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異世界勇者の親友役になりました  作者: 桶丸
異世界学園編
28/157

魔法少女とCQB

 錬金術師に会った俺は、リズ達に隠れて武器資材の相談をして、無事にその素材を調達出来るようになった。

 そして、翌日から俺は、ベルゼに戦闘を教えて貰う事になる。

 教わった戦闘方法は『CQB』と言って、市街地や建物内のような狭隘な場所で行われる戦闘方法。

 魔法が使えず体も弱い俺が、この世界で戦う事の出来る、一つの手段だった。


「マスター、準備は良いか」

「オーケー。いつでもどうぞ」


 校庭の隅に作られた練習用の建造物の前で、俺とベルゼが構える。


「カウント。三、二、一……スタート」


 掛け声と同時に扉を蹴りでぶち破り、建物の中へと侵入する。

 内部を索敵して居ると、横から敵を模した看板が現れて、模擬銃で攻撃してきた。


「シールド展開」


 ベルゼの声と共に、俺の前に黒いシールドが現れる。

 シールドが敵のゴム弾を防いだ後、俺はそのまま宙に浮いて居たシールドを腕に装備して、敵の看板に体当たりをした。


「確保!」


 懐にしまっていた警棒を取り出して、止めの一撃食らわせる。訓練では、これで敵を制圧した事としていた。


「マスター、三時方向。扉の奥に三体」

「了解。スタングレネード準備」


 バックパックからグレネードを取り出して、扉の先に投げ込む。

 数秒後、スタングレネードが爆発して、部屋が光に包まれた。


「突入」


 ベルゼの声に合わせて部屋に突入して、散っていた敵三体に警棒を叩き付ける。

 完全に部屋を制圧した後、俺は次の部屋に視線を向けた。


「次は敵二体。三秒後に侵入」

「了解、今度はスモークグレネードを使う」


 部屋の中にグレネードを投擲して、周囲に煙を巻き起こす。

 敵が混乱している中、素早く部屋に侵入して、残りの二体に警棒を食らわせた。


「ミッション完了」


 無事に演習が終わったので、建物から出て近くにあるベンチに座る。

 少しすると、ベルゼが俺の横にふわりと舞い降りて来た。


「武器の扱いに慣れて来たようだな」


 その言葉を聞いて、苦笑いを見せる。


「全部ベルゼの指導のおかげだよ」

「それは違う。元々マスターに、CQBの知識があったからだ」

「まあ、元の世界ではFPSとかやってたから」


 恥ずかしくなって頭を掻くと、ベルゼが上下に動く。


「FPS……模擬戦闘のゲームか。マスターの世界では、誰でもそのゲームが出来るのか?」

「ああ。手頃な価格で入手出来て、子供から大人まで遊んで居るよ」

「それは、中々の脅威だな」


 そう言われて、確かにそうだと思う。

 どんな人物でも、ネットで調べて戦闘知識を身に付ければ、素人なりに戦闘を行う事が出来る。それは、誰もが気軽に軍人訓練を受けて居るようなものだ。


「とは言え、俺のは所詮ゲームの知識だからなあ。実際にやってみると、そう上手く行かないよ」

「そうだな。マスターには、まだ覚えて貰わなければならない事が多い」


 俺が頷くと、ベルゼが解説を始める。


「まず、防御が甘い。マスターはこの世界の人間と違って、耐久力が極端に低い。よって、急所は確実に守らなければいけない」


 異世界人と俺の体は、基本構造が根本的に違う。

 異世界人は体が魔力で構成されていて、その魔力が尽きない限り、どんなに傷ついても死なないが、俺は急所に傷を受けた時点で即死する。

 ゲーム的に言えば、異世界人はRPGのキャラクターで、俺はFPSのキャラクターと言った所か。


「それと、マスターには思い切りが足りない。防御が主の戦い方ではあるが、攻める所で攻めなければ、返って身の危険が高まる」


 それは分かって居るのだが、一撃死がある状況で死地に突っ込むというのは、中々勇気が居る事だ。

 そして、それを実行するには、まだ俺の覚悟が足りていない。


「何か……きっかけがあれば良いんだけど」


 ため息を吐いた後、ゆっくりと空を見上げる。

 死地に踏み込む理由。

 俺自身が生きるという理由だけでは、俺にとっては弱すぎる。


「そう深く考える必要は無い。きっかけなど、いずれ現れる」

「……そうだな」


 先の事を考えても仕方が無い。

 今は自分の出来る事をするだけだ。



 全ての戦闘訓練が終わり、後片付けをしていると、校庭の向こうから人影が現れる。

 現れたのは、ヤマトとイリヒメだった。


「珍しいな。イリヒメちゃんと一緒に来るなんて」

「うん。今日は少し用事があって……」


 歯切れの悪いヤマト。首を傾げて見せると、今度はイリヒメが話し出す。


「突然なんですけど、私の友達が、ミツクニさんに会いたいそうなんです」

「イリヒメちゃんの友達が?」

「はい。ちょっと変わった子なんですけど……」

「はーっはっはっはぁぁぁぁ!」


 イリヒメの言葉に覆い被さるように、森に笑い声が木霊する。

 後ろから聞こえたので振り向くと、何かが俺に向かって飛び降りて来た。


「またこれか!」


 前に飛んで降って来た人間を躱す。


「この攻撃を躱すなんて、中々やるわね!」


 そう言って、上から俺を見下ろす少女。

 赤い髪に大きなリボン。フワフワドレスの戦闘服。右手に持って居たのは、コッテコテの魔法ステッキ。


(魔法少女だよ……)


