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死亡中王子の迷宮狩り  作者: 泣鳴
始まりの迷宮
3/5

目覚めと現状

 ルークが目を覚ますと、まず目に入ったのは歪な形をした石の天井だった。


 (ここは何処だ?)


 不思議に思いながらも体を起こし辺りを観察する。

 自分のいる大きく広い空間に、何処かに繋がっているだろう通路が二つ。所々の壁には青く光る石が一定の間隔で並んでおり、薄暗くはあるが視界を確保する為の光量としては十分だった。

 傍にはグラン達が身に着けていた物が一纏めにされており、この広間には居ないが近くには居るようだった。


 だがそれよりも、ルークは自分が何故生きて動いているのかが疑問でならなかった。それも当然ではあり、ルークの探った限りの記憶の最後では助からない程の重傷を負った筈だった。


「まあいいや、取り敢えず皆を探してみるか」


 いくら考えても分からないのなら仕方がない、そう考えてここに居ない面々を探す為に壁に手をついて立ち上がろうとして----


「ルークが起きてるぅぅぅうう!!!」


 ----後ろから押し倒されて顔面を床に強打した。


「大丈夫!?体痛くない?!私の事分かる!?」


「………リリー…。顔が現在進行形で痛いんだが、まずは俺の上からどいてくれ。グラン達もリリーを止めてくれよ。頼むから」


「心配させた罰ですよ。甘んじて受けて下さい」


「そーですよー。痛みに悶えてくださいなー」


 リリーに飛びつかれ被害を受けた顔面を擦りながら、声を掛ける。

 帰ってきた言葉は辛辣ではあったが、声を聴くことでルークの中にあった微かな不安が消えていく。それはグラン達が本当に生きているかどうかというものだったが、本人達を前にしたことでルークの中でしこりとなっていたそれは消えた。

 少しづつ痛みも引いてきたので、背中目掛けて飛び込んで来たらしいリリーをどけて立ち上がる。まだ少しふらついたが問題なく立てるようだった。


「大丈夫ですか?」


「ああ少し感覚が狂っていただけだ。それよりも、ここは何処なんだ」


 グランに言葉を返し、ルークは自分の些細な体調不良よりも現状について尋ねる。これからの行動に関わり、場合によっては自分たちの命の危険にも直結する問題でもあるため、早急に把握したい事柄であった。

 何が起こるか、また何が起こったか分からないので用心をするに越したことはないのだ。


「うーん。どこかっていうのは正確には分からないのよねー。私達が起きた時にはもうここにいたしー。そうそう最初はここから少し離れた潮溜まりのような場所に居たのよねー。ルー君の怪我の事もあったからー直ぐにこっちに来たんだけど。まあその辺はまた後で良いかしらねー。話を戻すわね?それで、地図上の位置は分からないけど、ここがどんな場所かなら大体の当たりの付け所はあるわねー」


「どんな場所か?」


「ええ、遠目に見ただけだからはっきりとは断言出来ないけどー、虎と兎と狼が仲良く歩いてたわ。明らかに食物連鎖や魔物の生態を無視した行動、それに加えて空間一杯に満たされた豊富なマナ。これらの事から多分ここは迷宮(ダンジョン)だと推測出来るわねぇ」


 迷宮(ダンジョン)

 それは世界に無数に存在する宝と魔物を多く内包した空間。一獲千金を狙う冒険者たちが攻略に乗り出し、一握りの栄光と無数の犠牲者を生み出す魔窟。

 内部で供給され続ける膨大な魔素により、無限に魔物が生産され続ける工房。


「つまりここは世界に無数にあるとされる天然の死刑場の一つって訳か」


 攻略されていればとは思うが、ルークの記憶の中には海の中に存在する迷宮の情報は一切聞いたことが無い。少なくとも発見されていればとも思うが、やはり記憶に該当するものは無い。

 つまり助けを待つという手段は早々に潰えたことになる。


 その事実に若干沈みながら、ルークは他に確認出来ることを聞く。


「グラン、俺達が入って来た場所からは出られそうに無いのか?」


「それは僕も真っ先に考えました。先程探索に出ていたのも、その辺りを検証することが目的でした。そして結論から言わせて貰えば、あの場所からの脱出は不可能です。僕達が最初に目を覚ました潮溜まりの奥にある穴が出入り口だと思われますが、そこに辿り着くまでに複雑な潮の流れが出来ていて、その原因は外から流れ込んでくる海流です。偶然穴に近づけたとしても直ぐに引き離されるでしょうね」


「そうか…」


 入ってくる箇所が在るならば逆もまた在りうるが、それまでにどれだけ流されるかを考慮すると確実に息が続かないだろう。

 だが他に出口と呼べるような物が在るか?

 ルークは考えを巡らせるが思い当たらない。

 そして頭を悩ませ続け溜息をつきかけた時、ふと思い出す。


 迷宮の最奥部、ボスと呼ばれる最強の一体が陣取る部屋の向こうにある仕掛け、迷宮外転移陣。

 その存在を。 


「攻略するしかないって事か」


「そうなります。ただそれにも多少問題があるんです」


「この上まだあるのか……。それで何があるんだ?」


 これまでの事実に加え、さらに増える問題に辟易しながらも続きを促す。


「先程確認した例の穴なんですが、どうやら門の様なんですよね」


「門?」


「はい。水底には通路のようなものもありましたし、多分過去にこの場所は地上にあったと思われます。しかし今は水中にある。ということは地殻変動か何かで沈んだと考えるのが妥当です。ですが迷宮が移動する程の大規模な地殻変動となると最低でも数百年は記録されていません。それを踏まえるとこの迷宮は相当に歴史の古い、つまりそれだけ強力であると言わざる負えません」


 つまりは絶望的である。

 その事実を受けルークは顔を歪めるが、どちらにせよ現状出来る手立てが無い以上、たとえ攻略が殆ど不可能であろうと前に進むしかない。そう思い直すことで思考を前へと向ける。

 他の面々も同じ考えであるのか、その表情には影が差しながらも諦めている様には見えない。


 ルークは考える。

 今自分達に必要なのは生きる為の活力、何が何でも生き延びるという気概であると。

 ルークは考える。

 生きる為の目標を定める事が大切だと。

 ルークは考える。

 自分にとってそれは帰る為だと。

 ルークは考える。

 それは自分の生まれ育った街であり、城であり、愛する両親であり、愛しくも怖ろしい妹だと。

 そこまで考えて、ルークは気付く。


「……なあ、今までの流れをぶった切る様で悪いんだが、一つ良いか?」


「?」


 首を傾げながらも全員がルークを見る。

 それを確認して、ルークは言った。


「あのさ、目的(家出)って達成してないか?」




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