やりすぎ駄目、絶対
狂人達というのは、時に我々の考えて居る斜め上の行動を取る。
その行動は、常人にとって理解し難い事が多いのだが、それを見た常人は、理解出来ずとも圧倒されてしまう。
例えば、今の俺が置かれて居る状態がそれだ。
「電撃スイッチオン!」
フランが謎のボタンを押すと、遺跡の周囲に電磁棒が飛び出して、襲って来た魔物達を痺れさせる。
「催涙スイッチオン!」
続けてミリィがボタンを押すと、その電撃棒に穴が空き、そこから催涙ガスが発生する。
電撃と催涙ガスの同時攻撃。
その場所に居た魔物達は、それぞれに悲鳴を上げて、その場に倒れて行った。
(これは……本当に酷いな)
遺跡の屋上でその地獄絵図を眺めながら、思わずため息を吐く。
なぜこんな事が起きてしまったのか。
その理由を説明する為に、この戦闘が始まった少し前に遡る事としよう。
『警告、魔物の群れが攻めてきました』
フラン達が各々の研究施設に足を運んだ後、それは突然鳴り響いた。
俺は直ぐに中央施設から出ると、全力疾走で屋上へと駆け上がる。
そこから見えたのは、魔物側の大軍勢だった。
「ミツクニさーん」
どこからか声が聞こえて、周囲を見回す。
すると、地面の端にスピーカーらしきものがあり、そこから声が聞こえて来た。
「フランか?」
「そうでーす。研究施設に放送マイクがあったので、それで交信していまーす」
少し弾んだ声で語るフラン。
きっと、研究施設に色々な機械があって、興奮しているのだろう。
「魔物側の軍が攻めて来たんですよね?」
「ああ、東側から来てる」
「なるほどぉ。そうですかそうですかぁ」
スピーカーの先で小さく笑うフラン。
嫌な予感がしたので、早めに尋ねてみる。
「なあフラン、何か企んでないか?」
「いえいえ」
質問に対して、フランがすぐに否定する。
「別に私は、研究施設に設置してあった迎撃システムを使ってみようだなんて、一ミリも思っていませんよ?」
「使う気満々じゃねえか」
「いやあ、そんなそんな」
わざとらしくエヘヘと笑うフラン。
見た事も無い謎の機械が目の前にあって、そこに狂化学者であるフランが居たら、使わない訳が無いだろう。
「頼むから、使うなら危なくない感じの奴を使ってくれ」
「え? 使っても良いんですか?」
「駄目って言っても使うだろ」
「いやあ、どうでしょうねえ?」
こいつ……俺が許可する事を分かって居て、わざと茶化して居るな?
しかし、フランは約束を守る女子だ。
危険な物を使うなと言えば、本当に危険そうな装置は使わないだろう。
「ミツクニさーん」
再びスピーカーから声が聞こえる。
この声は……ミリィか?
「この錬金施設、凄いです!」
話しているミリィの声が弾んで居る。
きっと彼女も、今までに見た事の無い装置を見て、興奮して居るのだろう。
「錬金釜が迎撃システムと連動していて、錬金した物を外に射出する事が出来るみたいで……!」
「頼むから、危ない事はしないでくれ」
「大丈夫です! 今回作成したのは催涙ガスですから!」
それなら殺傷力は無いか。
しかし、危険な物に変わりはないぞ?
「そう言う事なので、使ってみますね!」
「おい、ちょっと待て……」
「それでは……!」
フランとミリィの声が重なる。
『戦闘スタート!』
……で。
その結果が、これだ。
「た、助けて……!」
悲鳴と共に倒れて行く魔物達。
自分達が狂人達の実験に付き合わされて居るだなんて、全く思って居ないだろうな。
「ミツクニさーん。次は落とし穴でーす」
フランの声に少し遅れて、魔物達が居る場所の地面が割れる。
「ミツクニさん! 睡眠ガスです!」
ミリィの声と同時にガスが発生して、魔物達が次々に倒れて行く。
「ミツクニさーん」
「ミツクニさん!」
一応ではあるが、俺に報告してから装置を使っている事は、褒めておこう。
だがしかし、流石にやり過ぎだ!
