繋がる世界と壊れる絆
「さて、何処まで話したんじゃっけかのう」
王は白い髭を擦ると、何かを思い出したかのように手をポンと叩く。
「そうじゃ。ヤマトに手紙を託した話じゃったの」
楽しそうに笑う王。
黙って俺を見詰めているリズ。
そして、俺は二人の間で、唯々言葉を失うばかり。
「あの手紙はの。わしが死ぬ事を偽造する手紙じゃ。それを利用して、今後来る脅威に備えよと書いて送った」
ヤマトが王から預かり、魔王であるゼン=ルシファーに届けた手紙。
この時点で、王とゼンが繋がって居た事も確定。
「後で聞いた話では、ゼンはその手紙を見られないように捨てたらしいのう。上手くやったもんじゃ」
確かにあの時、俺達は手紙の内容を見る事が出来なかった。
まさか、そんな事が書いてあるとは。
「そう言えば、あの時ゼンさんも手紙を書いて、ヤマトに渡していた……」
「おお、そう言えばそうじゃな」
知らないはずの事柄を、知ってるかの如く語る。
いや、まさか……
「あれのう。ゼンから魔法学園の方にも伝えといてくれと、追記で書いといたんじゃよ。そしたらあいつ、わしの偽装死を利用して、魔法学園にワシ宛の手紙が届くように仕組みおった」
言っている事が分からずに、首を傾げて見せる。
「つまり、わしが死ぬ事によって、ヤマトが魔法学園に戻る事を、ゼンは予想して居たと言う事じゃ」
王の曖昧な答えに対して、俺は反論する。
「予想した通りになったとしても、ヤマトが手紙を持って行っただけじゃ……」
そこで、俺はハッとする。
王が死んで、行き場の無くなった手紙。
それに理由を付けて、自然に手紙を回収出来る、魔法学園の人物と言えば……
「学園長なら何らかの理由を付けて、その手紙を預かる事が出来ると考えた?」
「まあ、そう言う事じゃろうな」
「つまり……」
学園長も王達と繋がっていた。
むしろ、繋がっていたからこそ、その手紙が自分宛だと分かって回収した。
「幾ら何でも強引すぎる」
「そうじゃのう。じゃが、魔物と人間が敵対していた時点で、わしらが直接連絡を取り合うのは危険過ぎた。少々賭けではあったが、お主達なら手紙を見ずに運んでくれると思っておったよ」
そう言って、王が無邪気に笑う。
流石は各領の王だと言いたい所だが、利用されていた悔しさばかりが心に募り、怒りだけが俺の心を支配し始めていた。
「俺達の旅は、何だったんだ……」
怒りを発散させる為に、ため息を吐く。それを見た王が、ふっと笑い口を開いた。
「そう悲観するでない」
王は小さく頷いた後、モニターを見上げる。
「わしは王として、各地の長としか絆を結べなかった。しかし、モニターの向こうでは、全ての魔物と人間が、協力して戦って居るではないか」
言った後、王がモニターを指差す。
映し出されているのは、世界全体の軍の動き。
気が付けば、魔物軍と人間軍が各々に悪魔を国境線に押し込み、挟み撃ちにして戦っていた。
「正直、わしもここまで上手く行くとは思って居なんだ。これも全て、お主等のおかげじゃろうて」
王の言葉に反応して、戦場がズームアップする。
そこに映ったのは、それぞれの軍を指揮する人間と魔物の姿。
それらは、各地に点在していた勇者ハーレムだった。
「確か……キズナシステムと言ったか。どうやら、これがリズのやっていた事のようじゃのう」
モニターの奥で必死に戦っている勇者ハーレム。そして、それを嬉しそうに眺めて居るリズ。
どうやら王の言う通り、これがリズの望んで居た光景のようだ。
「リズ……」
俺はリズに声を掛ける。
その声に反応して、リズがゆっくりとこちらに向いた。
「そうね。私も……全てを話すわ」
そう言って、リズが瞳を閉じる。
勇者の親友役として、俺を召喚した彼女。
その本当の答えを、彼女の口から直接聞こうじゃないか。
「最初は、半信半疑だったわ」
悪魔との戦いが繰り広げられているモニターを見上げながら、リズが話し始める。
「世界崩壊なんて、起こるはずが無いと思ってた。だけど、あの場所であれを見た時、それを信じる事しか出来なくなった」
ゆっくりと俺に視線を向けるリズ。
赤い瞳。
この世界に召喚された時から、ずっと見続けて来た、とても綺麗な瞳。
