第〇十三話 地獄の侯爵オリアス
場面は悪魔が出現した東地区の繁華街の中央通りに変わる。そこは普段は大勢の買い物客でにぎわっている通りだが、今は道路が封鎖され、複数の悪魔と魔法防衛軍の兵士達が戦っていた。
「ハハハッ、人間も建物もすべて破壊してしまえー!」
そう叫んだ悪魔の名はオリアス。オリアスはソロモン七十二柱の悪魔の一柱で、地獄の侯爵と呼ばれる上級悪魔である。オリアスはライオンの頭に人の体の姿で白い馬に乗っている。
「グオーーーッッッ!」
「ギャハハハハ!」
「食らえーーーっ!」
そしてオリアスと共にこの場に二十八体の下級悪魔が出現していた。その悪魔の名はガギソン。ガギソンはオリアス配下の悪魔で、人の体にコウモリの翼と鳥のくちばしと爪を持つ悪魔で、病原菌をばらまく存在として人の世に知られている。
「撃て! 撃て! 撃て!」
「こいつ等、数が多すぎる!」
「逃げ遅れはいないかー!」
東地区の軍の待機所から来た魔法防衛軍の兵士二十一人が、悪魔の軍団と戦っている。彼等は魔法やアサルトライフル、バズーカでガギソン達と戦いつつ、逃げ遅れた人々の救出活動をしていた。
「民間人の避難が最優先だ! 俺達が奴等の相手をしてる間に、逃げ遅れた人々を逃がすんだ!」
そう叫んだのは伊達洋介(だてようすけ)、日本のトップテンの一人で魔法防衛軍の大佐である。伊達大佐は二十五歳の男性で、髪の毛は短髪で細身ながら筋肉質な体をしている。戦闘面では火の魔法が得意で、さらに所持しているアサルトライフルでの精密射撃も得意だった。
「ギャーハッハッ! 破壊だ、破壊だー!」
「攻撃を分散させるな! 火力を集中させろ!」
伊達大佐と数人の兵士が、バズーカやアサルトライフルで近くにいたガギソンを攻撃する。そのガギソンがダメージを受けてひるんだのを見た伊達大佐は、全身から紫色の魔力を放出しそれを火に変換する。すると彼の体の周りに大量の火が舞い始め、伊達大佐はその火を両手で体の前に集中させて巨大な火球を作り出し、ガギソンを狙って放つ。
「炎装!」
「ギャーーーーーーッ!」
兵士達の集中攻撃を受けたガギソンは、伊達大佐の放った火系最上級魔法に飲み込まれ、そのまま消滅した。
「やった!」
「倒した!」
「喜ぶのはまだ早い。次のターゲットを倒すぞ」
「はっ!」
伊達大佐達は少し離れた場所にいるガギソンを倒すため走っていく。ガギソン達はこの繁華街のあちこちに移動して暴れていて、兵士達はそのガギソンを倒すため、いくつかのグループに分かれて戦っていた。
「毒刃!」
兵士達と戦っていたガギソンが、毒の波動を放つ。その状態異常魔法を受けた兵士達は毒状態になり、激しい頭痛やめまいに襲われ、さらに重症の者は意識を失い倒れてしまう。
「うおおおお! 撃て! 撃てーーーっ!」
「こ、後退だ! けが人を連れて後退しろ!」
劣勢になった兵士達はアサルトライフルを撃ちまくりながら後退していく。一方のガギソンは物理障壁を使えないので、兵士達の銃撃を恐れて無理に追撃はしなかった。
「よし! 次の悪魔がいる場所に移動するぞ!」
伊達大佐達がさらに一体のガギソンを倒した後、民間人を避難誘導していた兵士達が、伊達大佐達を見つけ、走って来る。
「伊達大佐! 逃げ遅れた人達の避難誘導が完了しました」
「うむ、よくやった」
その報告の後、傷だらけの兵士達が伊達大佐の所へ退却してくる。
「大佐! 何体かは倒せましたが、こちらも兵が毒を食らい負傷者多数です!」
「敵は毒を食らった兵士を集中して狙ってきて苦戦しています!」
