青い桜の道標
広い荒野に桜の花びらが散る。
青い桜の花びら。
ヨシノ=ハルサキによる、景色を楽しむ為の特殊魔法だ。
荒野の中心で、ハルサキ家の軍勢と俺達の仲間が杯を交わす。
戦いを終えて、健闘を褒め合う喜びの杯。
今は敵も味方も無い。
否、最初から敵など居なかった。
お互いに相手を想い、相手の為に戦って居た。
そんな中で……俺と来たら。
「本当にすみませんでしたぁぁぁぁ!!」
地面に土下座して叫ぶ。
相手は実弾で攻撃してしまった人達。
それは、ハルサキ家でお世話になったメイドの方々だった。
「もう! 何と詫びて良い物かぁぁぁぁ!」
何度も何度も頭を下げる。ついでに地面に額を擦り付ける。
それを見たメイド達は、何も無かったかのようにケラケラと笑った。
「別に良いですよ。怪我ももう治って居ますし」
「しかし! しかしですね!」
「まあまあ。これでも飲んで少し落ち着いて」
「はい! 頂きます!」
言われるままに、渡された杯を飲む。
微炭酸の黄色い液体。
これに似た飲み物を、俺は現実世界で見た事があるぞ?
「……あの、これは?」
「タルコールです」
「タルコール?」
「未成年でも飲めるお酒です」
「いや、お酒って時点で、未成年は飲めないんじゃ……」
「飲めるのよぉ」
突然会話に割り込んで来る女子。
それと同時に、鉄球が俺の腹にめり込んだ。
「リ、リズ……飲み物を飲んだ直後の、腹への攻撃は……」
「ここではろれるのよぉ」
呂律の周らない舌で言いながら、こちらへと近付いて来るリズ。
頬が赤く、目がトロンとしている。
この感じ……さては貴女も、タルコールを飲みましたね?
「ミツクニぃ。抱っこぉ」
リズの口から放たれた衝撃の一言に、ゴクリと息を飲む。
「抱っこ! お姫様抱っこぉ!」
「よーし、少し冷静になろうか」
「ろうしてぇ? 私わ姫様らろよお!」
「うん、リアル姫様なのは俺も知っている」
「らからぁ! 抱っこぉ!」
リズが俺の胸に飛び込んで来る。
何これ? ラッキーイベント?
いや! むしろ怖い!
タルコールでデレるリズが怖い!!
(だ、大丈夫なのか? これをリズが覚えて居たら、後に壮絶な鉄球祭りが……)
「そこぉ! イチャイチャしなぁい!」
俺とリズの間に魔法陣が発生して、お互いに吹き飛ばされる。
それをしたのは、シオリ=ハルサキ。
「もうぅ! ミツクニはいぃっつもリズとイチャイチャしてぇ!」
「いや、そんな事をした覚えは一ミリも無い……」
「私もらっこぉ!」
今度はシオリが飛び込んで来る。
本当は避けたい所だが、それで怪我をされても困るからな。本当に仕方なくだけれど、ここは大人しく受け止める事にしよう。
「らめえぇぇ!」
俺達の間に、再び魔法陣が発生する。
それをしたのは、勿論リズだった。
「ミツクニは私の許嫁らのぉ!」
「それはもう嘘って知ってるんらからぁ!」
俺を挟んで攻撃魔法を展開する二人。
え? まさか、ここで殺り合うんですか?
待て待て! お前等酔って居て手加減とか絶対出来ないだろ!?
「ミツクニはぁ! 私のらんだからぁ!」
「違うろぉ! 皆のミツクニらのぉ!」
よーし、困ったぞ?
このまま魔法を使われてしまうと、間違いなく俺に直撃する。
酔った勢いで殺されるとか、流石に笑えないよ?
「君達、少し落ち着きたまえ……」
『どかーん!』
攻撃魔法を放つ二人。
よし……俺死んだ。
残念! 俺は世界を救えなかったよ!
