表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異世界勇者の親友役になりました  作者: 桶丸
異世界学園編
24/157

エルフの森にご案内

「リズは魔法学園で、俺は森で暮らそう。会いに行くよ、ユックルに乗って」

「ユックルって何よ」

「鹿っぽい何か」

「死ね」


 リズの鉄球が顔面を捉えて吹き飛ぶ。


「いきなり何を言い出すのかと思ったら。冗談は顔だけにしなさい」

「その冗談は、リズの投げた鉄球で、潰れかけたけどな……」


 顔にめり込んだ鉄球を引き剥がして、リズに投げ返す。

 そして、今度は冗談抜きで言った。


「魔物達と一緒に、森で過ごそうと思う」


 それを聞いて、リズが黙り込む。

 赤い月の一件以来、学生達の魔物への警戒心が上がり、同じ場所で過ごすのが困難になって居た。

 そこで、学園側は学園に付随している森に魔物達の住居を設けて、人間から引き離して保護する事にした。

 そういう事なので、俺は魔物達と一緒に、森で生活する事に決めたのだ。


「これは決定事項だ。学園長にも許可は貰った」

「随分といきなりね。どうして許嫁には、相談しなかったのかしら?」

「相談した所で、許して貰えるとは思って無かったからな」


 そう言って、訓練場の端にある芝生に寝転がる。

 訓練場から見えるいつもの青空。

 世界の情勢は大きく動いているが、この光景は変わらなくてホッとする。


「とりあえず、俺は魔物達が過ごす下宿の、管理人という立場になった」

「学園編から下宿編になるという訳ね」

「……お前、どこからそんな知識を学んで来るんだよ」


 教えても居ないラブコメ知識を話してくるリズ。実は俺と同じで、別世界の人間なんじゃ無いか?


「私は100%この世界の人間よ」

「だから、心を読むなって」

「読まれるような顔をしているミツクニが悪いのよ」


 そんな顔をして居るつもりは無いのだが……

 まあ良いか。とにかく今は森へ行こう。

 新しい生活が、俺を待って居る。



 魔法学園に隣接した森を東に進み、大きな通りの脇にある獣道を抜けると、その先に一軒の建物が見えて来る。

 見た目は古い木造校舎。元校庭だったと思われる広場には、大小の草が生い茂っており、端には薪を割る場所がある。

 そこは、今まで過ごしてきた魔法学園とは違い、懐かしさを感じさせてくれるような場所だった。


「さあ! 今日からここが俺達の家だ!」


 周りに居た魔物達が、嬉しそうな顔で建物に入って行く。

 まるで、大家族で田舎に引っ越して来たような感覚。

 俺はまだ高校生だが、家庭を持ったような幸せを感じて居た。


「みつくに! 今日から一緒!」


 横で楽しそうにはしゃいでいるミント。


「ずっと一緒! 嬉しい!」

「はっはーそうだな。俺も嬉しいぞ!」

「一緒にご飯! 一緒にお風呂!」

「そうかそうかー。でも、リズが怖い顔でこっちを見ているから、風呂はやめようなー」


 後ろから感じる凄まじい殺気。

 危ない危ない。羽目を外すのは、リズが居なくなってからだ。

 それはそうとして、まさかリズだけじゃなくて、ヤマトとシオリも来るとは思わなかったな。


「悪いな。お前達にも引っ越しを手伝って貰って」

「気にしないでよ。同じ班じゃないか」


 そう言って、ヤマトが笑う。

 それに対して、シオリは俯いたままで、何も言ってこない。どうやら、珍しく機嫌が悪いようだ。


「それじゃあ、荷物を建物の中に入れてしまおう」


 シオリの事は気になったが、俺達は建物の中に移動する事にした。

 建物の中に入ると、正面に大きなホールが広がり、すぐ横に小さな部屋が一つある。

 その部屋が、今日から俺が住む管理人室。魔物達は二階の部屋と、廊下の先にある部屋に、共同で住む事になって居た。


「思って居たより過ごしやすそうだな」


 俺の言葉にヤマトが頷く。


「ここは魔法学園が改装される前に、下宿として使われて居たんだって」

「なるほど。壊さずに残しておいたのか」


 辺りを見回しながらホールの先へと進んで行く。すると、ホール最奥に誰かが立って居る姿が見えた。


「こんにちは」


 金色の長髪。緑色の目。真っ白な肌。そして……長い耳!

