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死亡中王子の迷宮狩り  作者: 泣鳴
始まりの迷宮
4/5

発覚と初戦闘

 突然のルークの発言に唖然となる一同。


「え?」


「や、だからさ。ここを急いで脱出する必要ってあんまり無いよな。寧ろ俺達死んだ事になってる可能性の方が高いんじゃないか?つまり、今後自由に生きられる」


「あ」


「確かに!」


「そういえばそうねー。それなら都合も良いし、ゆっくり腰を落ち着けて攻略が出来るわねぇ」


 俺の言葉にそれぞれが同意し、顔からは若干陰りが取れる。


「現状が変わる訳ではありませんが、望まない家に帰る事を考えるよりも随分とやる気が出てきますね。それも、家出と違って探される可能性が殆どない。逃げ回らずに堂々と出歩けるようになるのは幸いですね。迷宮(ダンジョン)の探索も夢だったんですよ」


 グランが明るい声でそう話す。


「そうねー。私も色んな街を観光したかったから、夢が広がるわー。……でも、その前に早速頑張らなくちゃいけないみたいねぇ」


 グランに賛同して自分の希望を言った後、うんざりした声を出しながらサクヤの指がルークの後方を示す。

 そこは先程グラン達が入って来た通路とは真逆の位置にある通路があり、少しずつだがそこからは唸り声が響いていた。

 ルークが振り返ると丁度ソレが通路から姿を見せた。

 ソレは首の長い虎だった。

 当然ただの虎で在るはずがなく、夜空のような漆黒の体に血色の模様(タイガーパターン)、光の気配の一切存在しない闇色の瘴気を全身に纏わせ、額から無数の棘が伸びた様な禍々しい形状の捩じれた赤黒い角を持つ魔物だ。


「……誰かあの魔物について知っていますか?」


 グランがその異様に冷や汗を掻きながら声を絞り出す。


「ええ、知ってるわー。……あいつに傷を付けられたら、終わる」


 思い当たるものがサクヤにはあったようで、小さい声で告げる。

 ルークの記憶にも該当する存在は一つしか居ない。


 ミアズマタイガー。

 元Sランク指定災害級討伐モンスター。

 あらゆる死病の元となったとされる根源の毒を用いて幾つもの国を潰し、その危険性から大きな犠牲を払ってまで掃討した、四千年以上前に人類の手に掛かり()()した筈の魔物。

 額の棘角。爪。牙。血液。その何れかに触れれば問答無用で腐り落ち、掠る事すら許されない戦士の敵。歴史上最も多くの人間を殺した伝説の種族。


「私が読んだ古書には好戦的ではない事が唯一の救いだと書かれていたけど、それは迷宮では望めないわねー」


 絶望的な状況で絶望的な相手。

 それでもルーク達は生き延びるために抗わねばならない。


「殺られる前に殺れ、だよね」


 リリーがミアズマタイガーへと向かって駆け出す。

 その手にはいつの間に手にしたのか、硬質な鋼色に鈍く輝きを放つ手甲(ガントレット)が装備されていた。


 リリーが向かって行ったことで敵だと認識したのか、ミアズマタイガーがのそりと緩慢な動作で動き出す。意外な事に好戦的でないという性質は迷宮でも適応されるのかその動作はひどく遅い。


 その間に近づいたリリーが細かく拳を放つが首の動作だけで避けられる。それと同時に棘角が振るわれ、リリーを襲う。

 ミアズマタイガーは右に左に、時にはその鋭い爪を使い不規則な攻撃を続ける。それをリリーは全てかわす。まるで知っていたかの様に、かわす。ミアズマタイガーはそれに苛立ち始め一薙ぎに尾を振るう。

 リリーは大きく後ろに飛ぶことで回避し、距離を置いて相対する。


「こいつの攻撃、結構鋭いから気を付けて」


 リリーは長剣(ロングソード)を持ち自分の横に並んだグランに言う。


「ええ、分かっています。今の攻防を見ただけでも僕の剣の腕では身に余る相手ですから」


 長剣を構えながらグランは言葉を返す。ミアズマタイガーは動かない。


「じゃあなんで来たの?足手纏いなら要らないよ」


「確かに、剣の腕では足手纏いです。ですが」


 言って、グランは走り出す。

 ミアズマタイガーはそれを見て右前脚を振り上げ爪による攻撃を行う。グランは長剣で爪を弾くが腕力に負け後退る。連続で加えられ続ける爪による攻撃に少しづつ後退していく。

 焦れたミアズマタイガーはトドメとばかりに大きく腕を振り上げ殺しに掛かるが、グランはそれを待っていたとばかりに右に回避。そして長剣を尾に目掛けて投げつける。


『グガァァアアアア!!』


 直撃した長剣により尾が切断されミアズマタイガーは叫びを上げる。そしてミアズマタイガーの意識が尾に向いた時、グランの()()()()()()長く鋭利な爪がミアズマタイガーの両前脚を刈り取った。


「自信が無ければ前には出て来ませんよ」


 飛び散る猛毒の血液を避けながら呆気に取られるリリーの横に並び立つと、グランは得意気にそう言った。

 その顔を掠める様にして後方から拳大の炎弾がミアズマタイガーに連続で襲い掛かる。十発程叩き込むと、黒焦げになったミアズマタイガーが崩れ落ちる。

 驚いたグランとリリーが勢い良く後ろを振り返ると、ルークが先程は持っていなかった重厚な造りの巨本を開き怒りの形相で立っていた。

 そしてグランとリリーを睨み付けたまま、こう言い放った。


「何で接触厳禁な雑魚相手に突撃かますんだよ。馬鹿じゃねぇの?」


「「え?」」「あら?」


 困惑の声が揃った。




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