獣娘達と義父達の楽しい喧嘩祭
フラン達との会話が一段落した後、腹が減ったので食堂へと向かう。
本当は聞きたい事が他にもあったのだが、一度に聞いても覚えられる自信が無い。
とにかく今はご飯。
昨日から色々あったせいで、お腹がペコペコだ。
(さて、今日は何が出てくるかなあ)
この遺跡には、勇者ハーレムの家事マスターであるサラが居る。娯楽の少ないこの異世界で、彼女の作るご飯は心のオアシスだった。
(昨日は肉ばっかりだったからなあ。今日はさっぱりとした……)
突然の爆発音。
何事かと思い、辺りを見回す。
『マスター』
それに合わせるかのように、スピーカーから遺跡の声が聞こえて来た。
「キズナ、何かあったのか?」
『動力室が攻撃を受けています』
それを聞いて、一瞬硬直する。
動力室は遺跡の心臓部。破壊されたら遺跡がどうなるか分からない。
俺は腹が減って居る事も忘れて、動力室に向けて走り出した。
(くそっ! 昨日の今日だぞ!)
フランから得た情報から考えると、これは魔物側の攻撃だろう。
それにしても、今までの相手は遺跡の外で迎撃出来て居たのに、まさか初手から遺跡に潜り込まれるとは思わなかった。
(相手は相当の手練れか。又は……)
勇者ハーレム。
しかし、今までの事を考えると、勇者ハーレムが遺跡を落としに来るとは思えない。
そうなると、隠密性に長けた手練れが侵入している可能性が高い。
(俺一人で大丈夫か?)
そんな事を考えたが、今はとにかく時間が無い。ネクロミノコンを失った今、この遺跡の機能が停止するのは致命的だ。
「……ったく! 次から次へと!」
愚痴を言いながら動力室へと飛び込む。
すると、驚愕の景色が広がっていた。
「ニャー!」
平らな壁をかけ登りながら、適当に周辺機器を攻撃している猫人。
「ぴょん」
楽しそうに動力バルブを破壊している兎人。
「がる」
黙々と光柱に連続パンチをしている狼人。
完全に予想外。
勇者ハーレムである獣人三人娘が、楽しそうに動力室を破壊していた。
「お前等ぁぁぁぁぁぁ!」
「あ! ミツクニだニャー!」
猫人であるテト=キャッツが俺に気付き、こちらへと飛んで来る。
「死ぬのニャー!」
そう言いながら、猫パンチを繰り出す。その攻撃シールドで受け止めると、テトは空中でクルリと回り、俺の前へと降り立った。
「中々やるのニャー」
「やるのニャーじゃねえよ!」
シールドを閉じてテトを睨み付ける。
「何でこんな事してんだよ!」
「王様達からの命令だにゃ」
「命令って……! あの声明が出されたのは今日の朝だぞ!?」
「それが何なのニャー!」
再び宙に舞い、動力室を攻撃するテト。
「おい! こら……!」
「私達は魔物軍の先行部隊なんだぴょん」
ゆっくりと歩いて来る兎人、パル=バニー。
「魔物軍の声明は前から予定されていたぴょん。だから、それに合わせて奇襲を仕掛けたぴょん」
「それにしては早すぎるだろ!」
俺の言葉を無視して攻撃して来るパル。その攻撃をシールドで弾き、シールドバッシュを返す。
しかし、パルはその攻撃を軽々と躱して、後ろに回り込んで来た。
「私達は獣人の中でもスピードに長けた一族。これくらいは当然ぴょん」
そう言った後、後ろから俺を羽交い絞めにする。
否。
優しく抱きしめる。
「そう言う事で……私と子作りするぴょん」
俺の胸元を這うパルの両手。
流石は動物界屈指の繁殖力を持つ獣人。とても気持ちが良い……
「のぉぉぉぉぉぉ!」
大きく両腕を広げてパルを吹き飛ばす。
こいつは色々な意味で危険な奴だ!
この物語が幾らR15でも、これ以上の行為は許されないぞ!?
「本当に自由な奴等だな!」
乱されたペースを深呼吸で整えた後、改めて辺りを見渡す。
すると、この混乱にも動じずに、遺跡の心臓である光柱を攻撃し続けている、狼人ヴォルフ=ベルガーの姿が見えた。
「やめぇぇぇぇい!」
大声と共に駆け出して、ヴォルフに掴み掛ろうとする。
しかし、ヴォルフはその手をサラリと躱して、横にある突起物の上に降り立った。
「いきなり襲うなんて……男は狼がる」
「ガチの狼に言われたく無え!」
遂に我慢が出来なくなり、腰の双銃を手に取る。
射撃! 射撃! 射撃!
ミス! 獣人達はダメージを受けない!
「これだから獣人はぁぁぁぁ!」
銃弾さえも避けてしまう圧倒的な機動力。はっきり言って、戦いの相性が悪すぎる。
「お前等! 自分達が何してるか分かってんのか!」
「勿論だニャ! 敵を素早く倒すには、拠点を襲うのが効果的ニャ!」
……。
まあ、確かにそれは間違いでは無いよ?
だからこそ、本来は拠点の守りが一番堅い訳であって……
(……っ勇者ハーレム!)
