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異世界勇者の親友役になりました  作者: 桶丸
異世界究明編
92/157

ニホンゴ、トテモムズカシイネ

 王の後を追う俺とフラン。

 廊下で誰かとすれ違うたびに、不審な表情をこちらに向けられる。

 何故と言いたい所だが、理由は明白だ。


「あの……王?」

「何じゃ?」

「どうしてアロハシャツなんですか?」

「わしが元の世界に居た時の普段着じゃ」


 なるほど。愛着があるという訳だ。

 しかし、想像して欲しい。

 戦争が行われている拠点で、アロハシャツのおっさんと、チアガールの恰好をしている女子が一緒に歩いている。

 もはや、狂気の沙汰でしかない。


「勇者ハーレムに出会って居ないのが、唯一の救いだなあ」

「出会ってますよ」

「出会ってるの!?」

「ええ。でも、触れたら不味いという表情で、誰も声を掛けてきません」

「そりゃな!」


 この光景を見たら、流石に声は掛け難いだろう。

 だけど、この人は人間側の王だよ?

 いくら服装がおかしいからって、気付く人は気付くと思うのですが。


「この世界の人間は、皆鈍感なのか?」

「そうじゃのー」


 王が歩きながら口を開く。


「わしも長年この世界で生きて来たが、この世界の人間は、余計な事に介入しないというか、あっさりした所があるようじゃ」

「あっさりと言うよりも、物事を疑わなすぎだろ」

「わしもそう思うが、世界が違うからのお。考え方自体が違うのかもしれん」


 それを聞き、俺は妙に納得してしまう。

 過去に起きた出来事もそうだ。

 ヨシノと戦争した時もあっさりと和解したり、アーサーが俺を攻撃しても、それを後に引きずらないで、一緒に宴をしたり。

 元の世界では考えられない事ばかりだ。


「清々しいけど、簡単に詐欺とかに会いそうで、少し心配です」

「そうじゃの。じゃが、この世界でそんな事を考えるのは、わしやお主のような、少し外れた奴だけじゃよ」


 外れた奴と言う言葉。

 要は腹黒いというか、後先考えて内々で行動するような人間の事を言うのだろう。

 異世界の人間で代表例を挙げれば、リズとかゼンとか、後は学園長とか……


「さあ、着いたぞい」


 王に言われて立ち止まる。

 そこは、勇者ハーレムの司書であるアキが来た時に、解放された書庫。

 そう言えば、忙しくてノータッチだったな。


「入るぞー」


 軽い挨拶をして、王が書庫に入って行く。

 それに続いて書庫に入る俺達。

 そこに現れた光景を見て、思わず息を飲んでしまった。


「これは……凄いな」


 目の前にあるカウンターを中心にして、上方向に広がっている本棚の渦。その本の総数は、軽く見積もって万は超えているだろう。


「魔法学園の図書館も凄かったけど、ここは更に凄いな」

「そうですね。独特の年季を感じます」


 歩く度に砂煙が舞う地面。

 それなのに、本棚に保管されている本は真新しく、本棚自体も傷んでいる様子が無い。

 恐らく、施設が解放される前は、何かしらの魔法で封印されて居たのだろう。


「それで、ここに来て一体何を……」

「あ! ミツクニさーん!」


 頭上から女子の声が響く。

 見上げた先に居たのは、この書庫を管理しているアキ=ニノミヤ。

 彼女は嬉しそうな表情で手を振った後、螺旋階段を速足で降りて来た。


「お久しぶりでえええぇぇぇぇ!?」


 その途中でつまずくアキ。

 ヤバい! この高さは危険だ!


「うおおおおおお!」


 咄嗟に走り出し、アキの下に滑り込む。

 スローモーションになる景色。

 これはあれだ。ヒロインが空から降って来る~のパターン……


「ぐっはあ!」


 なのだが、手で受け止められずに、背中で彼女を受け止めた。


「す、すみません! 大丈夫ですか!」

「大丈夫……慣れて居るから」


 空から彼女のシチュエーション。悪いが俺は、この世界で何度も経験している。他の時は生きるか死ぬかの選択だったので、踏まれるくらいはどうと言う事は無かった。


「それで、ここに来て何をするんですか?」


 アキのお尻の感触を背中に受けながら、そのままの体制で王に尋ねる。


「うむ、ちと調べ物をしようかと思っての」

「なるほど。それなら書庫は最適だ」


 何食わぬ顔で会話をして居る俺達を、白い目で見て居るフラン。

 おや? 何かおかしい事でもあるのかな?


「そこの娘さん。名前は何と言うのかの?」

「は、はい! アキと言います!」

「うむ。アキさんは、この書庫に詳しいのかね」

「はい! 一通り本には目を通しました!」


 この書庫の本を一通り見たと?

