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異世界勇者の親友役になりました  作者: 桶丸
異世界学園編
30/157

罠と信頼

 魔法学園で行われている武術大会。

 メイン会場では各学年の代表達が力を発揮して、大いに盛り上がっている。

 ヤマトはそのメインの大会に出て、勇者らしく順当に勝ち上がっていた。

 それに対して、親友役である俺は……


「マスター。その配置ではバレバレだ」

「すみません。すぐに直します」


 華やかな大会の裏で行われている模擬戦で、戦術師匠であるベルゼに指導されながら、せっせと罠を仕掛けていた。

 罠を仕掛け終わり、額の汗を袖でぬぐう。


「それにしても、地味な光景だな……」

「仕方ない。準備段階の光景とはそういうものだ」

「まあ、そうだよなあ」


 そう言いながら小さく笑う。

 誰も見て居ないであろう模擬戦で、勝つ為に必死に罠を仕掛けて回る俺。

 全く……誰が見ても勇者じゃなくて親友役だよ。


「さてと、準備は出来たな。それじゃあ師匠に連絡して……」

「もう来てるよ」


 声が聞こえて振り返ると、足元にリンクスがちょこんと座っていた。


「師匠、そっちの状況は?」

「あの金髪娘。ミツクニのやり方にカンカンだったよ」


 俺は試合開始と同時に、卑怯な手を使ってミフネを倒した。それを考えれば、あのエリスが怒るのは必然だ。


「予定通りだな」


 俺の言葉を聞いて、リンクスが鼻で笑う。

 どうやら、この状況を楽しんで居るようだ。


「それじゃあ、今度はそのエリスを、攻撃しに行きますか」


 リンクスとベルゼは頷き、それぞれの場所へと移動して行った。



 見晴らしの良い中央廊下に立ち、周囲を軽く警戒する。

 そこには、俺以外誰も居ない。

 しかし、もう少しでここにエリスが来るのを、ベルゼの監視のおかげで分かっていた。

 やがて、廊下の先からエリスが現れる。


「ミツクニ……見つけたわよ」


 遠くから鬼の形相で俺を睨み付ける。


「アンタねえ。あんな卑怯な方法でミフネを倒して、恥ずかしくないの?」

「スタングレネードの事か? あれは立派な武器だぞ?」

「そこじゃなくて、その前にやった事よ!」


 叫びながら、ゆっくりと近付いて来る。


「仲間と話している途中で閃光攻撃って! そんなの卑怯以外の何物でも無いじゃない!」

「俺はきちんと開始の合図を待ってから、攻撃をしたんだけど」

「そう言う問題じゃないでしょ!」


 エリスの怒りに鼻で笑って見せる。


「俺は弱いからなぁぁ! そういうやり方でしか、お前等に勝てないんだぜぇぇ!」

「自信満々に言うな!」

「黙れ! 勝てば良いんだよ勝てばぁぁ!」


 卑怯上等! 俺は勇者じゃないからな!

 勝つ為なら何でもやってやるぜ!


「頭に来たわ! 手加減しようと思ってたけど! もうしてあげないんだから!」

「ひゃっはー! 上等だぜぇぇぇぇ!!」


 わざと阿保っぽく挑発して怒りを煽る。

 怒れ怒れ。

 それこそ、俺達の思惑通りだ。


「おらおらぁぁ! かかってこいやぁぁぁぁ!」

「言われなくても分かってるわよ!」


 我を忘れてエリスが突進してくる。

 それと同時に、俺は目の前にグレネードを転がした。


「アンタ! また……!」


 咄嗟に目をふさぐエリス。

 しかし、そのグレネードは、ミフネに使った物とは違う物だった。

 次の瞬間、破裂したグレネードから大量の煙が巻き起こる。


「なっ……!」


 予想外の出来事に混乱するエリス。

 その隙を見計らって、エリスに電気警棒を叩き込もうとする。


「効かないわよ!」


 エリスは素早く呪文を唱えて、魔法障壁でその警棒を防御した。

 やがて煙が晴れて、二人の姿が露わになる。


「ミツクニ! いい加減にしなさいよ!」

「う、うるさい! これが俺の戦い方だ!」

「もう良いわ! すぐに倒してあげるんだから!」


 エリスが爆裂呪文を唱え始める。

 流石にそれを食らったら死ぬので、俺は全力で逃げ始めた。


「こら! 逃げるな!」

「ひゃっはー! ついて来られるならついて来なぁぁぁぁ!」


 詠唱を止めて追いかけて来るエリス。

 廊下を駆け抜け、階段を滑り降り、教室の中に飛び込む。そんな俺を追いかけて、エリスも教室の中に飛び込んで来た。


(掛かった!)


