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異世界勇者の親友役になりました  作者: 桶丸
異世界究明編
93/157

世界の歴史と先人達の温かい結婚生活

 太陽暦1年

 この世界の年の概念が分からない為、私が召喚された日を歴史の一年目として、この自動筆記を開始する。


 私が召喚された時、世界は三つに分かれていた。


 一つは我々の住む人間界。

 一つは神が住む天界。

 一つは悪魔が住む地界。


 人間界に生きる者は、少量の魔力を持ち、小規模な魔法を使って生活を送って居た。

 神は人間とは完全に別の存在で、人間が目視出来ない空の都に住んで居た。

 悪魔と呼ばれる存在は、突然地面から現れて、人間達を襲っていた。


 私を召喚した人間界の女王、ウォーター=レインハートは、人間達を悪魔と呼ばれる存在から救う為に、私を召喚した。

 最初は何をして良いか分からなかったので、召喚された時に携帯していた多目的ソードを使い、現れる悪魔をひたすら狩っていた。


 そして、太陽暦3年。

 いつものように悪魔を狩って居た私に、転機が訪れる。

 それは、異星人の襲来。


 彼らはこの星を宇宙航路としていた為、人間が悪魔に駆逐されるのを恐れて、協力する為に来たらしい。

 私は彼らの助力を得て、人間の魔力を利用した結界を地面に張り、悪魔と呼ばれる存在の出現規模を抑える事に成功した。

 その後、その異星人達と結界を監視する為の遺跡を建造して、人間界を人間だけで繁栄出来る状態にした事により、私の仕事は終わった。


 さて、仕事が終わった後、私は元の世界には帰らずに、ウォーターと結婚して温かい家庭を築き……



「こいつも女王と結婚かよ」


 ダラダラと書き綴られている結婚生活を眺めながら、大きくため息を吐く。


「大体な、多目的ソードって何だよ。そんなチートっぽいアイテム、俺の元居た世界にも存在して無いぞ」


 俺の言葉を聞き、王が白い髭を擦る。


「おかしいのう。城の書物には、異世界召喚は日本人しか呼べないと書いてあったのじゃが……」

「随分と限定された召喚だな」

「この日記の文字も日本語であるからして、他の場所からの召喚とは、ちと考えにくいのじゃが……」


 答えを見つけられずに黙ってしまう。


「時間軸が違うのではないでしょうか?」


 言ったのは、俺達の正面に座っていたフラン。

 フランはポニーテールをサラリと払い、小さく喉を鳴らして口を開く。


「召喚された場所が同じでも、ミツクニさん達と同じ時代の人が召喚されるとは限りませんよね」

「それじゃあ、俺達は偶然近い年月で召喚されたって事か?」

「それは確認しないと分かりません」


 それを聞いて、俺と王が顔を合わせる。


「わしは地球の歴史で言う2016年に、20歳でこの世界に召喚された」

「え?」


 予想外の言葉に、思わず声が出てしまう。


「俺も2016年なんだけど……」

「成程。ミツクニさんは2016年に、キモオタぼっちの16歳で召喚されたんですね?」

「おいコラ」


 フランがてへっと笑って舌を出す。

 正直腹が立ったが、可愛いから許そう。


「ふむ、どうやらフランちゃんの言って居る事が、正解みたいじゃのう」


 さりげなくフランをちゃん付けで呼びやがったが、それもスルーしておこう。


「とにかく、この最初の日本人が、異星人と一緒にこの遺跡を作った訳だ」

「何年くらい前なんでしょうねえ」


 それを聞いて、俺はこの遺跡に初めて入った時の事を思い出す。


「確か……三千年くらい前の建物だって、ベルゼが言ってたな」

「三千年前ですか。随分と昔ですねえ」

「その時に、メリエルが懐かしいって言ってた」

「……まあ、彼女は神ですから」


 正確には天使だが、ここでは神と同列なのか。

 何はともあれ、これでこの遺跡が出来た経緯は分かった。

 次は予言の事について知りたい所だが……


「さて、次の召喚者の日記を見るかの」


 そう思ったタイミングで、王が日記のページをめくる。



 太陽暦1035年。

 拙者がこの遺跡を見つけたこの年に、改めて日記を書く事とする。

 過去の文章の消し方が分からぬので、そのまま続きから書くが、過去の文章は私的な事が多い故、見ないで頂きたい。

 是非とも、見ないで頂きたい。


 さて、拙者が召喚された時、世界は過去とは違う形となって居た。

 特に違うのは、三つの世界とその存在の在り方。


 一つは人間界。こちらは過去と違って、個人の魔力に差が出て居た。

 一つは天界。こちらは相変らず。

 そして、最後に新しい世界である、魔物界。


 魔物界とは、地界から現れた悪魔が地上の者と交わり、知識を持った者達が作った世界である。

