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火山の噴火ってのは、いつ起きるかわからない。


最近の研究は凄くて、過去何年噴火してないからそろそろ噴火が起きそうだとか予想を立てられる。スゲーもんだ。それでもそれは予想に過ぎず。なにがきっかけでいつ噴火するなんて、誰にもわからない。


もしかしたら突然、なんでもない日に急に火山が噴火することだってあり得る。噴火なんて起きる予兆はなかったのに、自分の知らないところできっかけがあって、ここ数十年は噴火しないと思われてた火山が噴火することだってあるのだ。


それに比べれば今回のは、逃げようと思えば逃げれたもの。きっかけははっきりしていて、噴火するなんて誰の目にも明らかだった。だから、大多数の人間はちゃんと避難していた。避難できなかったのは当事者と、そのきっかけに気付けなかった奴だけだ。


「なんで俺まで…」


バケツに突っ込んだ雑巾を取るとゆるく絞って、まだ水を多く含んだそれで壁を拭く。壁は赤やら青やら黄色やらいろんな色で染められていた。このよくわからない色はドドメ色か?染料が絵の具だったのが幸いしてか、何度か雑巾で擦れば混ざりあって何色かわからない色も落ちてくれた。


「まったく、悪の組織ってのはろくなもの作らないね!」


「悪の組織がまともなもの作れるわけないじゃないっすか」


きっと絵の具噴射器絵の具塗りローラー絵の具爆弾のこと言ってんだろうなぁ。ちらりと声がした方を見れば、怒り心頭なご様子の寮母さんがモップを持ってすぐ近くに立っていた。こわこわ。


最近、妙に某いかゲームが流行っているらしい。会話に1回は必ず話題に登るし、売上は上々。いかゲームにハマりすぎて、いか武器を作り出す奴まで現れた。現れたってか、犯人は技術者達だけども。さすが悪の組織と言うべきか。再現率は半端なかった。


んでリアルにいかゲームが出来るとなれば、嬉々として、ここぞとばかりにやっちゃうのが悪の組織だ。周りの迷惑?気にするわけねえだろ。自由人の集まりだぞ悪の組織。


そんなわけで、いか武器が出来てからいろんな場所で被害が出たわけだけども。今回はこの寮が被害に遭ったわけだ。そうなれば必然的にどうなると思う?


寮母さんの怒りが噴火したんだわ。


俺さー、寮がそんなことになってるとは知らずに寝てたわけだよ。ここ最近、ずっと任務こなしてたし。そんで、気分良くグースカ熟睡してれば寮母さんに叩き起こされて何がなんだかわからないまま雑巾を持たされたわけだ。意味がわからなかった。なんで起きて早々に雑巾?とか思った。思ったけど、怒ってる寮母さんに質問とか出来なかった。後ろに般若とか見えたし。


そうして俺は、寮の大掃除に巻き込まれたわけだ。つらすぎ。眠い。


早く終わらせたい一心で黙々と手を動かす。これ終わったら早く寝よう。布団に飛び込もう。


少し離れたところから数人のはしゃぐ声がする。水が飛んでぶつかる音がするから、たぶんいか武器使って水撒いてんだろう。懲りない奴らだな。ふはっ、と小さく笑いが零れた。ヤバイわーSAN値ピンチだわー。


そんな俺の様子を心配してか、寮母さんが大丈夫かい?と声をかけてくる。怒れる寮母さんでさえ心配するレベルで俺はヤバイのか。へら、と緩く笑みを浮かべると、ひらひらと手を振って大丈夫っすとだけ返した。


それからまた、寮母さんと二人で黙々と掃除を進める。会話はほとんどなかった。珍しいことだ。普段だったらもう少し、愚痴なり雑談なり話すのに。


「そういえば、メビウス出来たようだよ」


「あー、そうなんすね」


今話すことと言えば、業務連絡のようなことばかり。それも、寮母さんが気を遣って話しかけてくれているようなもの。こりゃ寮母さんも心配するわな。自分が原因とわかっていても、俺にどうこうするつもりはなかった。


二時間かけてやっと寮の掃除が終わる。その頃には避難していた他の住人も、寮に戻ってきていた。


「じゃあ俺、部屋戻るんで」


「あ、ちょっと待ちな」


寮母さんに呼び止められて、部屋に戻ろうとした足を止める。戻ってきた住人の相手をしていた寮母さんが、何かを持ってこちらにやって来る。なんだ?と首を傾げていれば、後で食べなと何かを持たされた。視線を持たされたそれに向ける。俺の手の中には、小さな袋に包まれたクッキーがあった。


「疲れたときは甘いものだよ。それ食べて早く休みな。疲れてるときにコキ遣って悪かったね」


「え」


俺が反応を返せない間に、寮母さんは言うこと言って他の住人のところに戻ってく。それをぽかんと見送った俺は、もう一度手の中のクッキーを見て大きく息を吐いた。


罪悪感が半端なかった。


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