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異世界勇者の親友役になりました  作者: 桶丸
異世界放浪編
55/157

防戦の青月

 深夜。

 俺達はクラウの部屋のベランダに集まり、襲撃に備えて待機している。

 空の上には、ぽっかりと浮かぶ青い月。

 そう。

 今日は予言の日だ。



『光が光を襲い、闇と光の陰が増す』



 手帳に書かれた予言を眺めながら、その意味について考える。

 光は人。闇は魔物。

 人が人を襲い、それによって人間と魔物の対立が深まるという事か?


「うーん」


 ベランダに腰かけながら唸っていると、リズが横に来て予言書を覗き込む。


「どうしたの?」

「ちょっと気になる事があって」


 それだけ言って黙って居ると、リズがそっと鉄球を取り出す。


「そこまで言ったら、普通言うでしょう?」

「そうですね」


 素直に同意すると、リズが鉄球をしまう。

 本当は確証の無い事を言いたく無いのだが、リズが望んだので仕方が無い。


「この予言、おかしくないか?」


 その一言に、リズが首を傾げる。


「予言って、予測される未来を示してあるものだろ?」

「そうね」

「それなのに、俺達が見て来た予言は、全て事が起こる直前か直後に示されている」

「そう言えば、そうね」

「それって、誰かがこれから起こる事を推測して、俺達にメッセージを送って来る事と、全く同じじゃないか?」


 それを聞いたリズが、腕を組んで考え始める。


「つまり、これは昔からある予言じゃなくて、誰かがリアルタイムで送って来ていると言いたいの?」

「ああ」

「確かにその可能性はあるけれど、まだ予言である可能性は、残っているんじゃないかしら?」

「それなんだが……」


 俺は今までに送られて来た予言を示す。


 一の予言『赤き月の一の夜。大地が朽ちて、終わりの始まりが訪れる』

 二の予言『第二の赤月。世界は三つに引き裂かれ、光は闇に汚される』

 三の予言『第三の赤月。ひな鳥の箱は崩れ落ち、花々は赤く染まる』

 四の予言『魔が己を食い合う時、人は魔を洗い流す』

 五の予言『光が光を襲い、闇と光の陰が増す』


「この予言。最初の方は確かに予言っぽいけど、後半になるにつれて、俺達の周りに起こる事を、ピンポイントで予言していないか?」

「言われてみれば、そうとも言えるわね」

「そう考えると、やっぱりこの予言は、誰かが意図的に示しているという事になる」


 そこから考えられる推測が一つ。


「……この予言は、俺達を都合良く動かす為の、システムなんじゃないか?」


 これは、あくまでも推測だ。

 だけど、それが答えだと言われても、矛盾が無いように思える。


「もしそうだとしたら、どうして勇者がヤマトなのかしら?」


 不意に言ったリズの質問に言葉を失う。


「それに、勇者ハーレムを集めている理由も分からないわ」


 それを聞いて、俺の頭にもう一つの考えが浮かんで来た。


「もしかして、誰かがヤマトを英雄にしようとして居るとか……」


 それを言った所で、急に背筋が寒くなる。

 世界が滅ぶ事を防ぐ為の予言。

 そのはずなのに、少し見方を変えただけで、ヤマトを成長させる為に、誰かが意図的に用意した筋書きのように思えて来た。


「なあリズ。ヤマトって結局どういう奴なんだ?」

「分からないわ。孤児院育ちだから、出生も分からない」


 その謎がヤマトの存在感を際立たせる。

 漫画やアニメだと、神に選ばれた存在とかで済むのだが……


「うーん」

「考えても答えは出ないわよ」

「そうだけど、考えておいて損は無いように思える」


 予言の解読は、世界を救う事に繋がる。それならば、答えが見えなくても考える事は大切だ。

 むしろ、その答えを見出す為に、俺が召喚されたんじゃないか?


「……うむ! 全く分からない!」


 浮かんで来た考えを空に吹き飛ばして、ふうと息を吐く。


「とりあえず、今は予言回避を頑張るしかないな!」

「そうね。難しい事を考えるより、黙って予言を回避して居た方が楽だわ」


 いやいや、楽では無いよ?

 今までもギリギリだったしね。


「それじゃあ、改めてクラウの護衛を……」


 言葉の途中で、突然入り口の扉が開く。

 そこに現れたのは、黒装束の集団。

 暗殺というのでベランダに居たのに、正面から現れるとは思って居なかった。


「ヤマト!」


 俺の言葉を聞く前に、ヤマトが黒服の集団に襲い掛かる。同時にリズとシオリがクラウの横に陣取り、防戦の構えが整った。


「正面から侵入って! 城内の兵士達は何やってたんだよ!」

「起こってしまった事は仕方ないでしょう!」

「ええい! 仕方ないな!」


 慌てて懐からハンドガンを取り出し、敵に向かって銃口を向ける。

 しかし、既に部屋の中では乱戦が始まっており、介入する隙が無かった。


「……出遅れたぜ」

「マスターは相変らずだな」


 ベルゼのツッコミを黙って飲み込み、ベランダから外を眺める。すると、城の上下から、黒服の男達が迫って来て居るのが見えた。


「ビンゴだぜぇぇぇぇ!」


 暗殺だもんな! そりゃあ外からも敵来るよな!