 エルフだ! 遂にエルフが現れたぞ!!


「私の名はエミリア=ウッド。この森の守り手をしています」


 細く白い手を差し出してくるエミリア。

 握手を求めているようだが、手が余りにも綺麗過ぎて、触れる事を躊躇してしまう。


「キモオタ」


 俺を弾き飛ばしてリズが握手をする。それに続いてヤマトとシオリも握手をして居た。

 握手が終わると、倒れている俺を無視して、エミリアが説明を始める。


「この森は魔法学園に付随していますが、野生の動物が居て危険が多いです。私が管理して居ますが、なるべく深部には入らないようにしてください」


 ふむ、彼女も動じない派の人間か。

 最近は俺とリズのやり取りに驚かない人ばかりで、少し寂しいぞ?


「それでは、建物の中をご案内します」


 言われるままに、俺達はエミリアに建物を案内して貰う。ヤマトが昔の建物と言って居たが、その言葉通りに、基本的な生活は全て自力で行うような作りになって居た。

 建物を一周してホールに戻ると、ヤマトが不安そうな表情でこちらを見る。


「ミツクニ君。家魔製品が一つも無かったけど、家事は大丈夫なの?」

「テトやパルに聞いたら、魔物達は家魔製品を使わずに生活していたから、何の問題も無いってさ」

「でも、ミツクニ君は?」

「俺も家事は一通り勉強して来たからな。何の問題も無い」


 魔力が無かったおかげで、人力での炊事洗濯は既に会得済み。その他の事も、苦労するというイメージは微塵も無かった。


「ミツクニ君って、何気に色々出来るんだね」

「そうか? まあ、家事は出来るけど、狩りとかは出来ないからさ。たまにヤマトも遊びに来て、森で何か捕ってきてくれよ」

「うん、分かった」

「その時は、私がこの森の事を、色々と教えてあげましょう」


 話しに割って入り、微笑むエミリア。

 ヤマトは恥ずかしそうに頭を掻き、エミリアに向かって小さく頷いた。



 引っ越しが全て終わったので、俺達は校庭の端にあるベンチに座って一息つく。

 視線の先に居るのは、楽しそうに遊んで居るミントと、小さな魔物達。

 その和やかな光景は、この世界が戦争の最中にあるという事を、忘れさせてくれるようだった。


「こんな時間が、ずっと続けば良いのになあ」


 リズから貰ったパックジュースを飲みながら、言葉を零す。


「仕方が無いわ。戦争中だもの」

「分かってるけどさ。願うのは自由だろ?」

「……そうね」


 それだけ言って、再び子供達を眺める。

 リズ、ヤマト、シオリ。俺がこの世界に召喚されて、最初に仲良くなった三人。

 勇者ハーレムを作る為に出会った三人だったが、今ではそれを抜きにしても、大切な存在になっていた。


「ねえ、ミツクニ」

「何だ?」


 リズが子供達を眺めながら言う。


「私も、ここに住む事に決めたから」


 それを聞いてジュースを吹き出した!


