表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異世界勇者の親友役になりました  作者: 桶丸
異世界放浪編
50/157

番外編 『最弱だから修行頑張る』

 ミツクニ=ヒノモト。アニメと恋愛ゲームが好きなだけの凡人高校生。

 何の特技も無い俺だが、世界を救う勇者ハーレムを作る為に、勇者の『親友役』として、この異世界に召喚された。

 召喚された当初は、生活する事すら手探り状態だったが、今は様々な人の力を借りて、普通の生活を送れるようになっている。

 しかし、そんな俺にも未だに悩みがある。


 それは……俺が異世界最弱という事。


 元の世界でスポーツなどをやって居なかった俺は、当然武術に関しても無知で、まともに戦えない状態だった。

 最近は未来型ドローンであるベルゼにCQB(近接戦闘)を教えて貰ったおかげで、それなりに戦えては居るが、超近距離の戦いでは、どうしても打ち負けてしまう。


 打ち負ける最大の理由は、異世界人と俺とでは、身体能力が根本的に違う所にある。


 そんな訳で、俺は身体能力の差を補う為に、ハルサキ家の人間から武術を学ぶ事になった。



 早朝。早々に朝飯を食べ終えた俺は、ベルゼと一緒に中庭へと足を運ぶ。

 そこは、ハルサキ家の人々が使う訓練場。

 俺達はハルサキ家の当主の嫁であるヨシノ=ハルサキと、その部下である武闘派メイド達に、今日からここで戦闘訓練をしてもらう事になって居た。

 準備運動を済ませてベルゼと一緒にCQBを反復して居ると、タイミングを見計らって居たかのように、ヨシノとメイド達が現れる。


「ミツクニさん、おはようございます」


 最初に声を掛けて来たのは、ヨシノ=ハルサキ。

 彼女は異世界屈指の魔法使いだが、武術にも長けて居る俺の師匠だ。


「朝から頑張っていますね」

「はい。久々の訓練なので、張り切ってます」


 そう言うと、ヨシノが上品に笑う。

 彼女は動きにくそうな和服姿だったが、それでも俺は彼女に勝てない。

 ここに来た当初、スタングレネードを使って奇襲を仕掛けたのだが、一歩も動く事無く返り討ちにされてしまった。


「それでは、早速訓練を行いましょうか」

「よろしくお願いします」


 丁寧に頭を下げると、ヨシノは再びふふっと笑い、縁側からするりと練習場に降りて来た。

 戦闘訓練の準備が整い、俺とハルサキ家の一同が対面する。


「それでは、最初にやる事なのですが……」

「はい」

「うちのメイド達の攻撃を、ミツクニさんの体に覚えさせましょう」



 それを聞いて、俺は一瞬硬直する。


「……は?」

「ちぎっては投げられてください」


 いやいや、簡単に言って居ますけど、それって俺が凄く痛い奴ですよね。


「……ど、どうしてですか?」


 恐る恐る質問すると、ヨシノが着物の裾から扇を取り出して、俺の頬を貫こうとする。

 その攻撃を何とか躱すと、ヨシノは小さく頷き、口を開いた。


「ミツクニさんは、武術の心得が無いのですよね?」

「そうですが……」

「ですが、回避力は優れて居るようです」


 それは、確かにその通り。

 俺は今までに様々な戦闘訓練をして来たが、フィジカルの差を考慮して、防御では無く回避ばかりを特訓して居た。


「そこから考えて、ミツクニさんは殴り合いよりも、攻撃を避けてからのカウンターを学んだ方が、良いと感じました」

「なるほど。確かにそうですね」

「ですから……」


 実際にメイド達の攻撃を食らいまくって、体で人間の動きを覚えろと。

 魔法学園での特訓も中々にスパルタだったが、ここでもそうなるのか。


「分かりました」


 とは言え、確かにヨシノの言う通りだ。

 身体能力に差があるのだから、相手の力を利用した方が、現実的だし効率的だろう。


「それでは、始めましょうか」


 ヨシノがそう言うと、一人のメイドが俺の前に移動してくる。

 彼女の名前は零。俺が集めている勇者ハーレムの一人。

 勇者ハーレムは個々に才能を持って居るので、彼女が実力者なのは明確だ。


「始め!」


 ヨシノの掛け声と共に、訓練が始まる。


(よし。ここはヨシノ師匠の言いつけ通り、零の攻撃を待ってカウンターを……)


 などと思って居たのだが、何故か零が攻撃して来ない。


「……あの」

「何だ?」

「カウンターの練習なので、攻撃して来て欲しいんですけど……」

「私もカウンターが主体だから、基本的にはこちらからは攻撃しない」

「本末転倒かよ!」


 思わずため息を吐いたが、これでは何時まで経っても訓練にならない。

 仕方ないので、俺は自分から攻撃をしてみる事にした。


「はいいいい!」


 素人仕込みの猫パンチ!

