表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異世界勇者の親友役になりました  作者: 桶丸
第二部 親友役覚醒編
126/157

日本人は異世界に対する理解が早い

「ミツクニさんは、この世界の源が何かを、知って居ますか?」


 食事が終わり、雫が最初に言った一言。

 それは、質問としては内容が漠然としている言葉だった。


「いや、知らない」


 当然のように、俺は首を横に振る。

 すると、少し間を置いてから、雫が口を開いた。


「この世界の源は……魔力です」


 それを聞いた瞬間、俺の頭の中でパズルのピースが簡単に繋がってしまう。


「ああ……そうか」


 ポツリと言葉を零して、空を見上げる。


「成程なあ。そう言う事かあ」

「ええと……まだ何も説明して居ないんですが」

「いや、もう良いよ。大体分かったから」

「分かったんですか!?」


 雫が驚いた表情を見せる。


「何で? 本当にまだ何も説明してないのに!?」

「まあ、そうだけどさ」


 空から雫に視線を戻す。


「ここが異世界で、その話が本当なら、もう分かるだろ」

「分かりませんよ!?」


 え? そうなの?

 漫画やアニメが好きな人間なら、もう答えは明白だと思うけど?


「要するに、人間が増えすぎて、世界を保つ為の魔力が足りなくなったんだろ?」


 その答えを聞き、固まってしまう雫。


「それで、世界はいつものように悪魔を召喚して、人間を減らそうとしたけど、人間が強くて思う様にいかなかった。だから、雫を召喚した」


 まあ、こんな所か。

 雫が唖然とした表情でこちらを見て居るから、多分正解なんだろうなあ。


「どうして、そんな簡単に分かるんですか?」

「それは……想定していたから、かな」

「想定?」


 その言葉に頷いて見せる。


「ここは異世界だからさ。事件が起これば、大体異世界テンプレ通りの展開になる」


 俺がこの世界の事に関して、理解が早い理由。

 勇者が万の悪魔を倒した事も。敵として雫が現れた事も。敵だと思って居たのに、世界を救おうとして居た事も。

 俺からすれば、異世界テンプレの一つでしかないのだ。


「何か……転移者ならではの発想ですね」


 実際にその通りだと思う。

 だけど……だからこそ、この世界や過去の人々は、異世界転移者に頼って居たのではないのだろうか。


 自分達だけでは世界を救えないから。

 この世界のルールに囚われない人間を呼び、助けて貰っていた。


 そう思った時、俺の脳裏に面白い考えが浮かんで来る。

 それじゃあ、異世界転移者のクローンである俺は、どういう存在なんだ?


(……まあ、考えても仕方の無い事か)


 自分の存在意義を考えるのは、精霊の森に引きこもった時に止めた。

 例えどのような存在であろうと、俺はここに存在して居る。

 そして、俺を必要としてくれる人が居る限り、俺はその人達の想いに答える為に、行動するだけだ。


「とにかく、俺の言った事で正解なんだろう?」

「ええと……そうですね」


 ばつが悪そうに答える雫。

 その気持ちは何となく分かる。

 答えを知った所で、雫が人類の敵である事に、変わりは無いのだから。


「いやあ、本当に困ったなあ」

「困って居る割には、ノリが軽いですね」

「え? ああ。俺元々こういう性格だから」


 最近は勇者を一人前にする為に、真面目な感じで居ましたけれど、勇者が居ない所では、本当にふざけばかりして居たよ?

 むしろ、こっちが本来の俺ですから。


「……よし。分かった」


 全てを納得した上で、俺は選択する。


「俺はもう、雫とは戦わない」


 あっさりと言い放つ俺。

 その言葉に、雫が再び驚きの表情を見せた。


「あの……良いんですか?」

「何が?」

「だって私は、人類を滅ぼそうとして居るんですよ?」


 それに対して、小さく笑って見せる。


「世界を救う事は人類を救う事と同意義なのに、人類からは嫌われる……そんなのは、俺だったら辛いから」


 恐らく彼女はこれからも、一人で戦いを続けるつもりだろう。

 だけど、俺達は出会い、理解し合う事が出来た。

 それならば、彼女と敵対しない人間が、一人くらい居ても良いではないか。


「あ、でも、俺の大切な人達を傷付けようとしたら、流石に止めるけど……」


 それを言って居る合間。

 雫が膝を抱えて蹲ってしまった。


「……雫?」


 呼び声に答えず、肩を震わせて居る雫。

 それは、俺を巻き込んでしまった事への、謝罪の涙か。それとも、絶望の中に現れた救いへの、喜びの涙か。

 どちらにせよ、俺は何も言わず、ただ彼女を見て微笑んで居た。



 全ての話が終わり、再び旅の準備をする。

 ミントは便利袋の中へ。ベルゼは偵察の為に空へ。雫は黒いマントを纏い、犬型の悪魔の頭を撫でて居た。


「雫はこれからどうするんだ?」


 俺の問いに対して、目を赤くした雫が微笑む。


「私はここで、もう少しこの子を訓練しようと思います」


 その答えに対して、無言で頷く。


「ミツクニさんは、何処に行くんですか?」

「俺は帝都に行こうと思ってる」


 その言葉を聞いた瞬間、雫の表情が凍る。


「何か問題でも?」

「……」


 少しの沈黙。

 しかし、覚悟を決めたかのように、雫が口を開いた。


「実は私も、次は帝都に行こうと思ってます」


 なるほどね。

 でもまあ、仕方ないよね。

 キズナ遺跡はもう攻略出来そうに無いし、魔物領は俺の仲間が守って居るし。

 俺が雫の立場でも、次は手薄っぽい帝都を攻めるだろう。


「もう一度言うけど、俺の大切な人達を攻撃したら……」

「はい! 分かってます!」


 慌てて声を上げる雫。


「でも! これも世界を救う為なので!」


 なるほどね。

 でもまあ、仕方ないよね。

 俺の大切な人が何処に居るかなんて、雫が知って居る訳が無いし。


(帝都かあ……)


 活き活きとした雫の表情を見ながら、小さくため息を吐く。

 帝都にはあの二人が居る。そこから考えると、再び雫と戦うのは、ほぼ確定だ。


(何の為の約束なんだか……)


 お互いの立場上、戦う事は仕方ない。

 でも、俺達は互いに戦う理由を理解した。

 今度は前と違って、本当の笑顔で戦う事が出来るだろう。


「それじゃあ、帝都で」

「はい! 楽しみにしています!」


 今日一の笑顔を見せる雫。どうやら、本当に楽しみになってしまったようだ。

 雫が楽しいならそれで良いかと思い、俺も笑顔でそれに頷いて見せた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