「……な、何ですと!?」

「大丈夫よ。学園長の許可は貰って居ないから」

「貰って無いのかよ!」


 袖で口元を拭いた後、改めてリズを見る。


「貰って無いなら駄目だろ!」

「関係無いわ」

「関係無くは無い! だって、リズは魔法学園の生徒で……!」

「辞めるわ」


 ここでやっと、リズが俺の事を見る。

 その表情は、凛とした綺麗な笑顔だった。


「学園長から許可が貰えなかったら、私は魔法学園を辞める」


 その表情を見て、リズが本気だという事に気付いてしまう。


「……ここは学園の敷地だ。辞めてしまったら、尚更ここには住めないだろ」

「いいえ。もし許可が貰えなかったら、ミントに眷属にして貰う約束をしているから、ここに住む事が出来るわ」


 真っ直ぐにこちらを見るリズ。

 魔物の眷属になるという事は、人間の敵になるという事だ。

 そして、それを分かって居ながらも、彼女はここに住む事を強く望んでいる。

 そんな彼女の思いに対して、俺の答えは……


「駄目だ」


 その言葉には、一片の躊躇も無かった。


「リズが魔法学園を辞めるのなら、俺はここから出て行く」

「それは困るわ」

「ああ。だから辞めるな。ここに住みたかったら、頑張って学園長を説得しろ」


 自分で言いながら、少し卑怯だとは思う。

 だけど、リズが学園を辞めるのは駄目だ。

 俺やミントの為に、リズ自身の人生を犠牲にする訳にはいかない。


「……」


 淀みの無い瞳で見つめて来るリズに対して、負けじと真っ直ぐに見詰め返す。

 リズならば、俺の気持ちを分かってくれる。


「……分かったわ」


 ふうと息を吐いて微笑むリズ。


「全く、我儘な許嫁ね」

「そうだな。これからもよろしくだ」

「もう……仕方ないわね」


 それだけ言って、ミント達に視線を戻す。

 そんなリズを見て、俺も笑顔で頷いた。



 俺とリズが和解して、各々が居るべき場所に居る事になった。

 これで、今回の話はお終い。

 そう思って居たのだが……


「……私も」


 この展開を、誰が予想して居ただろうか。

 勿論、俺も全く予想していなかった。


「私も! ミツクニと一緒に居たい!」


 そう言って、ベンチから立ち上がる彼女。

 勇者ハーレムの一角。シオリ=ハルサキだった。


「……シ、シオリ? 何言ってんだ?」

「言葉の通りだよ! 一緒に居たいの!」


 ちょっと待て。どうしてそうなる?

 俺とシオリって、そんなに仲が良かったか?


「別に一緒に居ない訳じゃ無いだろ? 学園を辞めた訳でも無いし」

「そういう事じゃないの!」


 拳を強く握りしめて、シオリが真っ直ぐにこちらを見詰める。


「ミツクニ! いつも一人で頑張って! この前も死にそうになって!」


 ……この感情は母性だよな?

 シオリは優しいから、俺の事が心配なだけなんだよな?

 頼むから、そう言ってくれ。


「私はもう! ミツクニの辛そうな顔を見たくない!」


 ああ、そうか。

 辛そうに見えていたのか。

 それならば、完全に俺の失態だ。

 だけど……


「駄目だ」


 当然、シオリと住む訳にはいかない。


「シオリが学園に居てくれないと困る」

「どうして!」

「シオリとヤマトが学園に居てくれるから、俺は安心してここに来られるんだ」

「そんなの知らない!」


 シオリが俺の前に回り込む。


「魔物達と一緒に住んで居たら! ミツクニはまた辛い思いをするだけだよ!」


 それを聞いて、心臓がドクンと鳴り響く。

 なるほど、そう言う事か。

 シオリは、また魔物が俺を傷付けると思っているんだな。

 それならば、仕方が無い。


「……ミント。メリエル。リンクス」


 呼び声に応えて、彼女達が集まって来る。

 そして、俺の周りで各々が力を開放した。


「シオリの気持ちは本当に嬉しいよ。だけど、俺にも大切なものがあるんだ」


 この世界に住む人間達に植え付けられた、魔物への敵対心。それに対して、他の世界から来た俺が、どうこう言うつもりは無い。

 だけど、俺は……


「大切な者を守る為なら……俺は何でもする」


 譲らない。

 シオリが魔物を敵視して居る限り、俺と彼女がこれ以上仲良くなる事は無いだろう。


「シオリ。今日は手伝ってくれてありがとう」


 涙目で俺を見るシオリに、微笑みを返す。


「また、学園で話そうな」


 そして、ミント達と一緒に歩き出す。

 これがシオリとの今生の別れという訳でも無い。勇者ハーレムを作っている限り、また顔を合わせる事になる。

 その時は、お互いに和解して、再び無邪気に笑い会える事を願おう。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