第〇十七話 魔王討伐ゲーム
魔王スルトは全身から強大な紫色の魔力を放出する。すると褐色の肌が黒色になって着ていた服が火に変わり、さらに巨大化して身長が二・五メートル近くになった。
「まずは貴様を倒し、その後、研究所を破壊する」
魔王スルトは魔王と呼ばれるのにふさわしい凄まじい魔力を全身にまとい、零夜に炎の魔法剣レーヴァティンで斬りかかる。その強烈な攻撃を、零夜はラックブレイカーでなんとか受け止める。
「ま、まさか……そんな……」
佐倉先生は、今まで感じたことのない上級悪魔を遥かに超える魔王スルトの魔力を見て数歩後ずさった後、その場にしゃがみ込む。
「今までの悪魔と違う……」
魔王スルトの本気の魔力を見てミキもそうつぶやく。彼女は魔王スルトが力を隠しながら戦えるような相手ではないと感じていた。
「ミキちゃん。あれが魔王だよ」
「え? 魔王?!」
初めて魔王を見たミキに秋穂がそう教える。その言葉を聞いた佐倉先生も同じように驚く。
「日高、それは本当か?」
「はい。あれだけの魔力を持つ悪魔は、上級悪魔より上の存在だと思います」
「ほう、日高秋穂。よくわかったな。そうだ。奴は魔王スルト。炎の魔王と呼ばれている悪魔だ」
ミキ達の会話を聞いていたアキラがそう話す。
「あなたこそ、よくアイツの名前まで知ってるわね」
ミキが素直に思った疑問をアキラにぶつける。
「フフフ、俺は悪魔学に詳しいからな。悪魔のことなら何でも聞いてくれ」
「……」
ミキはアキラから何か怪しい雰囲気を感じ取り、彼を警戒している。それらのやり取りの間も、零夜と魔王スルトは剣で打ち合いをしていたが、力を抑えながら戦ってる零夜は苦戦していた。魔王スルトの炎の魔法剣レーヴァティンの一振りで、彼はアキラやミキがいる方向へ吹き飛ばされるが、何とか倒れずに態勢を立て直す。
「クックックッ、苦戦してるようだな」
「う、うるさい!」
(人間達が見てるんだ。これ以上、力を使うわけにはいかない)
零夜は声をかけてきたアキラの方を見ずに、魔王スルトに剣を向けて構える。
「そうだ! ゲームをしないか?」
「は? こんな時に何を言っている?」
「誰が魔王を倒せるか競争するゲームだ」
「むむっ」
「どうせ奴と戦うしかないんだから、やるしかないだろ」
零夜はアキラに反論できないで黙っている。
「霧島ミキ、君も参加してもらうぞ」
「えっ? なんで私が?」
ミキは突然のアキラの話に驚く。
「参加してくれたら、君が力を隠していることを黙っていてやろう」
「なっ!」
ミキはこれまで零夜の視線は感じていたが、アキラの視線は感じたことはなかった。それなのになぜアキラに力を隠してることがばれたのかわからなかった。
(この人、力を隠してるのは天城君と同じだけど、何か危険な感じがする……)
「フフフ、参加人数が多いほうがゲームが盛り上がるだろ。これは面白くなりそうだ」
アキラが魔王スルトの前に歩いて移動する。それに続いて零夜とミキも乗り気ではない様子で歩き出し、アキラのとなりに立つ。
「やっと作戦会議が終わったか。面白い戦いになりそうだから無粋なことはしなかったんだが」
魔王スルトは零夜達の会話が終わるのを待っていた。人間が相手では大した戦いにはならないと思っていたが、自分とまともに戦える人間に出会えて面白い戦いになることを期待しているようだ。
「いいな! 奴に止めをさした者が勝ちだぞ!」
そう言うとアキラは腰の呪いの魔剣を抜き構える。
「フン、威勢だけはいいな。さて、お前がどれほどの力を持ってるのか見せてもらおう」
魔王スルトは全身から膨大な紫色の魔力を放出し、その魔力を火に変換する。
「炎装!」
魔王スルトは超高熱の巨大な火球を作り出してアキラを狙って放つ。その直後、アキラはその迫ってきた火球を、呪いの魔剣で真っ二つに切りいた。すると二つに分かれた火球のうち片方が研究所の入り口へ飛び、もう片方が魔法化学研究所の隣の林へ飛んで、両方の火が周囲に広がっていく。
(よし! これで入り口のカメラを破壊できた)
アキラはこの戦いの記録を撮られるのを防ぐため、わざと研究所の入り口へ火球の半分を誘導し監視カメラを破壊した。
「いけない!」
二カ所が同時に激しく燃えるのを見て、ミキは両手をそれぞれ研究所の入り口と林の方へ向けて、両手に魔力を集中させる。
「氷鏡鳴!」
「氷鏡鳴!」
ミキは燃えている研究所の入り口と林を狙って、両手から超低温の冷気を広範囲に同時に放つ。その氷系上級魔法が二カ所の燃えさかる火を飲み込み、瞬時に消火に成功した。
「おお、霧島! なんて器用な!」
(魔力の強さは天城達ほどではないが、魔力の扱い方がうまい。これが明野がさっき言ってた隠してる力か……)
佐倉先生がミキの魔力操作技術に感心している。彼女は魔法を発動させる時、零夜やアキラより魔力を低く抑えていた。それでも魔力を魔法に変換する精度が高く、零夜達と同じくらいの威力の魔法になっていた。
(それにしても天城、明野、霧島。三人とも、なんであんなとんでもない奴と対峙して、普通に戦えるんだ?)
佐倉先生は、自分の三倍くらいの魔力を持つ上級悪魔フラウロスと戦ったことがあった。だが今回の敵は自分の何倍かもわからないくらい実力が違っていて、彼女はとても戦う気にはなれなかった。
(未熟だから相手の強さがわかってないのか。いや、違うような気がする……)
本来なら佐倉先生は、みんなに逃げるように指示する立場なのだが、この三人なら何とかなるのではないかと考える。
「ほう、氷の魔法使いがいるのか。だがその程度の冷気ではな」
魔王スルトは火属性の悪魔なので、氷系の魔法が弱点だった。だが普通の人間の魔法では、膨大な魔力をまとう魔王スルトにダメージを与えられなかった。
「ならこれならどうだ?」
アキラは呪いの魔剣に真っ黒な邪気をまとわせる。これは以前使った闇の魔法剣ではなく、呪いの魔剣の持つ呪いの邪気だった。
「むっ、その剣は……」
魔王スルトは大魔王ルシファー配下の魔王ではないので、呪いの魔剣のことは噂くらいしか知らなかった。
「行くぞ!」
アキラは邪気をまとわせた呪いの魔剣で魔王スルトに斬りかかる。それを魔王スルトは炎の魔法剣レーヴァティンで受け止める。すると呪いの魔剣の邪気が相手の剣身を伝わり、さらに魔王スルトの体に到達した。
「ぐわっ! な、なんだ?」
呪いの邪気が魔王スルトの全身を飲み込む。
「がっ! ち、力が……抜ける……」
次回 圧縮魔力魔法 に続く