 零は軽く横に避けると、伸びきった腕を捻って俺の体を空に浮かせる。

 そして、空中で身動きが取れなくなった瞬間、とどめの一撃を叩き落として来た。


「ぐふうううう!」


 情けない叫び声と共に、地面にめり込む。

 ……なるほど。柔良く剛を制すとは、こう言う事を言うのだなあ。


「どうした? まだ終わっていないぞ?」


 虫を殺すような目で、俺を見降ろして居る零。

 この目は……殺る気満々の目だ!


「くっ、このおおおお……!」


 安い言葉を放った後、辛そうな表情を作る。

 その裏で、俺はこっそりとスタングレネードのピンを外した。


「よ、よおし! もう一回……!」


 立ち上がろうとした瞬間にグレネードが破裂して、周囲に閃光が放たれる。

 これが俺の必殺技! だまし討ちスタングレネードだ!


「取ったぁぁぁぁ!」


 目をやられて視界を失って居る零。その隙に姿勢を低くして、下段蹴りを放つ。

 しかし、零は俺の足を軽々と掴み、そのままジャイアントスイングを始めた。


「のおおおおおお!」


 クルクルと回された後、砂利に叩き付けられる。

 ……よし。やっぱり勝てないぞ。


「止め!」


 ヨシノの言葉で零が後ろに下がる。

 ゆっくりと立ち上がって砂埃を払っていると、ヨシノが笑顔で近付いて来た。


「ミツクニさん、どうでした?」


 砂埃を払い終わり、思った事を口にする。


「痛いだけでした」

「でしょうね」

「でも、相手の力を利用するというのは、何となく分かりました」


 要するに、相手から向かって来た力を受け流して、自分の動作に繋げれば良いのだな。

 これは、回避に特化した俺の戦い方に合っていそうだ。


「それでは、次に行きましょうか」


 軽く言って、ヨシノが後ろに下がる。

 すると、今度は違うメイドが俺の前に立ちはだかった。


「私は柔道を嗜んでおります」

「……は?」

「それでは!」


 襟元を掴み、有無を言わさず一本背負い!

 待て待て! 掴まれたら捌けないだろ!


「次は空手!」


 早い! 早すぎて捌き切れない!


「相撲!」


 ちょ! 素人が体当たりを捌けるか!


「カポエラ!」


 どこから攻撃来るかも分からねえ!


 ……そんな事が、延々と続いて行った。



 戦闘訓練も終わりに差し掛かり、再び零が俺の前に立つ。

 手に持って居たのは、小さなナイフ。


「……まさか、それを使うつもりなのか?」

「ああ」

「言っておくが、それを急所に食らったら……俺は簡単に死にますよ?」

「そうか。残念だな」


 なるほど。本気なのか。

 それならば……やるしか無いな!


「はっ!」


 零が真っ直ぐにナイフを突き立てて来る。動作が早すぎて捌けないので、後ろに下がってそれを回避した。


「どうした? それでは死んでしまうぞ」


 間合いを詰めながらナイフを振る零。

 やがて、壁まで追い詰められてしまった。


「とどめだ!」


 体の中心目掛けてナイフを突き出す零。

 これは……避けられない!


「はああああああ!」


 咄嗟にベルゼから貰った空間シールドを展開して、両手の甲に装備する。

 そして、シールドを斜めに固定して、ナイフの軌道を横に逸らした。


「貰ったぁぁぁぁぁぁぁ!」


 気合いと共に、思い切り正拳突きを繰り出す。

 しかし、零は反対の手で正拳をずらし、懐に潜り込んで俺を空へと吹き飛ばした。



 地面に強く体を叩き付けられて、ぼうっと空を眺めて居る俺。

 雲一つない青空。

 この異世界は、今日も良い天気だなあ。


「どうでしたか?」


 視界に現れるヨシノ。その表情は、本当に楽しんで居るように見える。

 この微笑み方……やはりシオリの母親なんだな。


「何と言うか……とても勉強になります」

「実践に勝る訓練無し、です」


 確かにその通り。

 ナイフという明確な殺傷力の前に、俺の体は自然とベストな判断をした。

 まあ、そのままナイフが刺さって居たら、俺死んで居たけどね!


「ほら、ミツクニさん」


 ヨシノの手を借りて立ち上がる。

 目の前に居たのは、笑顔のメイド達。


(……楽しそうだなあ)


 それを見て、俺も笑ってしまう。


 勇者ハーレムを作らなければ世界が滅ぶ。

 それ以前に、俺が弱ければ、勇者ハーレムを作る前に死んでしまう。

 だから俺は、例え異世界最弱であっても、あがき続けるんだ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