第百七十三話 第四回 全国模擬戦闘大会 一
時は六月の平日の午後。放課後の水ノ鏡魔法学校の校庭の模擬戦闘場で、零夜達、魔法戦術研究部が部活動をしている。
「天城零夜! 行くぞ!」
「来い! 吉祥優牙!」
模擬戦闘場の舞台で、零夜と優牙が幻影体で戦っている。零夜はラックブレイカー、優牙は神弓ピナーカという弓を使っている。
「我が矢を受けてみよ!」
優牙は魔力で矢を作り出し、神弓ピナーカでそれを放つ。零夜は放たれた魔法の矢をラックブレイカーで切り払う。
「まだまだ!」
優牙は魔力の矢を連続で放った。彼は弓を引くモーションをキャンセルして神弓ピナーカから次々と魔法の矢を放つ。零夜は迫ってくるすべての魔法の矢をラックブレイカーでさばききれず、その場から高速で移動して回避する。
「まるでガトリングガンだ!」
「あんなの弓矢の攻撃じゃないよ」
零夜と優牙の戦いを、伊賀崎英司と最上みつるが観戦している。優牙は零夜が移動する先を狙って次々と魔法の矢を撃ちだす。それに対し零夜は移動しながら、かわしきれない魔法の矢をラックブレイカーで切り払って、何とかしのいでいる。
(くっ、この魔力が凝縮された矢を一撃でも受けたら、幻影体が消滅してしまう)
零夜は優牙の魔法の矢を防ぎながら反撃の隙をうかがっている。だが優牙は攻撃の手を休めなかった。
「あれって魔力で作り出した矢だろ。吉祥はどれだけ魔力を持ってるんだ?」
「確かに。あれだけ連続で魔法の矢を撃ち続けるなんて信じられない」
優牙は戦いが始まってからずっと魔法の矢を休みなしで撃ち続けている。なので零夜が反撃する隙がなかった。
(このままではまずい。こちらから仕掛けるか)
零夜は高速で移動しながら、全身から魔力を放出してその魔力で複数の光の剣を作り出す。その光の剣は零夜が高速で舞台の上を移動しているので、舞台の上のあちこちに空中に浮いている。
「ほう、この状況で魔法で攻撃してくるか。面白い!」
「聖剣!」
空中に浮かんでいる複数の光の剣が、一斉に優牙に向かって放たれた。四方八方から同時に高速で飛んでくるので、優牙でもその光の剣を魔法の矢で撃ち落とすのは難しかった。
「ちっ!」
優牙は魔法の矢の連射を止めて、体の周りに球状の魔法障壁を展開して、複数の光の剣を防いだ。その隙を突いて零夜が一瞬で優牙との距離を詰め、ラックブレイカーで斬りかかる。
「光破斬!」
零夜はラックブレイカーに魔力で作られた光をまとわせ光の斬撃を放つ。それを優牙は両手に魔力をまとわせて、真剣白刃取りでラックブレイカーの斬撃を受け止めた。
「すげー!」
「あのスビードの斬撃を白刃取りとか信じられない!」
「なんて戦いだ!」
「いつ見ても天城と吉祥の戦いは凄いな」
零夜と優牙が模擬戦闘場で戦うと、いつも魔法戦術研究部の部員や関係のない生徒達が模擬戦闘場の周りに集まって観戦していた。優牙がこの部活に入ってから何度も二人は模擬戦闘場で戦い、互いの技を競っていたのである。
(この模擬戦闘場では、普段使っている技が使えないから、いつもと違う技を使うしかない。それもなかなか面白い)
(まあな、ここでは人間達が使える魔法やスキルしか使えないからな)
零夜と優牙が舞台の上で念話で話している。
(魔力の使い方もだいぶ慣れてきた。もう何千年も魔力なんて使ってなかったからな)
(まあ、神気が使えるなら魔力を使う必要ないからな)
模擬戦闘場では魔力と闘気は使えるが、神気は使えなかった。これも普通の人間には使えないので、人間の訓練用である模擬戦闘場での使用は想定されてないのである。
