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異世界勇者の親友役になりました  作者: 桶丸
第二部 親友役覚醒編
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リズ=レインハート

 大量殺人犯の汚名を着せられた俺は、ヨシノとシオリに先導されて、城の中にある謁見の間へと向かう。

 赤いじゅうたんが敷かれた大きな廊下。その道の一定間隔に兵士が居て、俺達が通るたびに、憎らしそうな顔でこちらを見詰めて来る。

 その光景を見て、俺は俺の偽物がやった事の大きさを、改めて思い知らされた。


 謁見の間に辿り着き、三人は一度止まる。

 この先に居るのは、女王とその側近。

 流石に緊張してしまい、一度深呼吸をして心を落ち着かせた。


「ミツクニ、大丈夫?」


 シオリが心配そうに声を掛けて来る。


「大丈夫。それにしても、あいつが女王ねえ……」


 冗談のように言って鼻で笑って見せると、シオリがクスリと笑った。


「意外だった?」

「いや……」


 彼女の事を思い出して、改めて思う。

 本人はそれを望むような人間では無かったが、女王になる素質は間違いなくあった。

 この国の住民や悪魔の事を考えれば、例え成り行きであったとしても、彼女が即位したのは正解だったのかも知れない。


「準備が出来たようですね」


 ヨシノの声と共に、周りに居た兵士達が慌ただしく動き出す。

 謁見の間に続く全ての廊下が閉鎖。

 恐らく、大量殺人犯である俺を、逃がさないようにする為だろう。


「良く訓練された動きだな」


 皮肉を言って、謁見の扉に手を掛ける。

 しかし、踏ん切りが付かずにその手を離した。


(……ここまで、長かったな)


 そんな事を思い、小さく息を付く。

 勇者の親友役に不適切とされて、命からがら逃げ込んだ精霊の森。

 そこからおおよそ四カ月。

 各地の悪魔に対する問題を解決して、遂にここまで辿り着く事が出来た。

 今思えば、この場所に来る事こそ、俺が精霊の森を出た一番の目的だったと思う。


(よし……)


 ゴクリと息を飲んだ後、扉を強く押す。

 ゆっくりと開かれる扉。差し込む光。

 そして、目の前に現れる広い部屋。


 その部屋の一番遠くに。

 彼女が……居た。


(……リズ)


 その顔を見て、思わず苦笑する。


 肩まで伸びた紅黒髪は相変らず。きりっとした赤目は、前に会った時とは違い、どこか気品に満ちている。

 服装は赤のドレス。体のラインがはっきりと出ていて、中世の貴族達が来て居るドレスを、今風にアレンジした感じだ。

 そして、そのドレスの右腕には、権威を表す王冠が、しっかりと巻かれて居た。


(やっぱり、女王様なんだなあ……)


 ふうとため息を吐き、ゆっくりと歩き出す。

 魔法学園で出会って今まで、多少の摩擦はあったものの、お互いに信頼しながらここまで来た。

 その距離はお世辞では無く、本当に近いものだったと思う。


 だけど。

 今の俺と彼女の距離は。

 人間の最上位と……最底辺だ。


(いやぁ……楽しいね)


 流石は異世界とでも言うべきか。

 こうやってコロコロお互いの状況を変えて、その環境の変化で皆を楽しませる。

 今や俺もその異世界の一部だ。

 それならば、俺も異世界転移した人間っぽく振る舞おうじゃないか。


「よう。リズ」


 女王の前に辿り着いた瞬間、まるで友達のように声を掛ける。

 その行動にざわつく周囲。

 高台にある豪華な椅子に座して居る女王は、まだ口を開かない。


「久々に会ったのに、何も言ってくれないのか?」


 鋭い目で俺を見下ろす女王。

 リズ=レインハート。

 俺を勇者の親友役として『作った』張本人。


「……」


 ゆっくりと手を横に振り、周囲の騒ぎを沈めた後、リズが口を開く。


「女王に対してため口なんて。やっぱりミツクニはキモオタね」


 その声を聞いた瞬間。

 俺の中でため込んで居たものがパチンと弾けて。

 つい、微笑んでしまった。


「ああ……うん」


 天井を見上げて、何度も頷く。

 リズだ。

 帰って来た。

 俺は遂に……ここまで帰って来られたんだ。


「道中色々あってさ。来るのが遅くなった」

「言い訳が通用しない事くらい、ミツクニなら分かって居るわよね?」

「言い訳じゃ無くて、やる事があってだな……」

「黙りなさい」


 大きく広がったドレスの袖から、ドスンと音を立てて落ちる物体。

 黒くて重い、思い出の品。


「女王になった私を待たせるなんて、万死に値するわ」

「いや、そもそも呼ばれて無いし」

「呼ばなくても来るのがキモオタでしょう?」

「キモオタにそんな習性は無えよ。大体なあ……」


 話の途中でリズが足を振る。

 高速で飛んで来る黒い物体。


 待ってました!