 次の瞬間、教室の入り口に仕掛けていた罠が発動して、教室内に光が拡散する。


「目が! 目がぁぁぁぁ……!」


 両目を押さえてジタバタするエリス。

 そんなエリスにゆっくりと近付き、優しく電気警棒を押しつけた。


「ミ、ミツクニ。アンタ、何処まで……」

「まあ、そう言うなって」


 倒れそうになったエリスを優しく支えて、お姫様抱っこする。


「お前なあ。むやみに相手との距離を詰めるなよ」

「う、うるさいわね……どうしてもアンタに一撃食らわせたかったのよ」

「気持ちは分かるけど、もし罠が爆弾だったら、死んで居たかも知れないんだぞ」


 それを聞いて、エリスが目を見開く。


「エリスは強力な魔法が使えるんだから、後ろから仲間を助けてあげるのが、一番戦力になるんじゃないのか?」

「……それは、そうだけど」

「怒りに任せて相手に翻弄されるなんて、エリスらしくないって」


 エリスが何かを言おうとしたが、結局言わずに黙り込む。

 それを確認した後、俺はエリスを教室の隅にゆっくりと降ろした。


「それじゃあ、俺はもう行くから、エリスは回復するまできちんと休めよ」


 そう言って、俺は教室を出て行く。エリスは何も言わずに、その場で呆然としていた。

 周りを警戒しながら中央廊下に戻ると、リンクスとベルゼがそこで待っていた。


「マスター。終わったのか?」

「ああ、エリスは無事に倒せたよ」


 それを聞いたリンクスが鼻で笑う。


「全く、骨の無い奴等だねえ。ミツクニごときの作戦にまんまと嵌って」

「仕方ないだろ。この世界にはこんな戦術無いんだから」


 俺達が使っている戦術は、攻撃魔法が主流であるこの世界では使われていない。そんな攻撃をされたら、流石の勇者ハーレムでも対応出来ないだろう。


「何にせよ、後はシオリだけだな」

「そうだな。しかし、そのシオリとやらは、中々に厄介なようだ」


 それを言ったのは、偵察ドローンでシオリを監視しているベルゼ。


「我々の戦い方に気付き、自分からは動かない戦術を選んだようだ」

「そうか。流石はシオリだなあ」


 勇者ハーレムの才色兼備、シオリ=ハルサキ。彼女には姑息な手は通用しない。


「結局、最後は正面対決か……」

「はっ! 真っ向勝負じゃミツクニに勝ち目は無いねえ」

「分かってるよ」


 俺はゆっくりと歩き出す。


「でもまあ、親友役は親友役らしく、姑息な手で相手に勝つさ」



 廊下を歩き、目的の場所へと足を運ぶ。

 辿り着いた場所は、旧校舎の屋上。

 扉を開けると、屋上の端でシオリが静かに佇んで居た。


「ミツクニ……」

「よう、シオリ」


 軽い口調で挨拶すると、シオリが静かに微笑む。


「二人を倒して来たんだね」

「ああ。連携されると絶対に勝てないからな。分断して倒した」

「そっか。流石だね」


 微笑んで居るシオリに向かって、ゆっくりと歩き出す。


「シオリ。下宿での会話、覚えてるか?」

「うん。覚えてる」

「そうか。だけど、もう一回だけここで言うよ」


 シオリの五メートルほど前で立ち止まる。


「俺には、大切なものがある」


 シオリに向かって真剣な表情を向ける。


「俺にとって大切なものは、俺の周りに居てくれる魔物達……」


 辛そうな表情を見せるシオリ。


「……そして、俺の事を助けてくれる仲間達だ」


 それを聞いたシオリが目を見開く。


「俺は体の耐久力が低い。だから、簡単に怪我をして、その度に仲間に心配を掛けちまう……それでも俺は、大切な人達を自分の力で助けたい」


 あの時は、怒りに我を忘れて言えなかった。

 だけど、今ならば言える。


