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悪の組織より悪そうな奴なんて、いっぱいいるよなぁ。アイス食べながら、汚職がなんちゃら殺人がなんちゃらと報道を繰り返すテレビを消した。
棒アイスをくわえたまま、リモコンを持っていた手をパタリと落とす。もごもごと我ながら器用にアイスを食べながら、それでも口の端から零れるアイスに気持ちぃなと目を細めた。
現在朝の6時。任務帰りの俺。部屋のエアコンは壊れている。気付いたのはさっき。
今は夏だ。じわじわとした熱が身体を苛み、夜寝るのにエアコンをセットしておかなければ次の日死ぬことさえあり得てしまう夏である。
「あぢぃ…寝れねぇ…」
既に悪の組織の有能な技術者には連絡を入れた。返ってきたのは、エアコンは直せない作れないという無情なもの。なんでだよ。普段エアコンよりスゲーもん作ってるだろ。
そんなわけだからアイスで暑さを誤魔化しつつ、あわよくば寝れないかと布団の上でグダグダテレビを見ていたわけだけど(起きた時には死んでるかもとか思ったけど、眠気が勝った)、夏の暑さは強敵だった。なんなら、ヒーロー達より強かった。
「暑い」
ちょっと反動をつけて身を起こす。くわえたアイスは食べきった。口に残った棒をテキトーに放り投げてゴミ箱に捨てると、俺はテキトーに身成を整えて部屋を出た。
「普通なくね?餅降り装置とか当たったら1日犬語しか喋れなくなる光線銃とか、んなもん作れるならエアコンぐらいすぐ作れると思わないっすか?」
「悪の組織が、まともなものを作れるわけないじゃないか」
「あー、そっかーあー…」
朝ごはんを作る寮母さんの言葉に納得すると同時に項垂れる。悪の組織って……。
今俺がいるのは寮にある食堂。どうせ寝れないなら朝ごはん食べて、ついでに食堂で涼もうと思ったわけだ。食堂ならエアコンついてるしな。
朝の6時には開く食堂は、早くに任務がある奴がちらほらいるだけで空いている。俺は手早く寮母さんにご飯の注文をすると、寮母さんがご飯を作るキッチンの近くの席に座った。忙しくない時の寮母さんは、ご飯を作りながらでも雑談に付き合ってくれるのだ。
あと時々デザートくれる。美味い。
「で、お前さんどうすんだい?エアコン壊れちまって寝れないんだろう?」
テーブルにぐでぇと身体を預ける俺の頭を叩き、俺の朝食を配膳してくれた寮母さんが聞いてくる。寮母さんのちょっとした優しさに感動しながら、今後の予定を寮母さんに告げる。
「とりあえず、今日明日は友達んとこ行きます。エアコンは、まぁ一応すぐ届けてもらえるよう注文してあったんで、明後日には戻ってこれるんじゃないっすかね」
言い終わってぱくりとご飯を口に運ぶ。うん、今日も寮母さんの飯は美味い。ぱくぱくと夢中でご飯を食べていると、気づけば寮母さんがデザートだろうフルーツポンチを持って、俺の座る席の前に立っていた。寮母さんは訝しげにこちらを見ている。
「今の時期忙しいだろうに、随分と速いじゃないか」
「あー、いや元々そろそろ限界かなーとは思ってたんで。前々からお願いはしといたんす」
こりゃ疑われてると慌てて説明する。別に無理言ってとか変なところの商品掴まれてるとか、そういうわけでもない。単純に、そろそろかなと考えて対策しといただけだ。
「まー、技術者さんが直せりゃそれが一番早くて良かったんすけどね」
「それこそ無理言ってんじゃないよ。あの人達は別の物作るのに夢中なんだからさ」
寮母さんが呆れたように言いながら、俺の朝食の端にデザートを置く。よっしゃ、デザートゲット。どうやら疑いは晴れたらしい寮母さんにあざすと礼を言って、また朝食を口に運んだ。