第二百二十二話 魔王アバドンの恐怖 二
「むっ、あの巨人の悪魔、目がひとつだ」
「ひとつ目の巨人の悪魔といえば……サイクロプスですかね」
伊達大佐達が発見した悪魔はサイクロプスだった。サイクロプスは一つ目の人型の巨人の上級悪魔で、身長が四メートル以上で頭には一本の角があり、手には鋼鉄の棍棒を持っている。
「グオオオオ!」
サイクロプスは繁華街の店舗の入り口を破壊し、中に入ろうとしている。店の中には数人の男女がいた。
「伊達大佐! 中に人が!」
「奴の注意をこちらに引き付ける、射撃開始!」
ジープに乗っていた四人はジープを盾にするように降りて、黒田大尉と兵士二人はマジックアサルトライフルで射撃を開始する。伊達大佐はマジックバズーカを構えて撃つ機会をうかがっている。
「ガアアアアア!」
魔力を帯びた弾丸が次々とサイクロプスの体に命中する。だがサイクロプスの皮膚は固く、その弾丸では貫けなかった。だが弾丸が当たった場所は濃い青色になり多少のダメージを与えているように見える。
「グオアアア!」
サイクロプスは攻撃を受けて怒り、伊達大佐達に向かって持っていた鋼鉄の棍棒を投げた。その鋼鉄の棍棒が回転しながら猛烈な勢いで飛んでくる。
「むっ!」
伊達大佐はマジックバズーカで迫ってきた鋼鉄の棍棒を撃つ。その弾が命中して爆発し鋼鉄の棍棒が吹き飛んだ。
「あ、危なっ!」
「伊達大佐、助かりました」
「まだ油断するな」
「グオオオオオオ!」
武器を失ったサイクロプスは伊達大佐達に向かって怒りながら走ってくる。だがそのスピードは遅かった。
「黒田大尉は魔力強化を、ほかの二人は射撃を継続」
兵士二人は走ってくるサイクロプスに向かってマジックアサルトライフルを撃ち、黒田大尉は魔力強化魔法を発動する。
「月!」
黒田大尉が伊達大佐の魔力を強化し、伊達大佐は全身から膨大な魔力を放出してそれを火に変換して、それを両手で集めて巨大な火球を作り出す。一方のサイクロプスは銃撃を受けながらも、伊達大佐達に向かって走ってくる。
「炎装!」
強化された伊達大佐の超高温の火球が、走ってくるサイクロプスに命中して全身を飲み込む。
「ガアアアアアアア!」
火系最上級魔法に飲み込まれたサイクロプスは、燃えながら地面に倒れ、そのまま消滅した。
「敵の消滅を確認」
「やった!」
「さすが伊達大佐の魔法だ」
「ふぅ、なんとか被害を出さずに悪魔を倒せたな」
「うああああ!」
伊達大佐達がサイクロプスを倒した後、また別の場所から悲鳴が聞こえてきた。
「キャーー!」
「悪魔だーーー!」
「またか!」
「すぐに向かいましょう」
「ああ、全員ジープに乗れ」
伊達大佐達はジープに乗り、悪魔が出現した場所に向かって走り出した。
場面は中央地区の住宅街に変わる。ここでは後藤大将と近藤中将が、出現した悪魔の群れと戦っていた。
「射撃開始」
魔法防衛軍の兵士十人が、マジックアサルトライフルで二足歩行する犬の悪魔八体と戦っている。
「ギャアアア!」
「ガアアアア!」
銃撃を受けた犬の悪魔が次々と倒れていく。
「犬の悪魔といえば、ワードックかコボルトあたりでしょうか」
「おそらくコボルトだろう。ワードックはもっと人間に近い姿のはずだ」
後藤大将の言う通り、出現したのはコボルトだった。コボルトは小柄で全身が体毛で覆われていて、手足が太くなった犬が二足歩行しているような姿の下級悪魔である。戦闘能力は低く、群れで行動することが多かった。
「悪魔の全滅を確認しました」
索敵兵が八体のコボルトすべてが消滅したことを後藤大将に報告する。
「これで報告があったこの付近の悪魔はすべて倒せた。だが何かおかしい」
「はい。俺もそう思います。それに基地に民間からおかしな通報が来てるようです」
