第四十五話 ライバル
佐倉先生が、零夜とミキと理沙を連れて会場へ入る。そして四人が選手の控室へ向かう通路を歩いていると、前からからハイン城下魔法学校の先生で日本のトップテンのひとりである高橋隼人と、その生徒三人が歩いてきた。
「あっ、あの人は……」
理沙は高橋先生の後ろに、去年決勝で負けたハイン城下魔法学校の生徒、山中優斗(やまなかゆうと)を見つける。
「廃墟都市での戦い以来ですね。佐倉先生」
「ああ、高橋先生。お疲れ様です」
佐倉先生は、にこにこしながら高橋先生に挨拶する。
「機嫌がいいのは、やはりあの天才魔法少女がいるからですか?」
「天才魔法少女? いえ、彼女はこの大会には出場しないですよ」
「えっ?」
高橋先生は、佐倉先生の後ろにいる三人の生徒のなかに美佳子の姿が見えなかったので、一人は補欠の選手だと思っていた。
「彼女が出場すれば、優勝間違いなしなのに、何で出場しないんですか?」
「ふふふ、私の自慢の生徒は彼女だけではないんですよ」
佐倉先生の顔がさらに緩む。
(その自慢の生徒というのは、この二人のことか)
高橋先生は、佐倉先生の後ろにいる零夜とミキを見る。
「ん? 君は港地区で天才魔法少女と一緒にいた……」
「こんにちは」
ミキは最小限の挨拶でこの場を乗り切ろうとする。そして去年の優勝者である山中が、理沙に話しかける。
「お久しぶりです。如月さん」
「山中君。今年は去年のリベンジをさせてもらいます」
「それは楽しみです。俺は去年よりさらに強くなりました。今年も優勝をいただきます」
「強くなったのはこっちも同じです。今から戦いが楽しみですね」
去年の優勝者と準優勝者が、試合前に火花を散らしている。
「では試合前のミーティングがあるのでこの辺で」
佐倉先生はそう言うと、零夜とミキと理沙を連れて控室に向かう。その後、この場に残った高橋先生と山中が話し始める。
「選手名簿に載っていた霧島ミキというのが天才魔法少女だと思っていたが違うのか。ふふふ、あの子が出ないなら、うちにも優勝が見えてくる」
「その天才魔法少女というのは、そんなに凄いんですか」
「廃墟都市の戦いの時に、後藤大将が戦場に学生を呼んだって聞いた時から疑問に思っていた。だが港地区の戦いで、俺の十倍はある魔力を見せつけられたからな。後藤大将の意見に納得したよ」
高橋先生は南地区の廃墟都市の戦いでは、直接、零夜達と会ってはいないので、彼等の強さがどれくらいなのかは知らなかった。
「先生の十倍って、そんな生徒がいるなんて信じられません」
「今回は戦わないから気にしなくていいだろう。お前達は訓練通り戦えば問題ない」
「はい」
(あの佐倉先生の緩んだ顔は気になるが……)
高橋先生は、佐倉先生の余裕の表情は何か理由があるに違いないと考えていた。
それから約一時間後、全国模擬戦闘大会の開会式が始まり、どこかの偉い人が挨拶している。
この大会は三日間で行われることになっていて、出場校は全国から三十二校でトーナメント制で行われ、五回勝利すると優勝だった。
そして今年の全国模擬戦闘大会は三対三用の模擬戦闘場で戦い、制限時間十五分の間に相手の幻影体(魔力で作り出された仮の体)をすべて消滅させるか、制限時間がきた時、相手より幻影体が多く残っていた方が勝利となる。そして引き分けの場合は、三人の審判の判定で勝利が決まるというルールだった。
「ついに第三回全国模擬戦闘大会が始まります。実況は私、佐藤遥(さとうはるか)、解説はトップテン最強の魔力の持ち主であり魔法防衛軍の中将、近藤真さんでお送りします」
「解説の近藤です。今日はよろしくお願いします」
「はい。よろしくお願いします」
試合会場には三対三用の大きな模擬戦闘場が一つと、その周りに一万人が座れる、すり鉢状の観客席があった。その観客席はほぼ満員で、四方にカメラが設置され、この戦いは全国に生中継されている。
「近藤さん。今年の大会の見どころは、どのあたりでしょうか?」
「去年の優勝者である山中優斗君と、準優勝者の如月理沙さんが出場しているということでしょうか。それと今回の大会から三人で戦うことになるので、チームの連携が勝利のカギとなると思われます」
「なるほど。さて、そろそろ一回戦、第一試合が始まる時間です」
開会式が終わり、その後、全国模擬戦闘大会の一回戦が始まって、その実況と解説が続いている。
「俺達は第三試合か」
零夜が会場の通路に張ってあるトーナメント表を見ている。トーナメントの組み合わせは、事前に佐倉先生がくじを引いて決まっていて、水ノ鏡魔法学校は三試合目だった。
「天城、模擬戦闘場へ行くぞ。一試合、十五分だが、短時間で決着がついて、すぐ試合が始まるかもしれないからな」
零夜は佐倉先生にそう言われ、ミキと理沙と一緒に模擬戦闘場への選手用の入り口に向かう。
それから約三十分後、試合は順調に進み、一回戦、第三試合の水ノ鏡魔法学校と、千手魔法学校の試合が始まろうとしている。
零夜、ミキ、理沙は、模擬戦闘場の南側にある魔法陣に入り、模擬戦闘場に三人の幻影体が現れる。同じように相手校の男子生徒三人の幻影体も出現した。
「天城君、この試合の作戦だけど、どうする?」
「少しでも相手に戦闘経験を積んでほしいので、手加減して戦ってみます」
「戦闘経験? まあ天城君にまかせて、私と霧島さんは後ろで待機してましょう」
理沙はそう言うとミキと一緒に後方に下がり、逆に零夜は数歩前に出る。その模擬戦闘場の零夜達の行動を、ハイン城下魔法学校の高橋先生と山中が、観客席から見ている。
「水ノ鏡魔法学校は、男子生徒が前衛で、女子生徒二人が後衛で魔法と支援という形ですね」
「相手の千手魔法学校は、一か月前に練習試合をした時、我々も苦戦をしいられるほど強かったから、簡単には倒せないだろう。佐倉先生のお手並み拝見といこうか」
高橋先生達が零夜達を注意深く観察している。その彼等から離れた観客席には、水ノ鏡魔法学校の生徒達の姿もあった。織星美佳子、日高秋穂、伊賀崎英司など、一年一組の生徒達も一緒に座って応援している。
「ミキちゃんの活躍の場はあるかなー」
「多分、天城だけで優勝しちゃうんじゃないかな。トップテンの佐倉先生と同じくらいの魔力を持ってる生徒なんて、滅多にいな……」
そこまで言って英司は美佳子の方を見る。
「いや、うちの学校にはいたな。それも規格外が……」
英司はそう話すが、秋穂の隣に座っている美佳子は英司の言葉など気にせず、模擬戦闘場の零夜とミキをじっと見ている。
「さあ、一回戦、第三試合。水ノ鏡魔法学校と千手魔法学校の試合が始まります」
次回 千手魔法学校戦 に続く