 撃て撃て! 全て撃ち落せ!


「マスター。上から三人」

「そら!」

「下から二人」

「おうい!」

「左右に一人」

「でありゃい!」


 言われるままに、次々と敵を撃ち落とす。

 ゴム弾だから相手は死なないよ?

 まあ、撃った敵は下に落ちて行くから、その後は知らないけどね!


「おらおらおらぁぁぁぁぁぁ!」


 ハンドガンで次々と敵を撃ち落す。

 やがてベランダに登って来る者は居なくなり、室内戦闘だけが続いていた。


「残念だが、俺に出来るのはここまでのようだ」

「うむ。あそこにマスターが介入するのは、危険過ぎる」


 相変らず、メインの戦闘には参加する事が出来ない親友役。

 まあ、参加したら死ぬからね!


「それじゃあ、改めて……」


 俺はハンドガンを懐にしまうと、便利袋から望遠鏡を出し、城の周囲を見回す。

 一通り見回したが、敵の気配は無い。


「ふう。どうやら大丈夫みたいだ……」


 言いかけて、ハッとする。

 反対側の塔。その先に見える景色。

 王の寝室に、男が一人侵入して居るのが見えた。


(光が光を襲う……!)


 どうして考えなかった?

 クラウを暗殺した所で、陰が増すとは思えない。

 本当の光は……!


「くそっ!」


 咄嗟にワイヤー銃を取り出して、王の寝室に向けて引き金を引く。


「ベルゼ! 俺を持ち上げられるか!」

「少しの間だけならば」

「ワイヤーを全力で引く! 王の寝室まで持ち上げてくれ!」

「了解した」


 ベルゼがアームで俺の両脇を抱える。それと同時に、巻き取られるワイヤー。

 俺達は空中を真っ直ぐに飛び、シールドチャージでベランダの窓をぶち破った。


 ガラスが飛び散る王の寝室。

 俺は両腕のシールドを解くと、侵入して居た男の事を真っ直ぐに見つめる。


「やあ。やっと来たね」


 部屋の入り口で静かに佇んでいる男。

 黒髪、黒瞳、黒スーツ。

 お姫様救出作戦の時に出会った、あの男だ。


「言っただろう? また会う事になるって」


 俺を上から見下ろして、薄笑いを浮かべる男。

 名前は確か……レイジ=ヨマモリだ。


「俺の事を待って居たんですか?」

「ああ。君と少し話をしたいと思ってね」


 王を挟んで対峙する二人。王は何も言わずに、状況を見守っている。

 レイジはゆっくりと歩き出すと、暖炉の前にある椅子に座って話し始めた。


「ミツクニ君。君は人間と魔物が、争わないようにしたいと思って居るらしいね」


 男が知らないはずの情報。恐らく、独自に調べたのだろう。


「とても素晴らしい信念だけど、本当に魔物と人間が、仲良く出来ると思うかい?」


 そう言って、机の上に置いてあったチェスの駒を弄ぶ。


「俺は……仲良くなれると思っている」

「まあ、そうだね。実際に君は、魔物達と仲良くして居るし」


 レイジがチェスの駒を置く。


「そこに居る、国王と同じでね」


 王を見つめるレイジ。

 王は……何も言わない。


「でも、実際はどうだろう。人間は未だに魔物を敵視して居る。仲良くなった所で、最後は戦う運命にあるんじゃないかな?」


 それは、明らかに挑発の言葉。

 それを分かって居ながらも、俺は我慢が出来なかった。


「確かに、戦う運命なのかも知れない」


 この世界に根付いた戦いの根源。それを、ポッとでの俺が止められる訳も無い。


「だけど、戦いたくない人達も居る。俺は、その人達が戦わないようにしたい」


 それが、俺の答え。

 全てを止める事が出来なくても、目の前の戦を止める事ならば、きっと出来る。


「なるほど。面白いね」


 レイジが立ち上がり、こちらを見詰める。


「僕も魔物は嫌いじゃない。今では武器も卸しているしね。でも、戦が終わるとそれが無くなってしまって、凄く困るんだ」


 その言葉は、俺に対する宣戦布告。

 戦争を止める気は無いという、彼の警告だ。


「そう言う事だから、僕はこれからも戦争を誘発させる。それでも、君は抗い続けるのかい?」

「ああ。俺の出来る範囲で、戦争を止める」

「なるほど。良く分かったよ」


 ふうとため息を吐くレイジ。

 次の瞬間、裾からナイフを取り出して、俺に向けて投げつけて来た。


「くっ!」


 殺気を纏ったナイフ。

 戦闘訓練の時とは違い、速くて重い。


「ほら! 次だよ!」


 レイジが一瞬で間合いを詰めて、ナイフを突き出して来る。

 咄嗟にシールドを張って軌道を逸らしたが、レイジは体を捻って脇腹に蹴りを食らわせて来た。


「ぐぅぅぅぅ……!」


 体重の乗った一撃。前のめりになる。


「まだだ!」


 下から振り上げられる蹴り。

 何とか頭を上げて躱したが、再び腹を蹴られて思い切り吹き飛ぶ。

 やはり強い。

 このままでは……王を守れない!


