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異世界勇者の親友役になりました  作者: 桶丸
異世界放浪編
61/157

魔物達のホープ

 スケルトン部隊を全滅させた俺達は、ネクロマンサーであるネクロを仲間にした。

 ネクロは勇者ハーレムなので、魔法学園に誘導しようと思ったのだが、召喚したスケルトンの後処理が残って居て、まだここを動けないらしい。

 そこで俺達は、後処理が終わったら合流する約束をして、再び強硬派の拠点を目指す事にした。



 小高い丘をバイクで駆け上がり、バイクを止めて先を眺める。

 見えたのは、石の外壁に囲まれた大きな街。

 どうやら、目的地である強硬派の拠点に辿り着いたようだ。


「意外と遠かったな」


 便利袋から双眼鏡を取り出して、街の入り口を凝視する。

 入り口には、竜人の門番が二人。その赤と青の竜はピカピカの鎧を身に纏い、大きなバトルアックスを持っている。

 その出で立ちは、明らかにそこら辺に居る魔物達とは格が違った。


「さて、どうやってあそこに入ろうか」


 双眼鏡をしまいながら言うと、ヤマトがえっという表情でこちらを見る。


「もしかして、何も考えてなかったの?」

「ああ、来てから考えようと思ってた」


 頭を掻く俺。言葉を失うヤマト。


「……普通に考えたら、門に近付いた時点で、人間は拘束されると思うんだけど」

「だよなあ」


 中身のない会話を繰り返しながら、再び門付近を眺める。

 普通であれば、ヤマトの言っている事の方が、正しいだろう。

 しかし、ここは異世界だ。

 今までもそうだったので、きっとこの後、勇者に都合の良い展開が起こるはず……


(……来たぜぇ)


 門を見ながら小さく笑う。

 俺の視線の先に現れた一人の女子。

 女子はこちらに気付くと、ふっと笑って手を振って来た。


「よし、行くか」

「え……?」


 理解していないヤマトをよそに、俺達は丘から滑り降りる。地面に辿り着いて前を見ると、門の前に居た女子が既に目の前まで来ていた。


「よう」


 俺の短い挨拶を聞いて、ふっと笑う女子。

 リズの姉、ウィズ=サニーホワイト。


「いやあ、異世界ってのはご都合展開で、本当に助かるなあ」

「それは、ミツクニが勝手にそう思っているだけだ。こちらはお前達が強硬派の領地に入った時点で、ずっと監視して居たんだぞ?」

「へえ、全く気が付かなかったな」


 そっけない言葉に、ウィズがやれやれと言う表情を見せる。


「それで、ミツクニはどうして、こんな敵地にまで来たんだ?」

「観光」

「ほう。それは面白いな」

「大体、俺にとってここは敵地じゃ無いし」

「そう思って居るのは、ミツクニだけかも知れんぞ?」


 それを聞いて、後ろを振り向く。

 後ろに居た仲間達は、流石に警戒しているようだった。


「……ウィズ。街に入るのは危険なのか?」

「そうだな……」


 顎に手を当てて考えた後、ウィズがふっと笑う。


「面白い事が起こるだろうが、まあ大丈夫だろう」

「面白い事って……場所から考えると、悪い事しか考えられないんだが」

「そう言うな。何かあったら私が守ってやる」

「そうか。それじゃあ、行ってみるか」


 そう言って、俺達はウィズの背中を追って、強硬派の街へと足を進めた。



 門の前に辿り着くと、門番のドラゴン達がこちらを睨んで来る。

 ギラつく細い瞳。殺気は放って居ないようだが、何処かソワソワしている。

 襲って来るか不安ではあったが、ウィズが守ってくれると言っていたので、そのまま門の奥へと入って行った。


(これは……)


 無事に門を抜けて最初に見えたのは、活気のある商店街。

 賑やかな街並み。人型の魔物や獣達が、目まぐるしく働いて居る。

 強硬派の街と言うくらいだから、武装された魔物達が蔓延っていると思って居たのだが、まるで帝都のような賑やかさだった。


「強硬派の魔物は、全員ここで暮らしてるのか?」

「ああ。ここは人間側との国境の最前線でな。昔は領土を守る戦士達が暮らして居たんだが、今は強硬派の魔物しか住んで居ない」


 それを聞いて、少し考える。

 つまり、この大陸の今の領土はこんな感じか。


 北、穏健派の領地。

 西、人間の領地。帝都。

 南、魔法学園。人間と穏健派の街。

 東、強硬派の領地。


 領地の規模は北と西が大きいが、戦力はある程度バランスが取れているようで、それほど大きな戦は起こって居ないようだ。


「何か、群雄割拠って感じだな」

「群雄? 何だそれは?」

「それぞれの領地に英雄が居て、国の覇権を狙ってるって感じの意味だ」

「なるほど。確かにそうだな」


 ウィズが街を眺めながら頷く。


「今はまだ静かだが、各領地では戦に向けて戦力を高めている。きっかけさえあれば、いつでも戦争が起こるだろう」


 それを聞いて、少し悲しくなる。

 今目の前に広がっている光景は、とても平和に見える。

 しかし、ここに居る人達はそれに満足しておらず、争いの準備をしている。

 どうして、今の状況で満足出来ないのだろうか。


(まあ、色々と事情はあるんだろうけど……)


