番外編、シェリーとのクエスト─2
やはり番外編の方が長いというね。
本編も頑張らなきゃ(使命感)
俺はシェリーを追って深く底すら見えない谷にタイブした。
何の魔法補助なしで落ちれば死ぬ程の深さ。
俺はなんとかシェリーを抱きしめることが出来た。
問題はここからだ。
底が分からないほど暗くしかも底にはどんなモンスターがいるか分からない。
本当に辛い局面だ。
緑魔法を下向きに放って速度を落とす。
リーファくらいになれば緑魔法で空を飛べるらしいが一か八かでやるにはリスクがデカすぎる。
俺一人ならやったかもしれないが...。
緑魔法で速度を落としながら落ちて数分。
ようやく地面に着くことが出来た。
良かった下が海とかじゃなくて。
海だったら凍死するからな。
「シェリー。下に着いたぞ。」
「もう少しこうさせて。」
地面についてもシェリーは俺にしがみついたままだった。
まぁ確かに高度1200mから補助もなく飛び降りれば怖いのは当然か。
シェリーを落ち着けるため近くの小さな洞穴の入口に腰をおろす。
今度は事前に[反響]スキルで確認済みのため安全だ。
「少しは落ち着いたか?」
「うん。だいぶ落ち着いた。ありがと。」
シェリーも随分素直になった。
そう言えば出会った頃にも同じようなことがあったな。
「なんか最初にあった時のこと思い出すな。」
「呑気ね。でも、私も思ってた。」
今回はシェリーの不注意とかではないがシェリーが落ちて俺が後を追う。
というところはあの時と同じだ。
「あの時の方がまだ数段マシよ。」
「まぁ極寒地帯に未知のモンスター。しかも、クエストの達成はかなり厳しい。」
詰んでね?
さっきから[反響]スキルで周りを探ってはいるが上に登れそうなところはない。
ひとつ分かったことはこの穴は円形になっていてその壁の所々に小さな穴があるということ。
円形と言っても、半径5キロのデカい円だ。
しかし、その穴は小さく、人1人入れるかどうかの穴だ。
モンスターが住むには小さすぎる。
幼体とかなら入るかもしれないがこんなところに巣をつくるモンスターは俺は知らない。
「これからどうするの?」
「出口を探す。それまでシェリーはここで待機。」
「この暗闇で1人?」
「そうなるな。」
ガシッ。
シェリーは俺のコートの裾を握力の限り握った。
「絶対に無理!こんな暗闇でモンスターの声とかしてるのに1人とかむり!」
「んなこと言ったってどうするんだ?」
「ナイトが行くなら私も行く!」
「いや、危ないし。何があるか分からないし。」
俺は[反響]スキルがあるから周りの状況は把握出来るがシェリーからすれば真っ暗闇で太陽の光すら届かない。
「分かった。なにか案が思いつくまで一緒にいる。案が思いついたらまずは俺だけで動く。これでいいな。」
「.....わかった。」
まだ不服があったみたいだがこのままではなにも進展しないとシェリーも分かったようだ。
案が思いつくまで、と言ったものの今現在では全くと言っていいほどなにも案がない。
壁を登ろうにも全面氷で滑る。
穴から穴へ飛び移って登ることも考えたが穴と穴の間隔が開きすぎてどこから行っても途中で落ちる。
俺はとにかく考えた。
しまいには、モンスターの死骸で山をつくってそれを登ることも考えたがこの世界じゃモンスターは倒されると煙になるからこれも没となった。
太陽がないから朝なのか夜なのか分からない状況。
俺の『ライト』で明かりは確保していて生活出来る程度の明かりはあるが時間が分からないとやはり不安になる。
シェリーは不安なのかずっと黙りっぱなし。
「不安なのか?」
「うん。」
「寒くないか?」
「ううん。」
さっきからずっとこんな感じ。
こっちが調子狂う。
[反響]スキルには今のところ変化なし。
そういや、1つ気になることがあった。
俺達が今いる洞穴には小さな氷?石?みたいなやつがある。
ほかの洞穴にはなく俺達の洞穴にだけこの物体はある。
大きさは、俺が抱えて持つほどで割と重い。
シェリーじゃ持ち上げることすらできなかった。
謎だ。
と、その時、パキパキという音がした。
「なに?今の音。」
この心理状態でシェリーはそういうちょっとした音に敏感になっていた。
「多分。どっかの氷が欠けた音だと思う。」
そう結論づけてから判明した、音の正体。
ピィ。
洞穴の置くから想像に難くない可愛い声が聞こえた。
「ちょっとみてくる。」
「気をつけて。」
俺は[反響]スキルでこいつの正体は知っている。
最初にしたパキパキといえ軽い何かが割れる音は卵が孵った音。
そして、次にしたピィという声はその卵から孵ったものの鳴き声だった。
「怯えなくても大丈夫。こいつは人畜無害だ。」
俺がシェリーの元に持ってきたのは、アイスドラゴンの幼体。チビドラだった。
そっとシェリーの腕に抱かせる。
まだ卵から孵ったばかりで暖かい。
俺が気にしていた洞穴の奥にある氷の正体は、アイスドラゴンの卵だった。
アイスドラゴンは、外敵から卵を守るために卵を産んだら暖めずに氷漬けにするという。
そうすれば見た目はただの、氷塊。
卵だとは思わない。
「この子.....可愛い!」
シェリーはチビドラをそっと抱きしめる。