「君は弱い」


 上から見下ろすレイジ。


「君に、他人を守る事は出来ない」


 ゆっくりと、近付いて来る。


「大きな理想を掲げた所で、それを成す力が無ければ、決して事は成しえない」


 正論!

 正論! 正論! 正論!

 だから俺は……! ずっと必死に……!!


「力の無い君は……ここで死ぬんだ」


 ナイフを掲げるレイジ。

 その刃が、俺の頭に振り落とされる。


 終わった。

 俺はここで死んで、国王も殺される。

 だけど、クラウは生き残り、それを守ったヤマトは名声を得る。

 そして、名声を得たヤマトは、きっと俺の想いを引き継いでくれるだろう。


 親友役の俺が死んだとしても、想いは勇者に託されるんだ。


「やれやれ……簡単に諦めるんじゃないよ」


 不意に聞こえる声。

 ふわりと揺れる大気。

 次の瞬間、部屋の中に風が巻き起こり、レイジを反対側の壁まで吹き飛ばした。


(……これは)


 朦朧とする意識の先に見える、白と茶色の獣。

 全てを見透かす瞳。賢猫、リンクス。


「ミツクニらしくないですね」


 ふわりと俺の横に降り立ち、治癒魔法をかけてくれる女性。

 死の天使、メリエル。


「ミツクニ……死なせない」


 俺の前に立ち、黒の翼を広げるゴスロリ幼女。

 魔王、ミント=ルシファー。


「ほら、ミツクニ。立ってください」


 メリエルの微笑みに促されて、ゆっくりと立ち上がる。

 ああ、そうだ。

 俺には、仲間が居る。

 貧弱な俺を信じてくれる、大切な仲間が。


 だからこそ、俺は戦えるんだ。


「これは……予想外だね」


 レイジがゆっくりと立ち上がる。


「噂には聞いていたけれど、まさかここにまで現れるとは」


 ここは帝都。人間の住む街。

 魔物や天使である彼女達が来る事は、自殺行為にも等しい。

 それでも、彼女達は来てくれた。


「こうなると、僕ではどうにも出来ないな」


 レイジはナイフをしまうと、ゆっくりとした足取りでベランダへと歩く。


「今日はこれで終わりだ」


 そして、ベランダの手すりに乗り、ゆっくりと後ろに倒れながら言った。


「ごきげんよう。また会う日まで」


 空に自身を放ち、落ちて行くレイジ。

 その光景を、俺達は黙って見続けていた。



 戦いが終わり、俺は大きく一息付く。

 残されたのは、俺と仲間と国王一人。

 クラウの部屋では、まだ戦闘が続いているようだった。


「……この場所で起きた出来事は、公表されんじゃろうな」


 ベッドに座って居た王が口を開く。


「ヤマト君はクラウを守った事で、更なる名声を手に入れる。それに対して、君は何も得られない。それでも、君はこんな事を続けるのかね」


 そう言った王に対して、俺は小さく笑い掛ける。

 そして、言ってやった。


「続けます。俺の背中を押してくれる人達が、居る限り」

「……そうか」


 答えを聞いた王が立ち上がる。

 王はゆっくりと俺の元に来ると、持っていた物を差し出してくる。

 それは、ハートのマークが刻まれた、質素な指輪だった。


「これを持っていれば、各地に散っている国の従者から情報を貰える。必要になるじゃろう。持っておきなさい」


 指輪を受け取り、まじまじと眺める。

 はっきり言って……ダサい。

 だけど、重要なアイテムなのは確かだ。


「ありがとうございます」


 適当な場所にしまうと不味いので、首に掛けていた精霊王の首飾りを一度外して、鎖に引っ掛けてかけ直す。

 これで、無くす事は無いだろう。


「ふむ……なるほど」


 その光景を見ていた王が、フフッと笑う。


「どうやら君は、まだ行かなければならない所があるようじゃな」


 楽しそうに言った王に対して、首を傾げる。


「その二つを持っていれば、どちらの道も開かれるじゃろう。行ってきなさい。そうすれば、きっと答えも見つかるはずじゃ」


 意味深な事を言う王。

 だけど、冗談のようには聞こえない。


(行くべき場所……か)


 何となく見当はついている。

 だけど、今はヤマト達の戦を終わらせるのが先決だと思い、仲間達とクラウの部屋へと走り出した。

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