俺じゃないルシファーは自由人だったのか。
何となく分かる気がする。
この戦い、互いに回復しながらの戦いだから正直消耗戦だ。
この場合、ミミの方が魔力消費が激しい。
ミミの魔力が切れた時点で俺たちの負けは確定する。
ルシファーとしての能力が使えればミミへの負担も和らげることが出来るが今の俺では今の状況で精一杯。
俺とゼウスの戦いは膠着状態が続いていた。
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情けない。
そんな感情が私を支配する。目の前で主が戦っているにも関わらず従者である私はただ回復させることしか出来ていない。
この戦いでは回復は非常に重要だけど私に出来るのは回復のみ。
強化のバフなどはかけることができない。
私の魔力ではナイト様を強化できるほどの強化バフをかけることができないのです。
それ故に私は自分が情けないと思ってしまうのです。
私にもっと魔力があれば...。
ナイト様と同じ神性があれば...。
私にナイト様と戦える力があれば...。
無いものねだりをしても仕方ないこと、今はナイト様を回復させることに集中しなければいけない。
(『我が求むは原初の神なり。全てを凌駕しここに現界せん。』)
突如として浮かんだ詠唱文。
どの色にも属さない魔法詠唱。
聞いたことのない詠唱文。
原初の神?
この世界が出来た時にいた神。
ゼウス?
いや、違う。もう一人いたはず。
『堕天使、ルシファー』
この状況を打開する魔法が今浮かんできた魔法なんだと思う。
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『我が求むは原初の神なり。全てを凌駕しここに現界せん。』
聞いたこともない詠唱が背後から聞こえた。
と、体にある違和感を覚えた。
疲れがスッと引いて体の中に空白ができたような感覚。
感覚で分かる。
今の状況を客観的に見ると、鍵と鍵穴がある状態。
後は、鍵を差し込んで回すだけ。
俺は回す作業をした。
『神性解放。我が名は、熾天使ルシファーである!』
堕天使ではなく、熾天使。
天使には九階級ある。
天使、大天使、権天使、能天使、力天使、主天使、座天使、智天使、熾天使。
というように階級がある。
堕天使であるルシファーは最高神ゼウスとの戦いによって、力の半分を失ってしまった。
それでも他の神よりは神性は高いが最高神を相手取るには完全な状態でなければならない。
なら、堕天使ではなく熾天使のルシファーのほうが戦いやすい。
「やっとか。ルシファー。」
「あぁ、待たせて悪かった。これで本当の本気が出せる。」
一か八かの大勝負。
失敗すれば、魔力不足で負ける。
『神聖なる審判者よ。この戦場に審判を!』
カトレアと一緒の探し神話であった記述。
堕天使、ルシファーとゼウスの戦いを仲裁した神がいたという記述。
まぁ、神話なんていうのは人類が書いた後付けの物語だ。
しかし、その神が身近にいたといたらどうだろう。
俺が放った魔法に反応した時点で俺は確信していた。
背後にいるミミに変化があった。
「ナイト様...なにを...。」
「ミミの体は神性を持とうとしている。今は苦しいと思うけどすぐに楽になる。」
ミミと話していると背後から殺気。
「させると思うか?その獣人がアノ方とは思わなかった。」
「俺も今知ったことだ。」
「一か八かの大勝負にでたわけか。」
「そのほうが盛り上がるだろ?」
俺はゼウスを吹き飛ばし迎撃態勢にはいる。
今度は俺が守りに入る番だ。
ミミか完全な状態になるまで守り抜く。
ゼウスの盾剣での物理攻撃は吹き飛ばし能力に長ける。
盾が俺の胴体くらいかそれ以上あるからゼウスは剣で斬るより盾で押してくることが多い。
だったら、迎え撃つのは己がこぶし。
身体強化を重ねがけし、剣にも負けない拳を作り上げる。
拳という分野ではゼクスの方が上手だ。
だから、あまり立ち回りとか上手くはないがそれでも大切な人を守り抜くことくらいは出来る。
ゼウスは盾を目の前で構えてそのまま突進してくる。
それを、腰を落として重心を下げ自分のタイミングで正拳突きを放つ。
古来より正拳突きというのは拳を使った武術では1番攻撃力があるとされている。
それは、誰でも出来るという点から来ている。
腰を落として前に拳を突き出すだけで相当な威力を持った攻撃が出来る。
俺の拳を直撃した盾は少し凹んだ。
「オレの盾を凹ますとは相変わらずの無茶振りだな。」
「力には自信があるんでね。」
「次は負けん。」
今度は腰に剣を帯剣した状態で突っ込んできた。
槍兵なんかがやる突撃作戦だ。
正拳突きで対処しようとすると今度は剣が出てきて串刺しという最悪の状態となってしまう。
だが、
「同じだって!」
また正拳突きで迎撃。
すると、予想通り剣が出てきた。
これを左の拳で弾き返した。
これで避けてしまったら何のためのこぶし強化なんだという話になる。
「馬鹿力が!」
「ほら、来いよ。」
ゼウスが走り出すのとほぼ同時。
『英雄作成!』
その言葉を聞きゼウスは大幅に後に下がった。
危機察知はお手の物か。
『英雄作成』
ミミの能力。
いや、正式に名前を呼ぼう。
『奇跡の女神、ミミ』
ミミという名前はそのままつけた名前だ。
それより、前の『奇跡の女神』というのは今のミミの能力によりついた名前だ。
今のミミは俺と同じ熾天使の座に着き魔法については熾天使ルシファーをも凌駕する程の神性を持っている。
これで対等な戦いが出来る。
「行くぞ。最高神ゼウス。俺達、熾天使の力を思い知れ。」