「少しおふざけが過ぎますね」
声と同時に発生する魔法障壁。
放たれた魔法はリズとシオリに跳ね返り、二人は漫画みたいに吹き飛んで行った。
「全く、あの二人は小さい頃から変わらないのだから……」
ヨシノが笑顔でため息を吐き、俺の方へと歩いて来る。
「ミツクニさん、大丈夫でしたか?」
黙ってヨシノに頷いて見せる。すると、ヨシノが近くにある椅子に座った。
「ミツクニさん。私と少し、お話をしませんか?」
首を傾げてこちらを見ているヨシノ。
特に断る理由も無かったので、俺は黙って頷き、ヨシノの正面にある椅子に座った。
「今回の事、色々と済みませんでした」
座ったまま頭を下げて来るヨシノ。
それに対して、慌てて首を横に振る。
「迷惑をかけたのは俺です。何も知らずに、一人でテンパって……」
「テンパ?」
「あ、いえ。ええと、一人で混乱して……」
少し酔っているせいか、上手い言い回しが思いつかない。
「ふふ……」
そんな俺を見て、ヨシノが上品に笑う。
「ミツクニさんは、相変らずですね」
何が相変らずかは分からないが、妙に納得してしまい、苦笑いを返した。
「そうですね。俺は相変らずです」
ふうとため息を吐き、ゆっくりと俯く。
そして、口を滑らせる。
「リズに召喚されて、この世界に来ました」
言った後、近くにあったお茶を一口飲む。
「最初は軽い気持ちで、言われるままに行動して来ました。でも、途中で納得が出来なくなって、世界を周って色々と調べて……」
あれ? これって、話して良い事だっけ?
……まあ、良いか。
とにかく今は、俺を導いてくれた師匠に、話を聞いて欲しい。
「少しでもこの世界を平和に出来ればと思って、出来る事をやって来たつもりです。でも、状況は悪化するばかりで、俺も皆に助けられてばかりで……」
自分が何を言いたいのか分からない。
だけど、言葉が止まらない。
「……人間と魔物が仲良く暮らすなんて、所詮は絵空事なんでしょうか」
そう言って、力なく笑う。
全く、俺は一体何様なのだろう。
自分で言っておきながら、情けなくなってしまう。
「そんな事はありませんよ」
そんな俺の言葉を、師匠が救い上げる。
「ミツクニさんの行動は、この世界の人達に、良い影響を与えて居ます」
そうなのかな。
もしそうならば、頑張って来た甲斐があったのかも知れないな。
「ほら、見て下さい」
言われるままに周りを見る。
ハルサキ家の人達と俺の仲間達。そして、前に助けた魔物の残党。
皆わだかまり無く、楽しく騒いで居る。
「ここには、種族の壁が存在していません」
ああ、そうだ。
これが、俺の望んで居る未来。
世界の全てを、この状態にしたいんだ。
「ミツクニさん。人間と魔物は、本当に仲が悪いのでしょうか?」
唐突に質問を投げ掛けて来るヨシノ。それに対して、俺は素直に答えを考え始める。
魔物と人間は、昔から敵同士。
一時は和平を結ぼうとしたが、その最中に人間側の王が魔物に殺されてしまい、戦争をしている。
そして、それを止める為に、俺達はここで戦って居る。
(……あれ?)
疑問。
俺の頭の端に、小さな何かが引っ掛かる。
だけど、それが何か分からずに、言葉にする事が出来ない。
「ヤマトさんは、今何をしているのでしょうね」
ヨシノの話が突然変わり、頭が混乱する。
「どうしてラプターは、直接魔物達を攻撃せずに、この遺跡を攻撃して居るのでしょうか」
それは、俺達が魔物領への攻撃を邪魔しているからで……
……いや待て。何かおかしくないか?
もし俺がラプターの指揮官だったら、この遺跡なんて放っておいて……
そして、俺は一気に冷静さを取り戻す。
小さく息を飲み、ヨシノに視線を向ける。
真っ直ぐに俺を見ているヨシノ。
「師匠、もしかして……」
「私に答えを求めてはいけません」
ヨシノが瞳を閉じ、お茶を一口飲む。
「言葉で語られる真実は、表面的にしか理解出来ないのですから」
やっぱりだ。
どうやら俺は、何か勘違いをしている。
「迷いは無くなりましたか?」
額から流れ落ちる冷汗。
喉がカラカラになり、お茶を一気に飲み干す。
飲み終わってヨシノを見ると、ヨシノはいつものように微笑んで居た。
「さて、私達はそろそろ帰りましょうか」
ゆっくりと立ち上がるヨシノ。それに合わせて、俺も立ち上がる。
「師匠、ありがとうございます」
ヨシノに対して深々と頭を下げる。
「私達は、いつでもミツクニさんの味方ですから」
心強い言葉。
だけど、それに甘える訳にはいかない。
どうやら俺は、見つけなければならないようだ。
異世界から来た俺だけが知らない、この世界の『本当の真実』を。