「自分の弱さを、大切な人を守れない言い訳には、したくないんだ」


 この世界に来てから、ずっと思っていた。

 俺はこの異世界の、全ての人間に劣る。

 だけど、それに甘んじて何もしないなんて、出来る訳が無い。


「だからこそ、今日はシオリに勝つ」


 ゆっくりとポケットに手を入れる。


「大切な人を守る為なら……俺は何でもする」


 そして、ポケットの中でボタンを押した。

 次の瞬間、シオリの周りが爆発して、地面が崩れ落ちる。

 一瞬混乱したシオリだったが、すぐに体勢を立て直して下の階に着地する。それに合わせて、俺はスモークグレネードをシオリに向けて投げた。


「師匠!」


 俺の声に合わせて、下で待って居たリンクスが風魔法を放つ。シオリはそれを魔法障壁で防いだが、同時にスモークグレネードが爆発して、辺りが煙に包まれた。


「まだだ!」


 煙に紛れてグレネードを投げまくる。

 今度は手加減抜きの火薬入りだ。


「おおおおおおお!」


 二回。三回……煙の中で何度も爆発するグレネード。

 しかし、俺は分かっている。

 シオリはそれくらいで、ダメージを受けたりはしない。


「ミツクニ! もうやめて!」

「うるさい! 俺は勝つ! 絶対に勝つんだ!」


 張り裂けるほどに声を上げる。

 その声に反応して、シオリが両手から光の鞭を伸ばす。

 その鞭は投げ入れたグレネードを弾き飛ばして、リンクスと屋上の俺を拘束した。


「ミツクニ……」


 やがて、ゆっくりと煙が晴れて行く。

 そして、完全に煙が晴れた時、既に勝敗は決していた。


「……シオリ。ごめんな」


 シオリの耳に響く、俺の声。

 だけど、その声は屋上からでは無かった。


「俺は弱くても戦える事を、証明したかったんだ」


 シオリの背中に当てられる電気警棒。

 それを操っていたのは、俺自身。


「ミツクニ……どうして」

「あの声はあらかじめ録音して、ベルゼに上から流して貰っていたんだよ」


 シオリの背中から電気警棒を離す。


「余談だけどさ。俺の身体強度では、屋上からここに飛び降りる事すら出来ないんだ」

「そうなの?」

「ああ。だから、わざわざ階段を下りて、こそこそシオリの後ろまで来た」

「何それ。格好悪い」

「だよな。俺もそう思うよ」


 俺が笑うと、シオリも笑い始める。

 やがて、そこに居る全員が笑い始めた。



 戦いが終わり、中央廊下に集合する。

 そこにはもう、最初の緊張感は無かった。


「いやー。こんな戦い方は誰にも見せられないな」

「大丈夫よ。こんな端っこで行われている模擬戦なんて、誰も見て居ないから」

「それはそうだな」


 俺が笑うと、皆も合わせて笑った。

 戦いの考察している皆を眺めつつ、俺はシオリに歩み寄る。


「シオリ」


 笑顔で話しかけると、シオリも笑顔を見せてくれた。


「シオリには悪いが、これからも俺は戦うからな」

「うん、分かってる。もう止めないよ」


 そう言ったシオリの瞳に、もう不安の色は無い。どうやら、俺の言った言葉を、受け入れてくれたようだ。


「でも、一つだけ約束して」

「何だ?」

「本当に危なくなったら、誰かを頼る事」


 それを聞いて小さく笑う。


「ああ、分かってるよ」


 シオリに言われるまでも無い。

 俺は弱い。それは、どうやってもひっくり返らない事実。

 だけど、今回の戦いのように、仲間と一緒に戦えば、強い相手にだって勝つ事が出来る。

 弱い俺だからこそ、その事を誰よりも知っているんだ。

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