届かなかった手紙
少し面倒だがこの手紙はバックパックの下に仕舞っておく事にするよ。万が一、俺とお前がまだ二人で旅を続けている時に読まれでもしたら気恥ずかしいからな。
最初は確か、酷く窶れたお前を俺が見つけた事から始まったんだっけ。あん時は酷かった。着てる服は服なんてもんじゃねえボロ雑巾だったし、髪の毛は脂塗れで触るのも嫌だったよ。そんなお前でも何もしないで見捨てるのは酷だと思って、少し食わせるつもりで飯袋開いたら全部食っちまうんだもんな。ブン殴ってやろうと思ったよ。
でもお前の笑い顔見てたらそんな気なんて失せちまった。まさに魔性の女だな。お前は。
で、寝る時。あれは幾ら物覚えの悪い俺でも覚えてる。俺がひょいひょい木に登って、お前が登れなかった時の事だ。正直、あの時の俺はいつお前が泣き出すかって自分で勝手に賭けをしてたよ。でもいつまで経っても泣き出さずに、擦り傷だらけになってもまだ登ろうとするんだ。馬鹿じゃないかと思ったな。
俺はガキが嫌いだ。でもお前みたいな奴は好きだ。
二人でハチミツ採った時の事覚えてるか? 俺が煙で巣を燻して蜂を追っ払ってさ、巣を少し切った時のあれだよ。下でボーッと口を開けてハチミツ食ってたお前の口にハチノコ落とした時のあの表情。傑作だったよ。
熊に追っかけられた時も、崖から落ちそうになった時も、俺が腹下して死にかけた時もさ、お前はいっつも笑って大丈夫大丈夫だって、根拠もねぇくせに言ってくれたよな。それが幾ら俺の励みになってたか、お前は知らねぇだろうけどさ。
お前が悩んでる顔なんて見た事ない。ましてや泣き顔なんて見た事ないし見たくもない。
俺さ、お前のあの、空気の抜けるような笑い声、大好きだぜ。続けろよ。
ああ、あと、お前の名前だ。リリィっての。あれ、適当に付けてごめんな。そこら辺に百合が咲いてたからって、流石に安直すぎたよな。まあ、俺は気に入ってるけど、もしお前が気に入らないなら変えてもいい……と思ってたけど、やっぱ変えるな。お前はリリィでいろ。いてくれ。
もし俺たちが別れて、お前が良いとこの……魔女の呪いなんざ気にしないような家に嫁いでさ、今の不安定の極みみたいなヒッピー生活を辞めても、リリィでいてくれ。
まあ、なんだ。長ったらしく書いてきたけどさ、俺、やっぱりお前を見殺しになんかしなくて良かった。お前と旅したこの数年間は本当に楽しかった。これまでの孤独の旅とは全く違う、夢の様な旅だった。
本当に、本当に幸せだったよ。
俺を選んでくれてありがとう。さようなら。
またいつか会えるといいな。
エンデルフィア・フィンガーベルトより。
ありがとうございました。
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