第三十九話 神降ろしの儀
「神降ろしの儀?」
「そう。ちょっと待ってて」
そう言いながら秋穂は両手を下に向けて、地面に魔法陣を二つ作り出す。
「これでよし。さあ、こっちの魔法陣に入ってみて」
ミキは何の疑いもせず、言われたほうの魔法陣に入る。
「今から日本の神様の誰かを呼び出すよ」
「えっ? 日本の神様?」
「うん。ミキちゃんと相性のいい神様が出てくると思う」
秋穂はもう一つの魔法陣に自分の魔力を注ぐ。
「神気招来!」
秋穂がそう叫ぶと、ミキの目の前の魔法陣にまず人型の影が現れ、だんだんと実体化してはっきりとした姿に変わる。現れたのは黒く美しい長髪で、艶やかな和服を着た美しい女性だった。
「私はキクリヒメ。縁を結ぶ女神と人は呼びます」
神降ろしの儀で現れた神は、女神キクリヒメだった。彼女は人々に縁結びの神として崇められていて、白山の神とも呼ばれ、邪悪なものを浄化する力もあった。
「私を呼んだのはあなたですか?」
「は、はい。私は霧島ミキです」
神と呼ばれる存在を目の前にしてミキは緊張している。
「なるほど、私が呼ばれたということは、あなたは以前、誰かと誰かの縁を結んだことがあるのですね」
「え、縁ですか? ええと……」
ミキはそんなことは身に覚えがないのだが、実は以前、海でナンパしてきた男達を精神系状態異常魔法で恋愛対象を混乱させて、男同士のカップルをたくさん成立させたことがあった。それで縁結びの神と波長があったようだ。
「縁とかよくわかりませんが、どうか力をお貸しください。あの悪魔を倒すために!」
ミキが見た方向を女神キクリヒメも見て、魔王アザゼルが邪悪な存在だと確認する。
「わかりました。あの邪悪を払うため、私も戦いましょう」
女神キクリヒメはミキの手を握り、目をとじる。すると女神キクリヒメの体が消え、同時にミキの服が、女神キクリヒメが着ていた和服に変わる。
(霧島ミキ。貴方の体は見た目は同じですが、神の体に変わりました。今まで体の負担を考えて使えなかった真の力を使うのです)
「は、はい」
ミキは全身から凄まじい魔力を放出して身にまとう。その魔力は周りの大気が震えるほど強大な魔力だった。
「むっ!」
「!」
戦いに集中していた魔王アザゼルと美佳子は、いきなり自分達を上回る魔力の出現に驚き、戦闘を止めてお互い距離をとってミキの方を見る。
「バ、バカな……これほどの魔力を扱える人間がいるわけがない」
(ほう。霧島ミキの魔力は、私が天使の時と同じくらいだ)
魔王アザゼルと美佳子は、戦いを忘れてミキの強大な魔力を見ている。
「ミキちゃん、これでやっと本気の魔力を使えるよ」
秋穂はミキの本来の魔力を見て、少し興奮している。
(これが本気の私の魔力……)
今までミキは自分の持っている魔力を全力で使ったことがなかった。それは人間の体では、ミキの強大な魔力に耐えられないからである。だが今、彼女は女神キクリヒメの神の体になって制限がなくなっていた。
「はっ!」
ミキは全身にまとっているとてつもない魔力を両手で集中させ圧縮する。
「う、美しい……」
魔王アザゼルは彼女の魔力操作の美しさに見惚れている。
「圧縮魔力弾!」
一方、ミキは膨大な魔力を圧縮集中させ、魔王アザゼルに向けて放つ。
「し、しまった! 見とれすぎ……グアーーーッ!!」
圧縮魔力弾が魔王アザゼルに命中し大爆発が起こる。その爆発は地震が発生するほど凄まじい爆発だった。数秒後、爆発の煙が消えると魔王アザゼルの姿はもうなく、漆黒の剣も粉々に砕け散って付近に散乱していた。