 その王道のコスチュームデザインを見て、思わず苦笑をしてしまった。


「私の名前はマーリン=デスゲイズ! 偉大な魔法使いだ!!」


 魔法少女でデスゲイズって……物騒過ぎるな。


「ミツクニ=ヒノモト! 彼方は魔法学園の生徒でありながら! 魔物と仲良くして居るそうね!」

「そうだけど、それが何か?」

「気に入らないわ!」


 マーリンがステッキを向けて来る。


「魔物は人間の敵よ! 仲良くするなんてあり得ない!」


 あーなるほど。

 魔法少女だもんなあ。魔物を倒すのが仕事みたいなものだからなあ。


「それで、お前はそんな俺を、どうしたいんだ?」

「勝負よ!」


 短絡的な結論に、思わずため息を漏らす。


「勝負した所で、俺は魔物と仲良くするのを止めないぞ?」

「構わないわ! 私が彼方を懲らしめたいだけだから!」

「自己中かよ!」


 何故そうなったのかは分からないが、彼女はとてもやる気のようです。

 どうしよう……俺は戦いたくないぞ?


「マスター。戦ってみてはどうだろうか」


 そう言ったのは、横を飛んでいたベルゼ。


「彼女は殺気を放って居るが、本気で殺すつもりは無いようだ。これは、良い模擬戦になるだろう」


 その言葉に、素直に納得する。

 普通の女子と戦うのは気が引けるが、魔法少女なら大丈夫か。


「分かった。勝負しよう」


 そう言うと、マーリンは不敵に笑った後、俺から距離を取った。

 校庭の中心に男女が一人ずつ。

 片方は魔法少女。もう一人は異世界から来た貧弱キモオタ(俺)。

 普通に考えれば、勝敗は一目瞭然だ。


「それじゃあ、試合を始めようか」

「勝負! 勝負! 勝負よぉぉぉぉぉぉ!」


 ステッキをクルクルと回しながら、こちらを窺っているマーリン。どうやら、先に攻撃を仕掛けてくる気は無いようだ。


「それじゃあ、俺から行くぞ」

「さあこぉぉぉぉい!」


 回していたステッキをピタリと止めて、筒先をこちらに向けて来る。


「魔法学園貧弱と言われて居る彼方が! 魔法使いである私に勝てるはずが……!!」

「ぽーい」


 話の途中でスタングレネードを投げる。

 炸裂。

 弾けた光がマーリンの目に突き刺さった。


「目が、目がぁぁぁぁぁぁ……!」


 両目を押さえて居るマーリンの後ろに回り込み、ホルスターから警棒を取り出す。

 そして、背中にゆっくりと筒先を当てて、警棒のスイッチを押した。


「ぎゃぁぁぁぁぁぁ!!」


 マーリンの体に電気が走り、そのまま地面に崩れ落ちる。


「おーい。大丈夫かぁ」


 声を掛けると、マーリンはステッキを杖にして、ゆっくりと起き上がった。


「や、やるわね……」

「まあ、隙だらけだったからな」


 そう言うと、マーリンは身を翻して、再び間合いを取った。


「だけど! これならどうかしら!」


 マーリンがステッキを振ると、炎の柱が現れて俺に向かって襲い掛かる。

 しかし、俺は直ぐにシールドを展開して、その炎を防御した。


「な……!」

「ぽーい」


 間髪入れずにスモークグレネード。

 足元で爆発して、周囲が煙に包まれる。


「目が、目がぁぁぁぁぁぁ……!」


 後ろに回り込み、電撃を食らわせる。


「ぎゃぁぁぁぁぁぁ!!」


 短い悲鳴の後、マーリンは再び地面に叩き付けられた。


「おーい。大丈夫かぁ」

「だ、大丈夫……」


 言った後、マーリンは気絶してしまった。


「……少しやり過ぎてしまったか」

「いや、良い模擬戦だった」


 ベルゼの言葉に苦笑する。


「良い模擬戦に見えたか?」

「うむ。敵の隙をついた、良い戦術だった」

「そういうもんかね」


 ため息を吐き、イリヒメ達の方を向く。


「イリヒメちゃん。こんな感じで良いかな?」

「はい。マーリンも満足したと思います」


 何事も無かったかのようにマーリンを担ぎ、ヤマトの元に戻るイリヒメ。ヤマトは何が起こったか理解出来ずに、ぽかんとした表情をしていた。


「それじゃあ、私達は帰ります」

「はい、お疲れ様でした」


 お辞儀をした後、ヤマト達が帰って行く。

 ……結局、何がしたかったんだろうか。


「どうやら茶番は終わったようね」


 タイミングを見計らったかのようにリズが現れる。どうやら、校庭の端で一連を見て居たようだ。


「ミツクニ、やるようになったわね」

「いや、あれは魔法少女が自爆しただけな気がするけど……」

「これなら、明日からの武術大会も大丈夫そうね」

「……へ?」


 俺は首を傾げる。


「明日から魔法学園で武術大会があるの」

「おいおい、聞いてないぞ」

「それは、ミツクニが最近授業に出て居なかったからでしょう?」


 それを聞いて、ドキリとする。

 そうです。私は戦闘訓練の為に、授業をサボって居ました。


「ちなみに、ミツクニの相手は、シオリが隊長の部隊よ」

「同じ班なのに!? つか部隊!?」

「そう。これは部隊戦なの」


 強くなる為に授業をサボって居たら、物語はバトルパートに移行して居ました。

 ご都合主義とは、正にこの事だな。


「どうせヤマトが優勝するだろうけど、ミツクニも頑張りなさい」

「まあ、せいぜい死なないように頑張るよ」


 勇者ハーレムとの初バトル。しかも、相手は気まずい雰囲気のシオリ。

 絶対に何かのフラグだろうと思いながらも、仲直りのきっかけになるかもしれないと思い、俺は気合いを入れ直した。

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