90話 シヴァとヴァーユと心配
イシュタル、アレス、アテナ。
この3体と既に交戦している。
『ナイト様。こちらパールバティです!これから、≪破壊の神、シヴァ≫と交戦します!』
『わかった。くれぐれも気を付けてくれ。いくらお前の夫でも自我がなきゃただの嵐だ。』
『はい。承知しております。』
シヴァとパールバティは夫婦だったが最高神がパールバティを神界に残すことを嫌がったため、夫婦で離ればなれになってしまった。
今回シヴァと戦うと進言してきたのはパールバティの方からだった。
元よりシヴァはパールバティに担当してもらうつもりだったから俺としてはありがたかった。
≪破壊の神、シヴァ≫
西方の辺りの神だったと記憶しているがその神性は高く、特に【破壊】【再生】については頭一つ分出るだろう。それほどまでに強力で危険な神だ。
パールバティに協力している神は、ブラフマーとヴィシュヌだ。
協力しているか神はどちらもシヴァと張り合う神で同等の力があると言っていい。
しかし、最高神からの恩恵を受けていない二神は神性が落ちているため3人で倒せるかどうかのギリギリだろ。
俺自身も最高神に近い神性を持っているため恩恵を授けることは本来出来なくはないが今はそれすらできない。
シロに話した鍵をどうにかしないことにはルシファーとしての権能も能力も使えない。
一体何が俺を止めているのか分からない。
シロには俺の深層意識だと言われたが俺自身そんな自覚はない。
深層意識だからかもしれないがこれは大問題だ。
今の俺じゃ最高神と渡り合うことはできない。
俺は隣にいるミミの顔を見た。
目が合う。
ミミは声には出さないが「どうかしました?」と目で聞いてくる。
俺は首を少し横に振って「なんでもない」と答えた。
この世界に来て最初に出会った少女。
俺は出会った瞬間にミミを守ると誓った。
出会った経緯というのもあるがミミには笑っていてほしいと思った。
偽ルージュとの交戦で俺が一度死んだ時ミミはもの凄く泣いたという。
ミミのローブの裾や首辺りに白い結晶がついていたからわかった。
それは、塩だった。
涙に含まれる塩分が水が蒸発したことにより結晶となって現れた。
涙が塩の結晶となるほど泣いたということだ。
ミミだけじゃない。
シェリーだってシアだって普段笑わないカトレアだってそうだ。
絶対にもう泣いた顔は見たくない。
「ナイト様?大丈夫ですか?顔色よくないですよ?」
ミミが心配して、俺の顔をのぞき込む。
「いや、大丈夫だ。思ったより神共と交戦するのが早くてな。ちょっと心配になっただけだ。」
俺はミミを心配にさせないように噓をついた。
集団戦において、大将が消極的だったら勝てる勝負も勝てない。
前の世界で俺がなんども王国兵に言い聞かせた言葉だ。
今の俺を動かすにはピッタリの言葉だ。
『主!こちらイリス。≪空の神、ヴァーユ≫との交戦に入ります。』
『わかった。ヴァーユは空を飛んでいると思うから各国の弓兵と帝国の銃隊を使うといい。イリスは空からの攻撃を防げばいい。』
『了解した。』
≪空の神、ヴァーユ≫
こいつも西方の神だったと思う。≪雷の神、インドラ≫とともに空を神域としている神でこうして地上を戦場とすることはまずない。
これで、一つ分かったことがある。
全ての神が記述や神話にある姿とは違うということだ。
つまり、オケアノスが海の神として出てくるかはわからないということ。
まぁ、それはそれで面白そうだけど。
イリスの報告が終わったころには俺の調子は元に戻っていた。
今考えたところで未来がどうなるかなんて未来視の力がない事にはどうにもできない。
なら、今出来ることをやる。
そのすべてを最善でこなしてそれでもバットエンドなら俺もあきらめがつく。
最後の一手はもう決めてある。
それの準備を今はするだけだ。
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最近ナイト様の様子がおかしい。
神々の顕現と一緒に出てくる眷属達を無傷で倒しているのはいつものことだけどそれ以外でおかしなところがある。
なにか悩んでいるのか、困っているのか私にはわからない。
こういうときカトレアちゃんだったらわかるんだろうけど...。
私は自分が不甲斐ないと感じた。
ご主人様の心と体のケアをするのが本来の従者の役目であり仕事だ。
しかも、妻となった今、より綿密なケアが要求されるのにそれが出来ていないと感じている。
ナイト様はそういうことを口には出さない方だから余計に自分が嫌になる。
ナイト様自身も、神々との戦いで消耗している。
眷属達との戦いだって一番ダメージを受けているのがナイト様のはず。
敵陣のド真中で戦っていたのだから当然。
しかし、ナイト様は回復魔法を受けていない。
他の兵を優先して回復担当達の魔力消耗を考えた結果だと思う。
そのおかげで私達回復担当達は動けている。
その反面、ナイト様の傷は完全に塞がっていない。
お酒を傷口に塗って、焼けた石で傷口を焼いて無理やり塞ぐということをしていた。
荒治療にもほどがある。
最高神とナイト様は戦うつもりでいる。
その前に何とか説得して回復しないとナイト様も全力を出せない。
それが従者としての私ではなく、妻としての願い。