敵を倒したことを確認したミキは、女神キクリヒメと分離して元の姿に戻る。
「霧島ミキ。私は貴方が気に入りました。また邪悪な者と戦う時は、いつでも呼んでください」
「はい。ありがとうございます」
女神キクリヒメは帰還の魔法陣を地面に作り出し、神界に帰っていった。そこにミキの戦いを見ていた美佳子が近づいてくる。
「素晴らしいぞ、霧島ミキ。もしさっきの力をもっと使いこなせるようになったら、私を超えるかもしれない」
先ほどのミキの攻撃は、彼女自身の魔力を使った技で、女神キクリヒメの力は使っていなかった。もし女神キクリヒメの持つ神気を使いこなしていたら、更に強大な力を使えていたかもしれない。
「妹に負けてられない。私も更なる強さを目指すとしよう」
美佳子はミキの先ほどの力を感じて、やる気になっている。
(その妹設定、まだ続いてたのか)
ミキは軽く苦笑いしている。その後、二人の会話を離れて聞いていた秋穂が、美佳子に話しかける。
「これからどうする? まだこの先にも悪魔がいるみたいだけど」
「ん、確かにまだ悪魔の魔力をいくつも感じるな。さあ、行くぞ」
ミキと美佳子と秋穂は、倒すべき悪魔を探すため、港地区の倉庫街の道を進んでいった。
場面は港地区倉庫街の北側の防衛ラインに変わる。その防衛ラインは倉庫街に続く四車線の道路に作れていて、バリケードの後ろに戦車部隊と魔法防衛軍の兵士と自衛隊の隊員が配置されていた。その中にはトップテンの周防大樹(すおうたいき)刑事と椿ハル(つばきはる)軍医がいた。
「はー、なんで軍医の私が、ここの指揮をとらなきゃならないの?」
ここの防衛ラインの指揮をとることになった椿軍医が、隣にいる周防刑事に愚痴を言っている。椿軍医は黒い髪をポニーテールにして、両手を白衣のポケットに入れて立っている。彼女は回復魔法のスペシャリストで、広範囲回復魔法も使える有能な魔法使いだった。
「俺なんか今日、非番だったんですよ。今日は夜まで飲もうと思ってたのに……」
周防刑事と椿軍医が、こんな感じで愚痴を言い合っている。
「大丈夫なのか。ここの部隊は」
「伊達大佐は西側の防衛ラインに行ってしまったから、もうどうしようもないんだよ」
兵士達が小声でそう会話している。元々は伊達大佐がここの指揮をとるはずだったのだが、倉庫街に逃げ遅れた人々の救出に向かい、救出した人々と悪魔から逃げながら脱出したので、この場所に戻って来れてなかった。
兵士達が二人の愚痴を聞いて不安そうにしていると、そこに軍の救援要請を受けた黒刃探偵がべロスと共に到着した。
「周防刑事、お久しぶりです」
「おお、黒刃探偵か。相変わらずお供の忠犬を連れているのか」
周防刑事はそう言って黒刃探偵の隣にいるベロスを見る。
(この周防という男、前に戦ってるのを見たことがあるが、力の底が見えない。前に会った天城零夜も凄かったが、こいつも力を隠しているに違いない)
ベロスが周防刑事のことを警戒している。
「紹介しておこう。こっちがこの北側の防衛ラインの指揮をしている椿軍医だ」
「よろしく、黒刃探偵。君のことは色々聞いているわ」
「こちらこそ、よろしくお願いします」
椿軍医と黒刃探偵が挨拶を済ませた時、前方二百メートルくらいの場所にある倉庫が破壊され、そこに悪魔の軍勢が現れた。現れたのは下級悪魔のスケルトンが千体以上、そのほかに全身が白い毛でおおわれた、身長が三メートル以上ある巨大な人型の悪魔もいた。それを見てべロスが小声で黒刃探偵に話す。
「あれは……ウェンディゴだ。確か物理障壁を持っていたはず」
次回 魔王シェムハザ に続く