「おかしな通報?」
「はい、黒い雲についてらしいのですが、通報者が何を言いたいのかよくわからないようです」
「なら少し周囲を探ってみるか」
「はっ」
後藤大将と近藤中将と兵士二人はジープに乗り、残りの兵士達は装甲車に乗って中央地区を進んでいく。
「ん? あの雲は……」
「はい。確かに変ですね」
後藤大将と近藤中将は、空の黒い雲の様子が変なことに気付く。
「近藤中将、このまま進んでくれ」
「はっ」
後藤大将達がジープに乗って中央地区の北部を進んでいく。
「なっ、何なんだ?」
「く、雲が!」
後藤大将達は黒い雲がドームの壁のように周囲を覆っていることに気付く。
「まさか、あの雲は中央地区全体を覆っているのか?」
「近づいて確かめてみましょう」
後藤大将達は目の前に黒い雲がある場所に到着しジープから降りる。
「何なんだ? これは……」
「こんな近くではっきりと見える雲なんて初めて見ました」
黒い雲を近くで直接見た後藤大将達は驚いている。そして近藤中将は持っていたマジックソードで目の前の雲をつついてみる。
「むっ、この雲はまるで壁のように硬いです。この剣でも貫けません」
「いちおう素手では触るなよ」
「はっ」
後藤大将の言葉を聞いて、近藤中将は雲から離れる。二人が周りを見ると、黒い雲が広範囲にそそり立ち、雲が住宅にめり込んでいる場所もあった。
「我々はこの雲によって中央地区に閉じ込められたのか」
「そうかもしれません。中央地区の外と連絡が取れないのもこの雲のせいでしょう」
「このままではまずい。今、中央地区は悪魔出現が頻発している。我々だけで人々を守りながら悪魔と戦うのは厳しいかもしれん」
「それが悪魔の狙いですか?」
「おそらくな。そしてこんなことができるのは魔王クラスの悪魔だろう。この雲を作り出した魔王を倒さなければ、我々は閉じ込められたままだ」
「ではその魔王がどこにいるか探す必要がありますね」
「いや、まず民間人の保護が最優先だ。民間人を各避難所に全員移動させて、そこに軍の兵士を派遣して守るしかない。戦力は分散されるが、基地だけでは中央地区にいる全員を収容できないからな」
「では急いで基地に戻って計画を立てましょう」
後藤大将達はジープに乗り込み、中央地区の中心にある魔法防衛軍基地に戻っていった。
場面は中央地区の繁華街の伊達大佐達がいる場所に変わる。サイクロプスを倒した後、ほかの悪魔が出現した場所に向かった彼等は、今度は四体のオーガと戦っていた。オーガ達は繁華街の建物を破壊して、オーガ達のまわりに建物の残骸が落ちている。
「撃て!」
伊達大佐達は先ほどと同じように敵と距離を取って戦っている。
「ガアアアアア!」
四体のオーガは銃弾を受けても倒れず、その中の一体が落ちていた一メートルくらいのコンクリートの塊を伊達大佐達に向けて投げた。
「に、逃げろ!」
ジープを盾代わりに銃撃していた伊達大佐達はそのジープから離れる。そしてコンクリートの塊が命中してジープが大破する。
「くっ、バズーカで狙う時間がなかった。四体相手ではきついか」
ほかのオーガ達も落ちているコンクリートの塊を伊達大佐に向けて投げ始める。
「うわわわ!」
「逃げろ!」
「キャーーー!」
「火封眼!」
その時、空中から大量の高温の火が四体のオーガ達に降り注ぎ、全身を飲み込む。
「ギャアアアア!」
「ガアアアア!」
全身が火に飲み込まれた四体のオーガは倒れ、そのまま消滅した。
「あの凄い火の魔法は!」
「来てくれたか」
伊達大佐と黒田大尉は今の火系最上級魔法に見覚えがあった。空中からこの場に現れたのは美佳子だった。
第二百二十三話 「魔王アバドンの恐怖 三」に続く