 人間は彼らの事を『魔物』と呼んで居た。


 拙者が召喚された時、世界では悪魔を封印していた結界が弱まり、現れた悪魔のせいで、人口が大幅に減少していた。

 そんな中で、人間と魔物は協力して悪魔を駆逐して居たのだが、魔物は元々悪魔との混種故、人間と上手く連携が取れず、表面的な協力となって居た。


 そこで、拙者は両者の中を取り持ち、各々の長所を生かした軍勢を作った。


 拙者の作った軍勢は、拙者が元の世界から持ち込んだ兵法を学び、新たな戦術で悪魔達を駆逐。

 その甲斐あり、太陽暦1028年に、ついに大部分の悪魔の駆逐に成功した。


 世界が平和になった事を確認した拙者は、戦の途中で知り合った『精霊族』に、世界が再び危険に晒された時、それを警告する何かを作れないかと言われ、それを作る為に世界中を回った。


 そして、太陽暦1035年。この遺跡を発見する。


 拙者達はこの遺跡の構造を調べて、この日記の亜種的存在を発見。それに『予言しすてむ』と言う名前を付け、世界が危機に陥った時に、警告を発信するしすてむを完成させた。


 それにより、拙者の仕事は終わった。


 さて、この後拙者がどうしたかと言うと、知り合った精霊族と結婚して……



「はいはい! サムライと精霊の温かい生活ね!」


 俺はうんざりしてため息を吐く。

 どうして前任者達は、結婚生活の事ばかり書くのかね!

 こっちは規制ありの召喚だっつうのに!


「前任者達と俺の扱いの差よ!」

「仕方ありません。ミツクニさんを召喚したのは、あのリズさんですから」

「憎い! 前任者とリズが憎い!」


 俺は唇を噛み締める。


「大体なあ! どうして他の奴等は自分で世界救ってるのに! 俺だけ勇者の親友役なんだよ!」

「それはまあ、リズさんの趣味でしょうね」

「趣味て!」

「冗談ですよ」


 フランが楽しそうに笑う。


「恐らく、リズさんにはリズさんなりに、理由があったのではないでしょうか」

「そうですかね! どうですかね!」


 王を思い切り睨み付ける。あんたの孫なんだから、何か話を聞いて居るはずだろう。

 そうですよね! そうだと言ってくれ!


「わしゃあ……何も知らん」

「知らないのかよ!」

「知らんと言うより、リズの件には介入しとらんのじゃ」


 その言葉を聞いて、全ての文句を飲み込む。

 介入……してない?


「それは、どういう意味ですか?」

「そのままの意味じゃよ。お主の扱いについては、わしは『介入しとらん』と言う事じゃ」

「つまり、他の事に関しては、『介入している』と言う事ですか?」


 俺が言う前に、フランが王に問い質す。

 何も言わない王。

 やがて、ふうと息を吐いて言葉を漏らす。


「その通りじゃ」


 その言葉に、俺とフランは言葉を失う。

 静かになる書庫。

 そんな中で、王が再び口を開く。


「お主達が解決しようとしておる予言に関しては、わしも独自に動いておる。じゃが、お主の扱いに関しては、わしは何も関係しておらん」


 明るみに出た、新たなる事実。

 だが、そうだろうとは思っていた。

 何故ならば、帝都に居た時と今回の件以外で、俺と王は一度も接点が無いからだ。


「……介入している予言については、何か教えてはくれないんですか?」

「教えなくても、いずれ答えは出る」


 曖昧な答えに少し苛つく。


「どうして、今教えてくれないんですか?」

「それは、お主を召喚したのがリズじゃからじゃ」


 その答えに眉をひそめる。


「わしがやろうとしている事は、リズとは方向性が違う。じゃから、わしがやっている事をお主に話して、リズの邪魔をする訳にはいかんという事じゃ」


 もっともらしい意見に、一応は納得する。

 しかし、それで『はいそうですか』とは言えない。


「目的が一緒なら、最初からリズと協力すれば良かったと思うんですが」

「それは確かにそうじゃのう」


 少し困った表情で俯く王。


「しかし、お主を召喚したのはリズの独断で、召喚した理由も教えて貰えんかった。じゃから、協力したくても出来んかったのじゃ」


 つまり、王は俺とリズのやっている事を、詳しくは知らないのか。


「うーん」


 顎に手を置き、小さく唸る。

 これ以上この話を広げても、予言に関しての情報は出ない気がする。それを考えると、今は黙って日記の続きを見た方が良いのかも知れない。


「とりあえず、分かりました」


 話に区切りをつけて、この話題を終了させる。


「それじゃあ、日記の続きを見ましょう」

「うむ、そうじゃな」


 小さく頷き、王が日記のページをめくる。

 俺は小さく息を付いた後、頭を切り替えて日記に集中した。

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