「メリエル! ミント!」
俺の掛け声に応じて二人が現れる。
「みつくにー。どうしたのー?」
「うちの狂人達が暴走して、魔物達がピンチだ!」
「それで、どうすれば良いのですか?」
「スケルトンを使って、怪我人を遺跡内に収容してくれ!」
それを聞いた二人が目を丸める。
「攻めて来た魔物達を助けるのですか?」
「ああ。だって、見ろよ」
魔物達が攻撃を受けている場所を指差す。
電気、ガス、落とし穴……
無限に繰り返されるその攻撃風景は、見るに耐えない状況だった。
「流石に可哀想だろ……」
「確かに……」
メリエルがごくりと息を飲む。
死の天使さえも唸らせる地獄の光景。
本当に危険なのは、敵じゃなくて勇者ハーレムなんじゃないか?
「とにかく頼む。このままじゃ全滅だ」
「わかったー!」
「分かりました」
そう言って、ミントが大量のスケルトンを召喚する。
メリエルがスケルトンを操作して、次々と魔物達が遺跡内に運ばれて来る。
運ばれて来た魔物達は全員がボロボロで、既に戦意を失っていた。
「よし! 後は怪我を治せば……!」
そこまで言って、ハッとする。
怪我を……治す?
「不味い!」
忘れていた事を思い出して走り出す。
今この遺跡に存在して居る、メリエル以外に治療魔法を使える人間。
そんな人間は、あの人しか居ない!
「皆! 大丈夫か……!?」
医療施設に辿り着き、大声を上げる。
しかし、既に遅かった。
「あらぁ、ミツクニ君」
魔物達にマウントを取って、治療魔法をかけまくって居る痴女。
保健室のエッチなお姉さん、テレサ=マージン。
治療された魔物達は、地面に倒れて小さく痙攣していた。
「何をしたんですか!?」
「勿論治療よぉ」
「治療してこんな状態になるか!」
幸せそうな表現をしながら、うめき声をあげている魔物達。きっと、壮絶なセクハラ治療が行われたのだろう。
「うふふ……やっぱり魔物って元気ねぇ。ほら、こんな所がこんなに……」
「言ってはいけなぁぁぁぁい!」
言葉の途中でテレサの言葉を遮る。
これは健全な物語なので、エッチな発言は控えて頂きたい!
「とにかくぅ、怪我は治しているから大丈夫よぉ」
「治ってすぐに天国行きだけどね!?」
「あらぁ? こんなに大勢を瞬時に治療出来るのなんてぇ、私か死の天使くらいなのだからぁ、もっと感謝して欲しいわぁ」
それは……確かにその通り。
異世界を旅して周った時も、メリエルやテレサのように、魔法で他人を瞬時に回復出来る人には出会わなかった。
恐らく、治療魔法と言うのは、とても難しい魔法なのだろう。
(……まあ、何と言うか)
黙ってテレサを見つめる。
治療方法は何とも言い難いが、運ばれて来る魔物達は直ぐに元気になって、地面に転がっている。
結局の所、治療は出来ている様なので、それ以上は言わない事にした。
「ミツクニさーん」
部屋の入り口から声が聞こえてくる。
振り向いた先に居たのは、やり切った表情をして居るフランとミリィ。
「魔物達は無事に全滅しましたー!」
「無事にって、あのなあ……」
「大丈夫です。一人も殺して居ませんから」
フランがそう言うのだから、魔物は一人も死んで居ないのだろう。
しかし、これだけは言っておかなければならない。
「お前達……」
「はい?」
「何でしょうか?」
二人が首を傾げる。
「……もう魔法学園に帰れ」
その言葉を聞いて、二人の時間が凍る。
「……え?」
最初に声を上げたのは、フラン。
「どうしてですか? こんなに効率良く敵を制圧したのに」
「その成果だけは評価しよう」
「ですよね! ですから、これからも私達の力で……!」
「黙れ小娘!」
二人を睨みながら、地面に転がって居る魔物達を指差す。
「見ろ! この怯え切った魔物達の姿を!」
「どちらかと言えば、幸せそうな表情をしていますが……」
「それはそれ! これはこれ!」
手を交互に動かして、都合の悪い事柄を放り投げる。
「お前等の事だから! さっき使った兵器よりエグイ兵器を作る気だろ!」
「いやいや、そんな事は考えてませんよぉ」
ニヤニヤを隠せないフラン。ミリィは呆けて居るが、天然だから絶対に作ってしまうだろう。
この二人をこの遺跡に置くのは、危険すぎる。
「やりすぎ駄目! 絶対!」
「大丈夫ですよ。次はもっと気持ち良く、瀕死状態になれるように……」
「良いから帰れぇぇぇぇ!」
俺は頭を抱える。
この二人の事が嫌いな訳では無い。むしろ、勇者ハーレムの中では好きな方だろう。
だけど、それでも一緒には居られない。
勇者の親友役である俺ごときでは、彼女達を制御する事は出来そうに無い。




