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95話 シヴァ VS ララ

『光よ我が手に!』

『光よ神界に轟け!』


私とパールバティの黄魔法がシヴァ目掛けて飛んでく。


「無意味なり。其方ら人間がどうにか出来る相手ではないと知れ。」

しかし、シヴァの一撃により打ち消されてしまう。


『破壊の神、シヴァ』との戦いは、魔法勝負になりつつあった。

『破壊』の二文字を冠するだけあってシヴァの攻撃は一撃必殺の強撃だった。


なんとかシヴァの攻撃はカスピエルが抑えてくれてはいるが彼女もそろそろ限界が近い。


シヴァは狂化のスキルによって妻であるパールバティのことは忘れてしまっていた。

パールバティが呼びかけても『知らん』の一点張り。


パールバティとしても夫を殺すのは多少気が引けるようだった。

こちらは、積極的に攻撃ができない。

相手は容赦なく攻撃してくる。

この時点でもう勝敗は決まったようなものだった。


「其方らは何故戦う?大人しく従えば人類はさらなる高みえと上るというのに。」

「その過程が間違っているからです。」

「そうですね。例え高みに上てもその過程で大切な人と離ればなれになってはなにもうれしくないですから。貴方もそう思いませんか?」

「思わぬ。自分が更なる高みになればその大切な者を守れると考えている。」

「今の惨状を見ても同じことを言いますか。」


パールバティは今にも泣きそうな声で語りかける。


「さっきから意味の分からんことを言うがなにが言いたいのだ。」

「私は貴方の妻で貴方は一生守ってくれると誓ってくれました!それなのに、今はこうして戦っている。これでも意味が分かりませんか。」

「全くわからない。其方が妻という記憶がないのだ。信用できない。」

「そんな...。」


パールバティはその場で座り込んでしまった。


私は婚約者の立場ですがナイトさんに同じことを言われたら私は絶望を禁じ得ません。

好きな人に忘れられて殺されようとしている。

パールバティからすれば今の状況は最悪の状況と言える。


「貴方の大切な人は誰ですか?」

「いきなりなにを言い出す。」

「貴方は大切な人を守るために今の高みに上った。なら、貴方にの守ろうとしたものがあるはずです。それは誰ですか。」

「......わからないのだ。さっきも言ったであろう、記憶がないと。」


ダメだ。記憶がないのでは話にならない。


(こんな時、ナイトさんならどうするでしょうか。)