 俺の準備は既に出来て居る……!?


「ぐふあぁぁぁぁ!」


 予想以上のスピードで鉄球が腹にめり込み、思わず膝をつく。

 感じた事の無い激痛。

 だがしかし! これがお約束と言う奴なのだよ!


「あ、相変らず、良い鉄球捌きをしてるじゃねえか……」

「ミツクニの悲鳴も相変らずゴミのようね」

「どんなゴミだよ……」


 ふっと笑って立ち上がる。

 それを見て、やっとリズも笑ってくれた。


(ああ……うん)


 変わって居ない。

 女王になっても、リズは一緒に居た時のままだ。

 それだけ分かれば、もう十分だ。


「そう言う事でだ」


 俺は話を切り替える。


「俺、何か知らないうちに、大量殺人犯になってたんだけど」


 その言葉を聞いたリズが、いつもの不機嫌そうな表情に戻る。


「色々考えたのだけれど、結局それが一番良いと思ったから」

「そうだな。街の被害を減らすには、最善だったと思うよ」

「そのせいでこんな事になってしまったけれど、別に構わないでしょう?」

「ああ。問題無い」


 その会話を聞いて、兵士達がざわつく。

 女王とそこら辺の雑草が、馴れ馴れしく話をして居るのだ。これが普通の反応だろう。


「それで、俺はどうしたら良い?」

「そうね。それについては、最初から考えてあるわ」


 ざわつく兵士達を歯牙にも掛けずに、リズが横を見る。

 横に居たのは、勇者ハーレムの一角、クラウディア=ブルーハート。

 彼女はリズのいとこでもあった。


「クラウ。お願いして良い?」

「はい、お姉様」


 小さく頷き、クラウが椅子の後ろへ消えて行く。

 と言うか、お姉様!?

 前は呼び捨てで呼び合う仲でしたよね!?

 もしかして、君達はそう言う関係になってしまったのか……!?


「死ね」


 鉄球!

 本日二本目頂きましたぁぁぁぁ!

 でも今は回復が出来ないから! 出来れば手加減をして欲しいな!


「相変らず妄想だけは一人前ね」

「お、お前も、俺の心を読むのだけは、一人前だな……」

「ミツクニの心なんて、彼方の周りに居る女なら誰でも読めるわ」


 それを聞いて、ゆっくりとシオリを見る。

 いつもの笑顔を見せて居るシオリ。

 しかし、何故か途中でフフッと笑った。


「……マジすか?」

「全部では無いよ? でも、ミツクニは顔に出やすいから……」


 そうなのかー。

 それならば、フランやメリエルが俺の心を読むのも頷ける。

 明日からはお面を被って話す事にしよう。


「お待たせしました」


 居なくなっていたクラウが戻って来る。

 その手に持って居たのは、豪華な宝石が散りばめられた小箱。


(……何だ?)


 クラウからリズに手渡される小箱。

 そして、ゆっくりと立ち上がるリズ。


 その瞬間。

 俺の脳がフル回転する。


(まさか、これは……)


 リズがゆっくりと歩き出す。

 真っ直ぐに、俺の事を見ながら。

 これは……間違いない。


「リズ……!」


 俺が声を上げたその瞬間。リズが本気で鉄球を蹴り、俺の腹に深く突き刺さった。


「ぐっ……!」


 強烈な痛みに本気で膝を付く。

 止めろ! 止めてくれ!

 それは『俺達のやり方』じゃ無いだろう!


「それでは……」


 俺の心を知りながらも、勝手に話を進めるリズ。

 声が……出せない!


「これから、勲章授与式を始めます」


 謁見の間に響く、リズの声。

 静まり返る周囲。


 俺は強い痛みで、まだ立ち上がれない。

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