「その場所は、かつて世界を救った異世界人が作った、研究施設」
その研究施設……俺は知っている。
日記に書いてあった、あの研究施設だ。
「その研究施設には、世界崩壊についての様々な研究と、それを回避する為のシナリオが、事細かに記されて居たわ」
あいつ……世界救済には興味ないとか書いておいて、しっかりと研究をして居たんじゃないか。
「そんな中で、私は悪魔の存在と、それを防ぐ結界の事を知った」
日記には書いて無かったが、あの研究者は悪魔の存在に辿り着いて居たという事か。
「そして、調べていくうちに、その結界が弱まり、近々悪魔が再び現れる事を知った。だから、過去の女王達のように異世界召喚をして、世界を救う者を呼び寄せる事にしたの」
そこまで聞いて、俺はやっと口を開く。
「その研究施設には、過去の出来事も記されて居たのか?」
「ええ。ミツクニ達が私に隠れて見ていた日記も、しっかりと記されてあったわ」
隠して居た訳では無いが、どうやら俺達の行動は筒抜けだった様だ。
だけど、それならば話が早い。
「つまり、リズは最初から、悪魔を倒す為に俺を召喚したって訳だ」
「……」
何も言わないリズ。
俺が黙って答えを待っていると、再びリズが口を開く。
「召喚は……出来なかったわ」
その答えに、一瞬反応が遅れる。
「……は?」
俺の拙い言葉に対して、リズが話を続ける。
「王が召喚されて居る時点で、異世界召喚は不可能だった。何故ならば、悪魔を倒すという使命は、既に王に託されていたから」
「ちょっと待て」
思わずリズの言葉を止める。
「召喚出来なかったって……現に俺はここに召喚されてるぞ? まあ、勇者の親友役としてだけど」
当たり前の事を口にしたはずなのに、何故かリズが同意して来ない。
これは、一体どういう事だ?
「異世界召喚が不可能だと知った私は、それ以外の方法を探したわ。そして、私はヤマトという勇者の存在と、それを助ける仲間達を集めれば、世界が救えるという事を知った」
世界を救う為の研究施設だ。ヤマトの存在くらい見つけていても不思議は無い。
だけど、俺は? 俺の話はどうした?
「私は裏で手を回して、ヤマトを魔法学園に入学させる事にした。ついでにヤマトを助ける仲間も学園に集めて、ヤマトと仲良くさせる事にしたわ」
「つまり、世界を救う為の異世界召喚は出来ないから、世界を救う人間を助ける人間を召喚した訳だ」
自分なりに解釈した答えを先に言う。
しかし、それでも。
リズが同意して来ない。
「……リズ?」
俺は首を傾げる。
すると、後ろに居た王が口を開いた。
「なあ、ミツクニよ。質問があるんじゃが」
王の言葉に黙って頷く。
「お主、わしがさっき魔法を使った時、どう思った?」
「そりゃあ、俺が魔法を使えないのに、何で王は使えるんだよって……」
「では、わしの前任者達が、世界を救うチートアイテムを持って居た事は?」
「どうして俺には何も無いんだって……」
言って居る途中で、俺は気が付いてしまう。
そして、その瞬間に、身体中から血の気が引いて行った。
世界を救った前任者達。
チートアイテム。
魔法。
研究所。
そして……日記。
「……いやいや」
短く言って、首を横に振る。
「違う……絶対に違う」
信じない。
俺は、今思い浮かんだ事を否定する。
「だって、過去の記憶があるんだぞ?」
王と同じ時間軸から召喚された。
「そんな訳……無いじゃないか」
この記憶は、他人の記憶?
だから、漠然としているのか?
「絶対に……そんな訳……」
悲しそうな表情をしているリズ。
それを見ながら、力なく笑う。
「なあ、違うよな?」
信じていた。
自分が勇者を助ける為に、異世界から召喚されたと。
「違うと……言ってくれ」
そうだよな。
良く考えてみたら、全ての記憶が曖昧だ。
召喚された経緯も。
魔法学園に辿り着いた経緯も。
俺の過去も。
その全てが、俺が何者なのかを、既に示しているじゃないか。
「リズ……」
これ以上は、何も言えない。
いや、言わない。
答えは……もう出ているから。
「ミツクニ」
悲しそうな表情のまま、口を開くリズ。
「彼方は……勇者を助ける為に、王のDNAを使って作った……人工生命体よ」