 俺が戦争を望まなくても、他の誰かは戦争を望んで居る。そして、俺がそれをどう思おうが、戦争は止まらない。

 だからこそ、せめて争っている各領土を、見て回りたかったんだ。


(それにしても……ここは本当に平和だな)


 改めて街を見回す。

 帝都では各所で小競り合いがあったのに、ここではそれが全く無い。

 一番殺伐としていると思って居たこの場所が、今まで見て来た場所の何処よりも、平和に見えた。


「……おっと」


 ぼうっと街を見て居たせいで、対面を歩いて居た魔物に肩が当たってしまう。


「すみませ……」


 謝ろうとして相手の方を見る。

 そこに居たのは、ライオンの獣人。


(お、おう……?)


 身長は軽く二メートルを超え、体格も俺の倍以上はある。

 これは不味い。

 彼が軽く腕を振ったら、俺の頭など簡単に吹き飛んでしまうだろう。


「んん……?」


 ライオンの獣人が身を屈めて、真っ直ぐに俺を見つめて来る。


「お前……」


 口元からはみ出ている牙がきらりと光る。

 ヤバい……殺される。


「……ミツクニ! お前! ミツクニ=ヒノモトだな!?」


 え! 俺を知ってるんですか!?

 これは本格的に殺されるタイムですか!?


「お前等! ミツクニだぞ!!」


 ライオンの叫びで、商店街に居た全員が俺の事を見る。その瞬間、仲間達が警戒態勢に入った。


(来るか!?)


 そう思って居る間に、ライオンの両腕が俺の両脇を掴む。

 そして……!


「俺達のホープが街に居るぞぉぉぉぉ!!」


 俺を天高く持ち上げた。


(……え? 何?)


 訳が分からないまま、周囲の様子を窺う。


「ミツクニって……水攻めを止めたミツクニか!」

「捕虜救出のミツクニ!」

「おい! 死の天使様達も居るぞ!」


 笑顔で集まって来る強硬派の魔物達。

 やがて、商店街一帯は、完全にお祭り状態になってしまった。


「良く来たな! お前等の事を歓迎するぜ!」


 ライオンが俺を地面に降ろすと、他の魔物達も続々と集まって来る。


「うちで作ったリンゴだ! 食え!」

「喉乾いてない? ジュースあるわよ!」

「天使様! 死の天使様ぁぁぁぁぁ!」


 両手に持てないほどに食料を渡されて、動けなくなる。仲間達も食料を貰ったり五体投地されたりで、完全に動けなくなって居た。


「ウ、ウィズ! これは……!?」


 もみくちゃにされる俺達を見て、ウィズが嬉しそうに微笑む。


「お前達は知らなかっただろうが、強硬派の間では、お前達は希望なんだ」

「き、希望?」

「ああ。魔法学園に攻めた時は、自分が傷付きながらも捕虜を助けてくれた。水攻めの時は、最善の形で魔物達の命を救ってくれた」

「でも、俺達はお前達の仲間を……」


 殺した。

 リズ救出作戦の時も、魔物の隠れ里防衛の時も。

 俺達は躊躇せずに、強硬派の魔物を……殺した。


「ミツクニ」


 俺の思いを察したかのように、ウィズが口を開く。


「戦場での死は必然だ。それなのに、お前は敵である魔物の身を案じて、何度も命を救った。私達の間では、そう言う者を希望ホープと呼ぶんだよ」


 嬉しそうに話すウィズ。

 だけど、俺は全く笑えない。


(……やめてくれ)


 唇を噛み締めて俯く。


(俺は……そんな人間じゃないんだ)


 魔法学園で魔物を救ったのは、俺がただ救いたかったから。水攻めを阻止したのも、ウィズが率いていた魔物達に、生きて欲しかったからだ。

 全ては俺個人の我儘であり、人間側や魔物側の総意では無い。

 だから、俺が褒められる事なんて……何一つ無いんだ。


「ミツクニ君。凄いね」


 俺の横でヤマトが微笑む。


「ミツクニ君が助けたいって思った気持ちが、皆にも伝わったから……」

「やめてくれ!」


 持っていた果物を落として、大声で叫ぶ。

 その瞬間、周りが一気に静かになった。


「……あ」


 呆然とする周囲を見て、慌てて苦笑いを作る。


「いや、俺こういうの苦手で……」


 そう言いながら、苦笑いを作り笑顔に変える。


「俺の事を良く思ってくれて、本当に感謝します。でも、気にしなくて良いので」


 そう言った後、落としてしまった果実を便利袋にしまい、無言で歩き出す。

 少しすると、後ろから声が聞こえて来た。


「流石だな。あれがホープの佇まいか」

「驕らないのね。素敵……」

「俺達も負けねえように頑張らねえとな!」


 再び賑やかになる商店街。

 それを背中に受けて、小さくなる。


(……そんなんじゃない)


 両手を見る。

 少しだけ土がこびりついた両手。

 その手の先に映る、殺した魔物の数々。


(そんなんじゃ……ないんだ)


 懺悔はしない。

 後悔もしない。

 だけど、俺が希望などと言う事だけは……絶対に無い。

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