不安定な心理状態でこういう癒しは心を落ち着ける上で丁度いいタイミングと言える。
よくやった。チビドラ。
そのうち、チビドラは、シェリーの腕から抜け出した壁をつつきだした。
「何してるの?」
「餌を取ろうとしてるんだろ。」
「え?氷が餌?」
「そうじゃなくて、氷漬けになった魚とかを取ろうとつついてんだよ。」
成体となったアイスドラゴンは爪で抉って氷ごと丸呑みするらしいがまだ体が小さい赤ん坊だから丸呑みは無理だし爪だってえぐれる程鋭くない。
「和むね。」
「分かる。」
チビドラは壁から魚を取り出すとシェリーの腕に戻って魚を齧り出した。
そっか、まだ幼体だから寒さに慣れてないのか。
シェリーが元気を取り戻したのはいいことだがそういいことづくしじゃない。
帰る手段は、何一つ解決してない。
.....待てよ。
ここに卵があってまだ産まれてなかったといえ事は…。
俺はすぐさま[反響]スキルをできる限り広くした。
やっぱりだ。
今、1匹のアイスドラゴンがこちらに向かって飛んできている。
しかも、普通の個体よりデカい。
特殊個体だ。
まずい、この穴の中で戦うならまだ楽だ。
けど、もし、シェリーがチビドラを取ろうとしたとアイスドラゴンが勘違いしたらアイスドラゴンは目的を俺じゃなくシェリーに向ける可能性が高い。
いくら、弱いとはいえそこはドラゴン。
龍魔法だって使えるし空だって飛べる。
俺も飛ばれてしまうと魔法で攻撃するしか無くなる。
まぁ、その場合シェリーに撃ち落として貰えばいいんだけど。
それより、問題はもえアイスドラゴンがこの穴の上まで来ていること。
「シェリー!耳と目を塞げ。あと、そいつを離すなよ!」
「何が起きるの?」
「今に分かるさ。」
俺が言い終わるのと同時に目の前に体長50mの巨体を誇るアイスドラゴンが姿を現した。
のっそりとした動きでこちらをのぞくアイスドラゴン。
『ソナタらはどこの者だ?』
アイスドラゴンから聞こえた声はあまり覇気がなくイメージとしてはヨボヨボのおじいちゃんという感じだ。
「お前、老師か。」
『おお、そうじゃよ。儂はアイスドラゴンの老師をしているもんじゃよ。』
老師というのは、長みたいなものでその生物の頂点に立つ存在。年寄りだからといって甘く見てると痛い目にあう。
頂点に立つと言うだけあってその強さは折り紙付き。
ほかのドラゴンの老師だったら軽く街ひとつを消し去ることだって出来る。
「実は、アンタのねぐらに落ちてなどうしようか悩んでたところだ。」
『そうか。そうか。それは、災難じゃったの。良ければ儂が上まで連れていこう。』
「いや、ありがたいんだが、クエストの途中でなアンタのとこのアイスドラゴンを1体倒さなきゃいけないんだ。」
『じゃったら、儂の素材を持っていくといい。最近、歳で痛覚が麻痺してきたんじゃよ。ハッハッハ』
笑い事じゃない気がするが本人が気にしてないならいいか。
『おや?そこのお嬢さんが抱えているのは新しい同志じゃないか。守ってくれていたようじゃの。礼を言おう。』
「いえ、こちらこそ勝手に住処に入ってしまって申し訳ございません。」
『構いやせんよ。どうせ暗くてなにもないところじゃしの。』
その後、老師と色々話した後、シェリーが欲しい素材とクエスト達成を証明する牙を貰っていた。
あ、その間チビドラは、ずっとシェリーにくっついてたよ。
「ありがとうございます。これだけあれば充分です。」
『そうか。なら、あとはお嬢さん方を送るだけじゃな。どこの出身じゃ?』
「えっと、エレノール王国です。」
『なら、そこまで送ろう。同志を守ってくれたお礼じゃ。』
「え、でも。」
「いいじゃねぇか。どうせ王国に帰るのだって海の上を走ることになるぞ?途中で失速したら、そのまま極寒の海にタイブだぞ?」
「考えただけで寒気が。」
『決まったようじゃの。ほれ、背中にのりんしゃい。』
俺とシェリーは言われるがまま背中に飛び乗った。
俺としては拍子抜けだけどこの戦いづらい環境で戦わなくて済んだのはいいかもしれない。
この穴に落ちてから『ホット』はシェリーにかけてあった。
穴の底は氷点下20℃とかいう極寒だったからシェリーの持ってきている毛布とかじゃ凌ぎきれる寒さじゃない。
だから、シェリーにかけた。
その分俺が寒かったけど。
俺とシェリーは老師の背中にのって空の旅を楽しんだ。
1時間もしないうちに王国まで到着した。
それだけで大騒ぎだったよ。
デカいドラゴンが来たんだが当然なんだけど。
「ありがとう。ここでいいよ。これ以上行くと攻撃されるから。」
『そうか。こちらこそ同志を守ってくれてありがとう。』
俺は老師の背中から飛び降りて王国兵達に攻撃の中止をしにいった。
「ばいばい。」
「キュイ。」
チビドラはシェリーの胸に頬ずりしてシェリーから離れた。
『では、また会う機会があればよろしく頼むぞ。』
「もう。アンタのねぐらに飛び込むのは懲り懲りだぜ。」
俺とシェリーはアイスドラゴンの背中が見えなくなるまで見送った。
「そう言えばナイト。」
「?」
「谷に落ちた時、ゲート使えば帰れたんじゃないの?」
「.....完全に忘れてた。」
こういうことってありますよね〜。
視野が狭くなるって怖い。