92話 イシュタル VS シェリー
ビュン。
ビュン。
ドカーン!
放たれた矢と矢が空中でぶつかり爆発する。
『美の女神、イシュタル』との戦いは想像をはるかに超える程に過酷だった。
「へぇ、人間のくせに中々やるじゃない。」
「ちょっと想定外なこともあったけどね。ナイトといれば慣れるわよ。」
どんな想定外なことでもナイトなら普通にしそうなことばかりだった。
さっきの矢の爆発だって弓矢自体に魔力を注いで矢を射る必要がある。
それを、強撃としてイシュタルは放っていた。
ナイトが弓矢を使ってるところは一度も見たことがないけど、ナイトなら爆発どころかこの辺の森を貫通させそうだもん。
矢を木々に負けないように頑丈にするのは並大抵の魔力じゃ途中で折れたりしちゃうからほぼ不可能に近い。
「ナイトって、さっき走っていた男の事よね。彼からはもの凄い力を感じたわ。ぜひとも欲しいのね。だから、貴方は死んで。」
イシュタルの目が変わって空中にいくつもの弓矢が現れた。
「マアンナ。彼女を射抜きなさい!」
いくつもの弓矢が私目掛けて放たれる。
その内何本かは落とすことが出来た、しかし数本落とした程度では死は免れない。
(ごめんね。ナイト。)
私が死を覚悟したその時、千を超える矢がイシュタルの放った矢を相殺した。
「諦めるな。人間。あの馬鹿に負けるなど大馬鹿者と言っているようなもんよ。」
背後から聞こえてきた人を馬鹿にするような声。
外見だけ言えばナイト見たいだった。
碌な装備は付けず手には弓矢が持たれているだけだった。
「あんた!なんでここに!」
「ふん。神の王たるこの俺様を放っておいてなにが神々の戦いか。呆れすぎて愛想笑いも出来ない。」
「英雄王、ギルガメッシュ。」
ナイトから聞いていた人物がそこにいた。
『多分、イシュタルと戦ってたら偉そうなやつが来る。そいつは俺達の味方だ。そいつと一緒にエレシュキガルのとこまで誘導してくれ。』
前にナイトがこう言っていたのを思い出した。
英雄王、ギルガメッシュ。
半人半神の体を持つ英雄。
ナイトの説明では、イシュタルと深い関係があると言っていたけど、詳細はナイトに聞かないと分からない。
「あの男。この俺を英雄王と言っていたとな?」
「あ、はい。」
「ふん。中々に見る目があるじゃないか。異端人というのが信じられないな。」
なんか、王様って言われてめちゃくちゃ上機嫌になってる。
「馬鹿をとっとと処理してあの男の元に行くぞ。」
ギルガメッシュは手に持った弓を射った。
「金ぴか王様になんか負けるわけないでしょ。」
イシュタルも弓を射る。
神同士の高次元な戦いが目の前で行われていた。
「なにをしている。貴様も手伝え。」
ギルガメッシュにそういわれ私も参戦する。
飛んでくる矢を落としては射って射っては移動してを繰り返す。
それで、エレシュキガルのところまで誘導する。
多分、私一人だったらちゃんと追ってもらえなかったと思う。
ギルガメッシュが来たから、イシュタルも追わざる負えなくなった。
負わないと馬鹿にされるから...。
「さっきからあたってないぞ、大馬鹿者。」
「そっち、2人でしょ!」
「神がなにをいうこと思えば、最高神の恩恵を受けている貴様はたった2人の人間相手に苦戦しているのだぞ。恥を知れ。神の面汚し。」
プチ。
そんな音が聞こえた気がした。
いや、実際は音が殺気となって伝わってきたんだ。
明らかにイシュタルは怒ってる。
「いいわ。私を怒らせたこと後悔させてあげる。」
『我が光は闇をも照らす天の光。我が天聖をくらいなさい!』
イシュタルの矢が大きくなり数もいままでの倍にまで増えた。
「ふん。一か八かの大勝負とは馬鹿丸出しだな。」
『財なる物は我が手に。』
ギルガメッシュの周りに魔方陣がいくつも出来ていく。
「下がれ、人間。貴様が死ねば俺があの男に殺される。」
私は木の陰に隠れた。
「くらいなさい!金ぴか!」
「望むところだ!馬鹿者!」
イシュタルの攻撃とギルガメッシュの攻撃がぶつかり合う。
互いに互いの攻撃を相殺、ほんの少しの隙に狙う。
「チッ。恩恵がめんどくさいな。」
「人間。後は、貴様に任せる。俺じゃ、太刀打ち出来ない。」
「え、でもさっきまでいい感じにやり合ってたんじゃ...。」
「あほ。あれは、一瞬の攻撃だ。後は、エレシュキガルと貴様に託す。負けたら俺の顔に泥を塗ったとして火刑に処してくれるわ。」
ギルガメッシュがそう笑うと、辺り一帯に大きな穴が開いた。
「冥界への扉だ。俺はこの先には行けない。そういうからだをしているからな。」
「行ってこい。」
「え、」
ギルガメッシュに押されて私は深い冥界に落ちていった。
「貴様との遊びはここまでだ。俺は帰る。」
「なに、さっきの攻撃で怖気づいたの。」
「やはり、貴様は大馬鹿ものだ。」
「なんですって。」
「この戦いの主役は俺じゃない。あの男だ。なら、脇役は大人しく出ていくまでだ。」
その時、イシュタルに向かって鎖が伸び、イシュタルに絡む。
「な、なにこれ!ほどけない!」
「はっはっはっ!俺の戦友を忘れていただろう!」
ギルガメッシュの戦友、エンキドゥ。
ギルガメッシュの暴走を止めるために神々が作ったに土人形。