マスターである俺が警戒して居ないせいで、勇者ハーレムは遺跡の警報に引っ掛からない。ここに来て、その仲良し状態が裏目に出てしまった。
「頼むから、これ以上遺跡を破壊しないでくれ!」
「子作りするならやめるぴょん」
「それは無理です!」
「どうしてぴょん? 簡単だぴょん。ただ、お互いの体と体を……」
「倫理! 倫理的に無理なのだよ!」
それを聞いて、再び攻撃を始める獣人達。
ああ、俺達のキズナ遺跡がぁ……。
予言の事についてだって、まだ遺跡から聞いて居ないのに。
「あ、居たぜ!」
そんな俺の後ろから、男の声が聞こえて来る。
振り向いて見ると、前の戦いでフラン達にボコボコニされた挙句、この遺跡に居座った強硬派の魔物達が居た。
「おい、ミツクニさんよ!」
リーダー格である犬の獣人が前に出る。
「今朝公表されたアーサー様達の声明は、事実なのか!?」
……お、おぅ?
この状況で、何故そんな事を聞くのかな?
確かに声明自体は事実だけど、あれは一方的な見解であって……
「事実だニャー!」
「やっぱりそうなのか!」
俺を無視して魔物達の会話が進む。
「ミント様とウィズ様はなあ! 俺達のアイドルなんだよ!」
指を鳴らして近付いて来る魔物達。
「その二人がお前に嫁ぐなんて聞いた日には……!」
ふむ、成程ね。
ミントとウィズは勢力に関係無く、全ての魔物に人気があるのか。
そうだよなあ。二人とも可愛いもんなあ。
だからこそ、こんな事が起こるのか。
「俺達も黙って見てられねえぜぇぇぇぇ!」
目の色を変えて咆哮する魔物達。
「お前が二人に相応しいか! 拳で証明しろやぁぁぁぁ!」
咆哮を終えて襲い掛かって来る魔物達。
数は軽く見積もって五十体ほど。まともに戦って勝てるはずも無い。
しかし、俺の堪忍袋は限界を迎えていた。
「掛かって来いやぁぁぁぁぁぁ!!!!」
魔物達に向かって思い切り叫ぶ。
ミントとウィズが俺に嫁ぐという話は、とりあえず置いておこう。
今はとにかく! 牙を剥く者を制圧する!
「おらおらぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
双銃をホルスターにしまい、シールドを手足に丸く展開する。
ベルゼが新開発した、プッシュシールド。
近距離戦で分が悪い俺の為に開発された、吹き飛ばす力を強化するシールドだ。
「だっしゃぁぁぁぁ!」
突進して来た犬獣人の懐に一撃入れる。
ふわりと宙に浮く犬獣人。
次の瞬間、犬獣人が入り口の外に高速で吹き飛んで行った。
「まだまだぁぁぁぁぁぁ!」
怒号の勢いに任せて、狂気と化した魔物達の群れに飛び込む。
正拳! 下段蹴り! 回し蹴り!
次々と魔物を部屋の外へと叩き出す!
「こ、こいつ……! 止まらねグフゥ!」
「顔だけは! 顔だけはやめゲフゥ!」
「俺……帰ったら結婚するガハァァァァ!」
適当な事を言いながら飛んで行く魔物達。
そして、最後の二体。
それは、以前強硬派の街に行った時に、門番をして居たあの竜人達だった。
「ふっふっふ……遂に俺達のバトルアックスが火を吹く日がゲボハァァァァ!」
吹き飛ばす。
バトルアックス? 知ったこっちゃねえ!
こっちは色々と忙しいんだよ!
「どうしたぁぁ! もう終わりかぁぁぁぁ!!」
魔物達に向かって叫ぶ。
もう、何が起こっているのか分からない。
とにかく、今は目の前に出て来た奴等を、全員ぶっ飛ばす……
「やれやれ、忙しい奴だねえ」
そんな俺の頭に、ドサリと降ってくる猫。
白と茶色のサイベリアン。
我が人生の師匠、賢猫リンクス。
「ミツクニ、少し落ち着きなよ」
「し、師匠……!?」
「お前達もだ。それくらいにしときな」
リンクスの一声で、全ての魔物が凍り付く。
流石は賢猫リンクス。
彼女の格は、そこらの魔物と比べるまでも無い。
「ミツクニ、随分とやられちまったねえ」
頭から降りた後、リンクスがはっと笑う。
久々にその笑い方を見た俺は、怒る気力を失ってしまった。
「こいつらも悪気は無いんだ。許してやりな」
「まあ、許すも何も、仕方の無い事です」
テト達は勇者ハーレムだが、今は敵側の存在。遺跡を攻撃するのは当然の行為だ。
暴走した魔物達も、大事に思って居た二人がこんな事になり、娘を奪われた父親の気持ちになってしまったのだろう。
「それにしても……」
遺跡の心臓である光柱を見上げる。
ノイズが混じりながらも、何とか形を保っている∞の光。
声を掛けてみるが、流石に応答は無い。
「はあ……」
思わず吐いたため息に、リンクスが笑う。
「相変らず残念な男だねえ」
「そうですね。残念な男です……」
残念な男。
運が悪いという言葉を使わなかったのは、運と言う言葉が嫌いな俺に対しての、リンクスなりの気遣いだろう。
だけど、確かにこれは残念な状況だ。
「予言の真相は当分闇の中か……」
「まあ、あの科学者の娘達も居るんだ。そのうち直るだろうさ」
それはつまり、あの狂科学者や錬金術師を、ここに常駐しなければいけないという事。
そして、恐らくこの後も、義父と化した魔物達が、この遺跡に攻めて来るのだろう。
「頭が痛い……」
「おや、二日酔いかい?」
リンクスの冗談に鼻で笑って見せる。
遠退いた予言の真実。押し寄せて来る魔物達。
世界を救うという目的から大きく外れた戦いが、今ここに始まってしまった。