 他の勇者ハーレムも中々の化け物だが、アキも相当だな。


「その中に、変な文字で書かれた本は無かったかの」

「変な文字ですか? この書庫は古代文字の本ばかりなので、読めない本の方が多いのですが……」


 俺の上で小さく唸るアキ。


「あ、そう言えば、明らかに古代文字では無い、不思議な本がありました」

「うむ。それじゃ」

「本と言うか、魔法書なんですけどね」


 魔法書。それは、普通の本では無く、魔法によって描かれた本の事。俺達が持つ手帳も魔法書の一種で、通信と読み書きが出来る便利な道具だった。


「ご覧になられますか?」

「うむ。頼む」

「それでは、少々お待ちください」


 言った後、書庫の階段を登って行くアキ。

 そう。まるで何事も無かったかのように。


「あの状況でガン無視とは、中々に斬新だなあ」

「その表現、気持ち悪いですよ」

「いやいや。女子の尻に敷かれるシチュエーション。男子なら一度は体験したいものだ」

「そう思っているのは、キモオタのミツクニさんだけだと思います」


 フランめ。リズみたいな事を言いやがる。

 お前だって、突然パジャマで現れたり、チアガール衣装で現れたり、結構な事をして居るんだぞ?

 まあ、それも男子の夢のシチュエーションだから、これ以上は何も言わないけど。


「お待たせしました」


 そんな会話をしているうちに、アキが魔法書を持って現れる。王はそれを受け取ると、軽く会釈をして机の方に歩き出した。


「ミツクニさん」


 遅れて歩き出そうとした俺に、アキが声を掛けて来る。


「誰ですか? あの紳士的なご老人は」

「あれを見て、アキは紳士的と言うのか」

「はい。とても高貴な気配を感じます」

「そりゃあ、王だからな」


 それを聞いて、少しの間固まるアキ。やがてその正体に気付き、唇を震わせた。


「あの、ええと……」

「とりあえず、皆には黙っておいてくれ。何故か誰にもバレて居ないから」

「は、はい。分かりました」


 言った後、アキは小さくお辞儀をして、カウンターの後ろに隠れる。

 うむ、とても普通の反応だ。

 状況を把握しながらも、至って普通のフランとは大違いだ。


「それで、それは一体何なんですか?」


 王の元に歩きながら口を開く。


「日記じゃよ」


 王の簡単な答えに、首を傾げて見せる。


「日記?」

「うむ。この世界に召喚された、前任者達の日記じゃ」


 それを聞いて、言葉を失う。

 この世界に召喚された?

 つまり、俺達以外にも、この世界に召喚された人達が居たのか。


「どうしてそんな物が、この遺跡にあるんですか?」


 何から聞いて良いか分からない俺に対して、フランが先に聞いてくれた。


「ここは予言の発信地じゃからの。あって当然じゃ」

「そうだとしても、どうして王は、ここが予言の発信地だと知って居るんですか?」

「城の極秘図書館にある書物に、そう書いてあったからじゃ」


 俺の知らない真実が簡単に明かされる。

 まあ、王は四十年前に召喚された人間だし、予言の事もずっと調べて居たのだから、そこに辿り着くのは必然か。


(あれ? でも……)


 俺に予言を見せたリズは、ここが予言の発信場所だとは知らなかった。

 もしかして、王とリズはお互いに予言の事を知って居ながら、情報共有をしていた訳では無いのか?

 それ以前に、王とリズはどこまで繋がって居るのだろうか。


「この遺跡が現れた事を知って、どうしてもこれが見たくなってのお。もう少し潜伏して居たかったのじゃが、我慢出来ずに出て来てしまった」


 その気持ち、痛いほど分かる。

 俺と違って四十年だからな。

 本当ならば、何を置いても先に来たかったに違いない。


「それじゃあ、早速見てみるとするかのう」


 そう言って、王がページをめくる。

 そこに記されていたのは、この世界の人間が読めない文字。

 紛れもなく、日本語だった。


「ほっほ、懐かしいのお」


 小さく微笑みながら、王がページをめくる。

 そして、パラパラと後半の方までめくった後、ピタリと手を止めた。


「うむ。間違いない。これじゃ」

「どうしてそれが、目的の日記だと分かるんですか?」

「それはの……これじゃ」


 王が見せてくれたページ。

 そこに書かれていたのは、何と俺が書いた恥ずかし日記だった。


「ああああああ!?」

「何々? 世界を救う為に、勇者の親友役として召喚された男……」

「三度目! 三度目は無いぞぉぉ……!」


 恥ずかしさに地面をのたうち回る。

 どうして俺の書いた文章が、あそこに書かれているんだ!?


「これは、異世界の人間が書いた文章を、転写する魔法書なのじゃよ」

「何その便利機能! 聞いてない!」


 二人のニヤニヤとした視線が突き刺さり、両手で顔を覆う。

 王は城の図書館で、その事を知って居たから良かっただろうよ!

 だけどな! それを知らなかった俺と前任者達は、生殺しだぞ!?


「うわー。他の前任者達も、中々痛い文章を書いて居ますねえ」

「うむ。異世界召喚された者は、大抵自分を英雄か何かと勘違いするからのお」

「見て下さいよこれ。俺のおかげで、また世界が救われた……」

「止めろ! 止めてくれぇぇぇぇぇぇ!」


 召喚者代表! ミツクニ=ヒノモト!

 過去に召喚された人達の代表として、声を出しての朗読を却下します!


「ま、冗談はこれくらいにしておこうかの」


 ほっほと笑い、王がページを最初に戻す。

 恐るべし異世界召喚! 恐るべし異世界のシステム!

 それで世界は救われるかも知れないが! 俺達の心は一度死んだぞ!


「ほれ、お主も見るのじゃ」


 前任者達の傷を抉るようで心苦しいが、これを見れば、予言の歴史を知る事が出来る。

 ここはそれに目を瞑って、無の心で拝ませてもらう事にしよう。

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