「おぼえてなさいよ!」
イシュタルは深い冥界へと落ちていった。
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「あいててて。もう!なんなのよ、あの王様は!」
いきなり突き落とすことないじゃない。
「あなたがシェリー?」
後ろから声を掛けられ振り返ると私がいた。
「影武者。」
「ナイトにも同じようなこと言われたわ。」
「まぁいいわ。私はエレシュキガル。冥界の主よ。」
「貴女のことはナイトから聞いているわ。」
「で、妹はどこかしら。」
「見たところいないみたいだけど...」
「彼女ならもうすぐきますよ。」
「エンキドゥ。貴方も来てたのね。」
「えぇ、といっても僕の能力は戦闘には向いていないのでここらで退散させていただきます。」
エンキドゥはそういうと空高く飛んで行った。
と、その時、一本の矢が私達めがけて飛んできた。
それを相殺する。
「あら、イシュタル。久しぶりね。」
「会いたくなかった。」
姉妹のはずなのにここまで仲が悪いなんて。
「シェリー。悪いけど、私は死者以外には手を出せないの。だから、イシュタルとシェリーの一騎打ちよ。」
「そんなの聞いてないわよ。」
「ナイトにはちゃんと言ったんだけどね。」
恨むわよナイト。
「また、貴方が相手?さっきの金ぴか王に遅れをとるようじゃ私には勝てないわよ。」
『冥界に入りせし侵入者よ、今すぐ立ち去るがいい。』
『冥界に入りせし魂よ。我が寵愛をその手に。』
エレシュキガルは私とイシュタルで違う能力をかけた。
「あれ?マアンナが展開出来ない。」
「当たり前でしょ。ここは私の領域あなたの権能は封じさせてもらったわ。」
「その代わり、シェリーには大量のバフをつけたわ。」
確かに体が軽い。
「そんなもんで私を倒せるとは思わないことね。」
イシュタルはおもむろに射る。
チュン。
私が放った矢がイシュタルの頬にかする。
その後も地上でやったことの繰り返し、一つだけ違ったのはイシュタルの勢いが明らかに落ちていたこと。
「そこ!」
「させない!」
「ちょこまかと。」
「あぐっ!」
イシュタルが放った矢が私の脚に突き刺さる。
「これで、動けないでしょ。動かない得物を仕留められない程神性は落ちてないわ。」
だめだ。動けない。
今まで、イシュタルの矢が掠りこそすれど直撃はなかった。
ここまで来て死ぬわけにはいかない。
私は動かない脚を引きずって岩影に隠れる。
私に魔法適性はない。
よって、回復も出来ない。
ビュン。
ビュン。
「その子を殺すの待った。」
上空から聞こえた、男の声。
「あなた誰。」
「アーラシュというただの弓兵だ。」
アーラシュと名乗った人はイシュタルと対峙していた。
「ただの弓兵が神に逆らうの?」
「ただの弓兵だから逆らうのさ。失うものがないからな。」
「まぁ、俺の一撃をくれよう。あんたのために残した俺の能力。」
『創世の星々に届け!』
アーラシュの速射。
これには神でも反応は出来ないでいた。
着矢。そして、爆発。
「ゴフッ。どうだ...少しは...効いたか。」
アーラシュ。
記述で呼んだことがある。
戦争を止めるために放った矢は長い間飛び、戦争を終戦に導いたと。
そのとき、アーラシュの体はバラバラになったと。
「捨て身とは弱小種族のやることね。」
「少しは、やる気になった?」
私はイシュタルを精一杯に睨んだ。
私は私のこの性格が嫌いだ。
表では強がっていても内心は、怖がりで一人ではなにも出来ない。
現に、今だってギルガメッシュやアーラシュの助け合ってのダメージ。
私自身が攻撃したのはさっきの一撃だけ。
イシュタルをナイトから頼まれ承諾したのは私。
もう、誰かの足を引っ張るのは嫌だ。
「もう、大丈夫。思う存分やりましょう。」
私は脚が動かないことも忘れてイシュタルと撃ち合う。
当たるギリギリで避けて反撃、魔力で作った矢がイシュタル目掛けて飛んでいく。
イシュタルはそれを撃ち落とす。
そんなことは想定済み、撃ち落されるすこし前に私は飛んだ。
片足が動かないならもう片方の足で動けばいい。
歩けないなら飛んで動けばいい。
エレシュキガルにバフをかけられている私には出来る。
上に飛んで、上から。
着地して、後ろから。
右に飛んで右から。
反対に飛んで、左から。
四方から襲う矢にイシュタルはしびれを切らせた。
「ああもう!ちょこまかと。」
『我が光は闇をも照らす天の光。我が天聖をくらいなさい!』
この攻撃を待っていた。
この攻撃は光を吸収してその光で攻撃するというもの。
けど、ここは冥界。太陽の光なんてとどかない世界。
「あれ?なんで!」
大業を使うにはそれなりの反動がある。
ナイトが二刀流を使ったあとに少し動けないのと同じように神であっても例外ではない。
「これで、最後よ!」
私はイシュタルの額めがけて矢を射る。
防御手段を持たないイシュタルは頭を射抜かれた。
「私が..負けるなんて。」
「人間もあれだけ馬鹿にされれば火がつくわよ。」
『美の女神、イシュタル』と私の戦いは僅差で私の勝利だ。
(ナイト、あとはよろしくね。)
疲れがどっと押し寄せて私はペタンと座り込んでしまった。