あの人も大分鈍い所はありますがこういう時には適切な判断が出来る人です。

だから、ナイトさんはどうするか考えれば自然と答えは出るはず。


「其方らは我の敵だ。よって殲滅するのみ。」

「させるかよ!」


カスピエルが必死に食らいつく。

「言っただろ!後ろに攻撃するならまずは前の敵から倒さなきゃ刃すら届かないと!」


カスピエルの大剣は両刃剣で真ん中に持ち手があってその両端には刃がついているという常人では持ち上げることすらできない武器です。

刃が多く重い代わりに攻撃もチャンスは増えます。

カスピエルは大剣を振り回して私達に攻撃がいかないようにしてくれていた。


「オレは色恋沙汰には全く縁がないが忘れられた奴の気持ちくらいオレでもわかんだよ!」

『大剣よ我が声に呼応せよ。』


カスピエルも大剣に黄魔法が帯び始める。

「オレが時間を稼ぐ。お前らは作戦でも考えておけ。」


そういってカスピエルは突っ込んでいった。


作戦、といってもこの人数で出来る作戦は限られてしまう。

相手は神、生半可な攻撃は通じない。

シヴァと同じ神のパールバティはほとんど放心状態。

カスピエルは交戦中。


この混乱状態の状況で出来ることなんてない。

と、思っていた。

1つだけ出来ることがある。


シヴァは狂化して記憶を失っているが自我がないわけじゃない。

なら、その失った記憶を思い出せば倒すことなく勝てる可能性がでてくる。

しかし、今この場にいる3人で能力を封印できる人はいない。


「お困りですかな?プリンセス。」

声のしたほうを向くと白いマントを羽織った男の人が立っていた。


「貴方は...。」

「失礼申し遅れました。『忘却の神、レーテ』と申します。ルシファー様から要請があり参上した次第です。」


レーテと名乗った神は零寧にお辞儀をした。


「ルシファー様から、『俺の仲間を助けてほしい』と念話が来たものですから。これと言って特技はありませんが『忘却』の名に恥じぬ戦いをしましょう。手始めに」

『忘却とはそれすなわち無限の根源なり。彼の者に忘却の恵を。』


レーテはカスピエルに向けてなにかの魔法を放った。


「うおおおおおおおお!なんだこれ!力が漲る、疲れが取れた!」

シヴァと交戦して疲弊していたカスピエルは叫ぶ。


「なにをしたんですか?」

「彼女の疲労を忘れさせただけです。あくまで忘れているだけなので実際は疲れているのですがね。」

「私の力は、その名の通り『忘却』。なにかを忘れることが私の力なのです。一種の催眠術ですね。」


「それって、なんでも忘れることが出来るんですか?」

「えぇ、なんでもできます。ただ、自己暗示が強かったり思い込みが激しい場合、一瞬忘れますがすぐに忘れていたことを思い出してしまうのであまり効果がありませんね。」


これなら行けると私は確信しました。

なんでも忘れられるなら、忘れていたことを忘れて白紙に戻すことだって可能ということです。

なら、シヴァには『パールバティの事を忘れていた』ということを忘れてもらいましょう。


乙女の純情を忘れた罪は大きいですよ。


「レーテさん。お願いがあります。」

「なんでしょう。」

「忘れていたことを忘れさせてほしいのです。」

「構いませんが誰にかけましょう?」

「あそこで、暴れている男神に。」

「!わかりました。しかし、同じ神が相手となると詠唱に時間がかかります。時間稼ぎをお願いできますかな?」

「分かりました。」


レーテさんが一瞬恐怖ともとれる表情をしたのはなぜでしょう。

私は勝てることを喜んでいるだけなのに...。

あ、でも前にナイトさんに『ララは色恋沙汰になると笑っても目が笑ってない』と言われたことがありましたね。

今もそんな感じなんでしょうか?

まぁ、乙女の純情を忘れた神にはお仕置きが必要ですよね。


「カスピエルさん。助太刀します。」

「助かる。こいつさっきから全然攻撃が弱くならない。気をつけろよ。あんたが喰らえば一撃で骨持ってかれるぞ。」

「大丈夫ですよ。私はお仕置きする側であってされる側ではないんですから。」

「?ならいいが。」


シヴァの攻撃は強撃も強撃ですが当たらなければ意味を持ちません。

ナイトさんが言っていたことです。


無理に攻撃して被弾したのではシヴァが倒れるより私が死んでしまいます。

それなら、すべての攻撃を避ければいいのです。


ナイトさんほど、運動神経はよくはありませんがナイトさんのそばにただいただけではありません。

避けるのは難しいですが、カスピエルさんが攻撃を弾いてくれるおかげで被弾はせずに避けられました。


「もういいですよ。下がってください。」

私とカスピエルはレーテの合図で下がりレーテはシヴァに忘却の魔法をかけました。


『深淵に潜む過去の残像』

「うぐッ!」


シヴァはその場で崩れ膝をついて頭を押さえて苦しみ始めた。


「ふむ。かなり呪い的なものがかかっているようですね。私の能力を弾こうとしています。」


「我は、いや、俺は。なにを。」

「パールバティ。語り掛けるなら今しかないですよ。私の能力が二度効くほど神は甘くありませんからな。」

「!シヴァ!私よ!あなたの妻、パールバティ。思い出して!」

「パール。なんでここに。俺はなにを」


「あの調子なら大丈夫そうですね。お二方が魔力を削っていたお陰ですね。」

「いや、めちゃしんどかったぞ。お前は詠唱してたから知らないかもしれないけど。」

「詠唱中もよそ見くらいならできるので見ていましたよ。見事な身のこなしでした。おっと、時間のようですね。」


レーテの体は指先から光の粒子となりつつあった。

「私はルシファー様に召喚された存在なので期間限定の助っ人なのですよ。まぁ、ルシファー様は私自体を危惧したようですが。」

「「?」」


「実は、私は『忘却』を司ると同時に『誘惑』を司る神なんです。だから、私がこのままプリンセス達を誘惑しないか心配したのでしょう。」

「わ、私はそんな誘惑に乗りませんから!」

「ははは。私は『誘惑』を司るのですよ?どんなに相手を思っていてもその時だけは私を好きになってしまうというものですよ。」


私は反射的に胸を両手で覆った。


「ご安心をルシファー様の監視下でそんなことしたら即刻殺されてしまいますから。」


監視下じゃなかったらやるつもりだったんだ。


「それでは、さようなら。また縁があればどこかで。」

レーテは光の粒子となって消えていった。


「パールバティさん。シヴァの様子は...。」

「寝てしまいました。」


パールバティは笑顔でそう言った。


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