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ひゅう、というか細い音と共に光の線が空を昇る。そしてふ、と消えたかと思うとパッと真っ暗な空を背景に、綺麗な火花が咲き誇った。夏の夜空をバックに、色とりどりの花火が次々と打ち上げられている。


今日は花火大会だ。


さすが悪の組織の花火大会と言うべきか。空を彩る花火は普通のデザイン始め奇抜なものも多い。菊の花や蝶、告白台詞や敵であるヒーローの顔エトセトラエトセトラ。おい誰だ、妖怪ウォ○チの次にポ○モンのデザインぶっこんだのは。哀愁が漂ってるぞおい。


それから視線を下に向ければ、そこは騒動の真っ只中。まさにお祭り騒ぎと言うべき喧騒が広がっていた。誰かは祭りのクジで当てたのだろういつぞやの小型生クリーム砲(試作品)を誰彼構わず撃ちまくって、なんでか周りの人間といかに生クリームを会場全体塗りまくれるか競争しているし(某いかゲームを模してるのか。だったらいかゲームをやれ)。また他の誰かは、屋台で買ったたこ焼きを食べて巨大化している。たこ焼きに巨大化するきのこ入れたら、たこ焼きじゃねえよな。


そんな騒ぎの中俺はと言えば、安心安全な屋台で買った焼きそばたこ焼き牛串と、昼に普通の店で買った酎ハイ準備して、1人会場の端のひっそり用意されたベンチで花火を眺めていた。


「ほんとは、はーちゃんと来るはずだったんだけどなぁ」


一口酒を口に含む。オレンジの味がするその酒は、はーちゃんが好きな酒だった。仕方ないとはいえ、はーちゃんに買った酒なんだけどな。いつもなら普通に美味しいと思う酒が、少しだけ味気なく感じる。俺はそれを誤魔化すように、たこ焼きを口の中に放り込んだ。


はーちゃんは今日、任務で街を出ているのだ。


モグモグとたこ焼きのタコの食感と、ソースの甘じょっぱさを味わいながら花火を眺める。花火は途切れることなく、夜空に咲いていた。


「あ」


見覚えのある花火が咲いた。記憶によれば、それは前回の花火大会でも上げられた花火だった。花火大会の花火は前回と被らないよう、大会実行委員に色々お願いしたけど、いくつかは被ってしまったようだ。


「前は、はーちゃんと来たなぁ」


はーちゃんと二人で浴衣を着て、一緒に屋台を巡った。前の花火大会を思い出しながら、また酒を口に含む。今回みたいに一緒に行こうねって話をして、一緒に花火大会に行った。浴衣を着たはーちゃんはいつも以上に可愛くて、俺があげたものを着けてくれてて、人混みでいつもより距離が近いせいか良い匂いがした。ごくりと酒を飲み込む。甘いお酒と言っても、舌に残った味は苦かった。





「こんなとこにいたの?」


食べ物全て食べ終わり、まだ酒も残ってるからと何か追加で買ってこようかと考えてた時だった。きぃ君がお好み焼きを携えてやって来た。俺が、よーと声をかけて隣をペチペチと叩けば、きぃ君は呆れた様子ながらも隣に座った。


「酔ってる?」


「ほろ酔いだからへーき」


視界も回ってないし意識もはっきりしてる。自分の現状をそのまま報告するも、あまり信じてなさそうなきぃ君が差し出したオレンジジュースは素直に受け取った。またオレンジか。


「珍しいね。トモがこんなところにいるなんて。屋台を巡ってると思ったのに」


「だってはーちゃんいねえし」


ぷくー、と頬を膨らませて言う。きぃ君はそんな俺を冷めた目で見て、トモがやっても可愛くないよ、と指で膨らんだ頬を潰した。別に可愛さ求めてやってませんしー。ちゅーと紙パックにストローをぶっ刺して、オレンジジュースを飲む。


そんな俺の様子にきぃ君は俺の現状を察したんだろう。苦笑を溢して、これで機嫌直して、とお好み焼きをくれた。俺はいそいそとお好み焼きが入ったパックを開けると、一口お好み焼きを口に放り込む。お好み焼きの香ばしい香りとソースやマヨネーズや豚肉の味が口一杯に広がった。お好み焼きうまー。


「そういえば、隊長は見つけたの?」


「あー、見つけてない。祭りにも来てないしなー」


この間話したことを気にしてたんだろう。不意にきぃ君が隊長のことを聞いてくる。きぃ君には誤魔化しても意味がないし、事実をそのまま伝えた。きぃ君が、残念そうに呟く。


「隊長、夏祭り大好きなのに…」


「それどころじゃないんだろ」


ぱくりとお好み焼きを食べる。


「隊長は忙しい人だしな。いろんな意味で。今頃頭フル回転で新しいこと考えてんじゃね?」


きょとんと呆けた様子できぃ君がこちらを見る。な、なんだよ…と呟けば、きぃ君がにっこりと笑った。なぜ笑う。


「…そうだよね。隊長のことだから、きっと凄く面白いことでも考えてるんだろうね」


うんうん、ときぃ君が頷いてる。自分の中で納得したようで何よりだけどさっきの笑みはなんだよ。きぃ君にさっきの笑顔の理由を聞きたくも、妙に上機嫌で聞くに聞けない。俺は1つ溜め息を溢して、聞くのを諦めた。半分に減ったお好み焼きを、折り畳んで口の中に詰め込んだ。


「あー、時間を止められたらな」


唐突なきぃ君の言葉に驚いて噎せる。お、お好み焼きが。なんとかお好み焼きを噴射することは避けるも、お好み焼きが変なところに入って何度か噎せる。きぃ君はそんな俺に気付かず、言葉を続けた。今気づいたけど、きぃ君いつのまにか俺の酒飲んでるし。


「そしたら隊長に、この楽しそうな光景を見せてあげられるのに」


「時間止めたら隊長も止まるだろ」


「あ、そっか。じゃあ繰り返せば良いかなぁ」


「普通に来年を楽しみにしろよ」


あーあー、しっかり酔っぱらってんなぁ。ぺちっときぃ君の額を叩いて、きぃ君から酒を没収する。酔って良い気分なのか、きぃ君はゆるゆるに表情を崩していた。


「来年じゃ駄目だよ。今年のこの祭りの様子を見せたいんだから」


「だからって繰り返してもあんま良いことねーぞー」


こりゃもう帰った方が良いな。きぃ君の様子を見て判断すると、きぃ君の飲みかけを飲み干してごみをまとめる。それを片手で持ってから、楽しそうに頭を揺らすきぃ君を片手で支えて立たせた。ふらふらしてるけど、どうにか歩けそうだ。


「ほらきぃ君帰るから歩けー」


「んー」


きぃ君を引っ張るようにして歩き出す。きぃ君もこくりと頷くと、俺に引っ張られるまま着いてきた。おっかしーよな。最初酔っぱらってたの俺なのに、なんで俺が介抱役。きぃ君の楽しげな笑い声を聞きながら、お祭りでテンションがおかしい奴等を避けて会場を抜ける。綺麗な花火を背中に帰り道を歩く。


「そういや、こないだ夕飯一緒に食べようって言ってたけどよ」


「んー?そんなこと、言ったっけ?」


夜空には、今まで見たことがないデザインの花火が、満開に咲いていた。

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