傷付いた兵士達が必死に現状を報告している。さらにほかの場所で戦っていた兵士達も怪我をした兵士を連れてこの場に集まった。
(戦いを続けられる状態じゃない。このままでは全滅してしまう……)
「よし、撤退だ。お前達は傷付いた兵を連れて後退しろ。俺はここで奴等を足止めする」
「伊達大佐、一人であの数を相手にするのは危険です!」
「そうです。俺もここに残ります!」
「駄目だ。もうすぐ中央地区から後藤大将の部隊が来るはず。それまでの時間稼ぎくらい俺一人で十分だ。さっさと行け!」
「はっ!」
軍の兵士達は負傷兵を装甲車へ乗せて撤退を開始する。するとその兵士達にガギソン達が襲いかかろうとする。
「ギャーハッハッ! 逃がすか!」
「やらせん!」
伊達大佐は両手から放出した魔力を火に変換し、さらにその火が巨大な竜の姿に変化する。
「火炎竜!」
伊達大佐が放った巨大な火の竜がガギソン達を次々と襲う。その火系上級魔法によってガギソン達はダメージを受けて撤退中の兵士達に近づけず、その隙に彼等は撤退していった。
「ほう、人間のくせに中々やるではないか」
魔法防衛軍とガギソン達との戦いを見ていたオリアスが、付近に散らばっていたガギソン達を集め、ニヤニヤしながら伊達大佐を取り囲むように近づいてくる。
「フフフ、少しは力を持ってるようだが、その程度では我には通用せんぞ!」
オリアスが身にまとっている魔力は伊達大佐の三倍以上の強さだった。だが伊達大佐はそれを感じてもひるまなかった。
「すでに民間人と部下達は逃すことができた。後は命尽きるまで戦うのみ!」
伊達大佐がそう叫んでアサルトライフルを構えた直後、彼の後方から魔法の波動が放たれる。
「春眠!」
「な、何だ……」
睡眠の波動が伊達大佐を背中から飲み込み、彼は地面に膝と手をついて、そのまま地面に横になった。
「ZZZZZZZZ……」
伊達大佐は睡眠の状態異常魔法にかかり眠っている。その彼の後方に、一人の青年が立っていることにオリアスが気付く。
「ん? 貴様が今の魔法を使ったのか?」
伊達大佐を睡眠魔法で眠らせたのは零夜だった。彼はオリアスに向かって歩いていく。
「この人間、いい魂を持っているな。たまにこういう奴がいるから、人間を滅ぼされるわけにはいかないんだ」
零夜は眠っている伊達大佐の隣りを通り過ぎ、オリアスの前まで進む。
「何だ、貴様。一人で我々と戦う気か?」
「ほう。俺が一人に見えるか。フフフ、そのとおり! 確かに俺は一人だ!」
(何なんだ? こいつは……)
オリアスは、味方であるはずの伊達大佐を眠らせ、一人で戦おうとしている零夜の行動に疑問を持つ。
(あれは……天城君?)
デパートから悪魔と魔法防衛軍の様子を見に来たミキが、悪魔の軍団と零夜を離れた場所から見つけ、建物の陰に隠れながら様子をうかがっている。
(あの人が天城君なら、これ以上は近づけない)
ミキは以前から零夜が自分の力を探っていることに気付いていた。さらに零夜は魔力の感知以外にも、人の気配を知ることができると彼女は感じていた。だから魔力を消していても、近づきすぎると零夜に感知されてしまうのではないかと考えていた。
(さっきの彼の睡眠魔法……私が前に考えた方法と同じだ。ということは……)
以前ミキは上級悪魔オセと戦った時、周りの生徒全員を眠らせれば全力で戦えると考えたが、それと同じことを零夜がしたのではないかと推測する。
(天城君の全力が見れるかもしれない)
次回 魔力解放 に続く