「みんなー! ちょっと集まって!」
零夜と優牙の戦いがひと段落ついた時、顧問のアリス先生が部員達を集める。アリス先生の隣には佐倉先生もいた。部員達と副顧問の如月理沙が、二人の先生の周りに集まる。
「えー、佐倉先生から話があります」
「そろそろ今年の全国模擬戦闘大会の出場者を決めたいんだけど、お前達の中で立候補したい奴はいるか?」
そう言って佐倉先生が魔法戦術研究部の部員達を見渡す。
(織星には今年も断られたし、明野も断るだろう。そうなると出場候補はここの連中の誰かだ)
佐倉先生は今年も水ノ鏡魔法学校代表のコーチなので、出場選手を探していた。
「全国もぎ……とは何だ?」
全国模擬戦闘大会を知らない優牙が零夜に質問する。
「ああ、日本の学生の強い奴等が集まって、誰が一番か決める大会だ」
「おお! 最強を決める戦いか! なら俺が出る!」
戦いと聞いて優牙の目の色が変わる。
「吉祥か。ほかに立候補する奴はいるか?」
(今の吉祥君と天城先輩の戦いを見て、立候補する人がいるとは思えないわ)
如月美沙は心の中でそう考える。二人の戦いがあまりにも次元が違うので、普通の生徒では優牙と一緒に戦えないと思ったのである。その予想通り、部員達は誰も立候補しなかった。
「今年も去年と同じように三人のチーム戦だから、後二人出て欲しいんだけど……」
佐倉先生は部員達を見渡し零夜と目が合う。
「天城、去年と同じように出てくれないか?」
「俺ですか?」
「何だ、天城零夜。お前も去年出たのか」
「まあな」
零夜は少し考えて返事する。
「俺の代わりに麗華はどうですか? 俺は観客席側でやりたいことがあるので」
(去年のようにルシファーがちょっかいをださないように、見張らないといけないからな)
「ほう、妹を推薦するか。実力的には問題ないが、どうだ? 天城妹」
「私はどっちでも構いませんが」
「よし、なら二人目は天城妹に決まりだ。後一人は……」
佐倉先生はまた部員達を見渡す。すると今度はミキと目が合った。
「霧島、どう……」
「いえ、私はそういう目立つのはちょっと……」
(今年は天城君も出ないし、私が出る理由はないかな)
佐倉先生の言葉を最後まで聞かずにミキは断ろうとする。
「霧島さん。俺からも頼みたい」
「あ、天城君」
いきなり零夜からそう言われミキが驚く。
「吉祥優牙が暴走したら止められるのは君だけだ。何としても無事に大会が終わるように、こいつの近くで監視して欲しい」
「おい、天城零夜! 俺が暴走とはどういうことだ?」
零夜がミキに頼んだ理由を説明していると、それを聞いていた優牙が口を出す。
「お前はいつもやりすぎるだろ」
「模擬戦闘場は倒されても死なないんだから、やりすぎても問題ないだろ」
「やりすぎると世間の目がうるさくなるだろ。特に軍に目を付けられたら面倒なことになる」
「むむ、確かにそれはうざいが」
優牙は零夜の意見を聞いて納得する。
「わかった。天城君がそう言うなら」
「おお、霧島。出てくれるか?」
「はい」
(多分、好戦的な吉祥君が相手を全部倒してくれると思うから、私は去年みたいに後方で待機してればいいでしょ)
こうして今回の大会に出場する選手は霧島ミキ、天城麗華、吉祥優牙の三人に決まった。去年は大会まで出場者三人が放課後に特訓をしていたが、今回は何もせずに普通に時が経ち、全国模擬戦闘大会の日になった。
第百七十四話 「第四回 全国模擬戦闘大会 二」に続く




