97話 最高神と堕天使
皆、それぞれ神を押しているようだ。
シェリーなんかは勝ったと報告があった。
ほかの奴らはまだ戦ってるようだけど負けることはないと確信している。
理由は、負ける要素がない、から。
適材適所で当たっているため相手が相当予想外なことをしてこなければ勝てる。
1番心配だったシェリーが勝ったんだ、他の連中が負けるわけない。
今も周辺のあちこちで剣と剣がぶつかる音、魔法が爆発する音、なにかの詠唱が聞こえる。
音だけ拾えば地獄絵図のようなこの戦場。
この地獄絵図な戦場にまだいない人物がいる。
この神々の遊びを始めた張本人。
俺が倒さなきゃいけない相手。
最高神がまだ出てきていない。
俺とミミは少し開けた場所で立ち止まっていた。
「お前が言う通り来てやったぞ!」
誰もいない広場で俺は叫んだ。
「『来てやった』か。オレ相手でも臆しないその精神。賞賛に値するな。」
俺の言葉に答えたのは天からの声だった。
俺とミミは空を見上げた。
そこに居たのは、白いマントを羽織った青年。
《最高神、ゼウス》だった。
この世界のゼウスと戦うのは初めてだが最高神と言うからには相当強力なのはずだ。
今から楽しみで仕方ない。
「『美の女神、イシュタル』は俺の仲間が討ちとった。そのうち、他の神も倒せる。」
「神相手に遅れを取らんとは準備は万端のようだな。ルシファー。」
「当たり前だろ。お前の慢心が招いたことだ。恨むなら自分を恨め。」
「そうだな。今後反省せねばならんな。」
「で?ちゃっちゃと殺し合うか?」
「せっかちなのは変わらないな。」
「俺じゃないルシファーのことか。」
「まぁ待て。こうして出会ったのは寂しいが少しばかり話をしよう。オレとしても全力のルシファーと戦いたいのでな。」
「同感。」
まだ『再生の神、オシリス』が出てきてない。
なら、役者が揃うまで待つだけだ。
「ルシファーは、人間と過ごしてきてどうであった。」
「楽しい奴らだ。誰がとかじゃなくてこの世界に暮らしてる全員だ。」
「ほう。なにがあったか話してくれるか。」
「話すことなんて何もねぇよ。ただ些細なことで喜び、他人のことを自分のように喜ぶ。この世界の住人はそういう奴らだ。」
旅をしていた俺なら分かる。
どこの土地にも笑顔があった。
すべての笑顔が幸せの笑顔かどうかは怪しいところだがそれでも笑顔だった。
俺がモンスターフェスを止めた時だって3日くらい騒いでたし、ドラゴンの時なんて丸々1週間お祭り騒ぎだったほどだ。
それくらい、1日1日を全力で生きてる証拠だ。
「俺からも聞こう。」
「なんだ。」
「お前はなんで人類史の白紙化なんて考えた。」
「自分と思っていたのと違ったからと言えば分かりやすいか。」
「ったく。子供じゃねぇんだから少しは考えろ。自分で勝手に作って置いて気に入らないから、はい、壊します。って孤児院の子供ですらやんねぇぞ。」
「そんなことは分かっている。オレが身勝手なことも。」
「なら、」
「だが、辞めることはできない。」
俺の言葉を遮ってゼウスは続けた。
「人類を滅ぼすのにどれだけの力が必要だと思う。」
「考えたこともないな。」
「ルシファーがこの世界に来た時点でオレは知っていた。その時にはもう人類を滅ぼすための力を蓄えていた。」
「ルシファーが来たなら当然戦闘は避けられない。なにが言いたいか分かるか?」
「お前はただの時間稼ぎでしかないと。そういうことだな。」
「あぁ、正解だ。見ろ」
ゼウスは上を指さす。
神界から覗くのは大陸を覆い尽くす程の魔法陣の片鱗。
魔法陣を見るに複雑な魔法を使ってる。
いくつもの条件を満たさないと発動しないようになってるんだろ。
「オレの魔力で作ったものだ。あれから出る光線は全てを焼き付くしこの世界は諸共消え去る。」
「また思い切ったな。」
「ある意味の保険だ。」
あれが発動したら多分俺でも止められない。
素直に焼かれるしかない。
「いくつもの魔法を組み込んだ特別製だ。オレが死んでからじゃ解除するのは不可能。例えルシファーでも魔力切れで倒れるのがオチだ。」
ほう。言ってくれるじゃん。
意地でも解いてやるよ。
「にしても、お前の相方遅くね。」
ゼウスが出てきてからもう数十分は経ってる、その間に出てくるかと思ったが…。
「女を急かせるなよ。どんなときも万全で望むのが彼女のいいところだ。」
.....どうせボロボロになるじゃん。
ゼウスとルシファーの戦いを甘く見てないか?
少なくともこの辺の原型は留めないと思うが?
「お待たせ致しました。最高神様。」
と、出てきた。
と言うより落ちてきた。
「役者は揃った。始めようか。堕天使、ルシファー」
「望むところだ。最高神、ゼウス」
ミミを後に下がらせ愛剣2本を構える。
黒と白の魔剣の状態は万全。
俺の感情も昂っていてエルシオンの切れ味はその場の空気さえも切り裂く刃と化す。
ジリジリとした気配が肌を擦る。
一瞬の油断が命取りな戦い。
ゼウスと話してる間にゼクス、カトレア、イリスから勝ったと報告があった。
後はジルだけだがなんかさっきジルの叫び声が聞こえたから多分勝ったんだろうな。
ゼウスと睨あってお互いに前に一歩踏み出す。
そのまま、中心で切り結び一旦離れる。
「さすがゼウス。並大抵の剣術じゃないな。」
ゼウスの武器は、イリスと同じ盾剣。
しかし、その硬さはこの世のものとは思えない硬度を誇っていた。
俺のエルシオンですら弾いた盾。
黒い方の剣と同じくらいの重さの剣。
武器の性能はほぼ同格。
後は、己の力のみの勝負となった。
俺とゼウスは真ん中で鍔迫り合いをしていた。
「我ら神の剣技を侮るな。」
「もとより、そのつもりだ。」
引き際に何発か剣が当たるが全く手応えがない。
かくして、最高 VS 最強の戦いが始まった。




