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つまりこんなお話

 次の時間は、教師が風邪の為自習となる。

 なので、こんな温かくてよく晴れた日だからとフィーネは立ち上がり、

「ナナ、カイ、バード、皆で外を散歩しない!」

「あ、いいかも。風も温かくて気持ち良さそうだし」

「そうだね、それも良いね、フィーネちゃん」

「僕は行かない」

 そこでカイごそごそと教科書を取り出した。

 自習の時間勉強するつもりらしく、教科書を読み始める。

 それにフィーネは、カイは相変わらずだわと思いながら、

「カイ、行くわよ」

「ま、待て。何で襟首掴んで……」

「昔からこうやって引っ張っていかないと皆と遊びに行かないものね。まったくカイは仕方がないなー」

「ぼ、僕は勉強……」

「良いから来るの!」

 フィーネがカイに有無を言わせずに連れて行く。

 それに面白がって、バードとナナがついていく。

 その強引な様子や、クールで通っているカイの珍しい姿にクラスの皆が呆然と見送ったのだった。


 気がつけば鬼ごっこをする事に決まっていた。

 そしてフィーネはにやっと笑い、

「鬼はカイね!」

「……勝手に決めるな」

 そう言い返すカイだが、そこでバードがカイの肩を叩き、

「じゃあカイが鬼だな、十数えるうちに逃げるから」

 バードが悪乗りして、更にナナまで乗っかった。

 フィーネがいるとこんな風になんだかんだでカイは流されてしまうのだ。

 他の誰かであったら、くだらないと一蹴して無視するだけだ。

 実際にそうやって嵌められて嫌な思いをさせられた事もあり、カイは昔よりも冷たくなっていた。

 才能とこの容姿に、嫉妬を覚えるものや利用しようとするものがいるとカイはここに来て痛感させられた。

 なので、無視して教室に戻って勉強をしていても良かったのだ。

 けれど、カイはフィーネの強引さに流されてしまう。

 だって、カイにとってフィーネは“特別”だから。

 けれどそこで思い出す。以前フィーネが言った言葉を。

「カイは、私の“弟”みたいなものだから」

 あの時バードがお腹を抱えて笑い転げていたが、それ以上にカイは怒っていた。

「“弟”じゃない」

 ぶすっと不機嫌になってから、カイは三人を魔法を使って探し始めたのだった。


 カイを外に連れ出すのも私の仕事。

 そう思いながら機嫌よくフィーネは逃げていく。

 昔は逃げ回るカイを追い掛け回す役ばかりのフィーネだったが、たまにはこういうのも良いだろうと思う。

 さーて何処に逃げ込もうかなと思っていると、白い影が見えた。

 それが透き通っているように見えて、フィーネは目をごしごしと擦る。

 そもそも、闇属性の月の魔力が強い夜でないと、幽霊は外を出歩けないはずだった。

 なのに日の光……光属性の強いこの時間に、幽霊がふらふらとしている?

「つけていってみよう、なんだか面白そうだし」

 フィーネはその白い影を追いかけていく。

 その幽霊は女の子のようで、ふわふわと何処か頼りなげに歩いていく。

 それを隠れながら気づかれないようにフィーネは追いかけていく。

 この学園は木々が多く、敷地も広い。

 それを差し引いても、授業中であるためにか、フィーネが歩いていくような場所には人はいない。

 濃い緑の香りがフィーネの頬を撫ぜて、道の両端には名も知らぬ花が咲き乱れる。

 見知らぬ世界に誘われているようなそんな感覚を覚えながら、フィーネは走っていく。

 やがて一つのぼろぼろの建物の前までフィーネはやってくる。

 建物自体は石造りだが、穴の開いた石造やら細かな細工は土ぼこりで汚れて、周りには緑色の背の高い雑草に囲まれ、窓は幾つも割れている。

 随分と長い間放置されたお屋敷のように見えるが、その玄関に続く場所には人が出入りしているためだろう、雑草はなく踏み固められて土がむき出しになっている。

 そこに白い影が、すうっと扉をすり抜けて入っていく。

 その幽霊の根城はここらしいと思いながらフィーネは、

「こんな所にも幽霊がいるのね。普通はお墓とかにいるのに、変なの」

 幽霊に聞こえないよう小声で呟く。

 確かに村にもいたし、フィーネに色々話しかけてきたが、こんな昼間の明るい場所を歩いているなんて初めてだった。

 しかも随分と長距離を移動しているらしい。

「幽霊は、いつも漂っているだけなのに、さすすが都会。村とは違うわ」

 うんうんと一人で頷きながら、フィーネはその廃屋に近づいていく。

 足を忍ばして、ゆっくりと周りの音に気をつけて……。

 そこで、フィーネの耳に音が響く。

 それは楽器の音だった。しかも一つではなく、複数の楽器の音。

 横笛に、ハープ、弦楽器、鍵盤楽器、トランペット……奏でられる音は一つに集まり、柔らかな調べを風に乗せている。

 この季節にぴったりな明るく、何処か胸の弾む季節の到来を祝うかのように演奏される曲。

 いったい誰が弾いているのだろうとフィーネはこっそりとドアを開ける。

 中は薄暗く、ほんの少し扉を開けただけで中から綿埃が噴出す。

 古くなって立て付けの悪くなった入り口の扉は、フィーネがほんの少しだけ押しただけでもぎいっと鈍い音を立てる。

 それが音楽は流れているけれど、静かな屋敷では随分大きく響いたらしかった。

 かたかたかたんっ、と何かが放り出されるような音がして、風を切るような音がする。

 何かに気づかれ、逃げられた気がしてフィーネは勢い良く扉を開いた。

 けれど中には楽器が転がるばかりで人影所か、幽霊の影すらない。

 それを見ながらフィーネは、

「……こんなに早く逃げられるわけないわよね」

 中の様子を見回して、呟く。

 がらんとした中の部屋には、中央に楽器だけが転がっており、横の階段は埃が厚く積もって足跡すらない。

 しかも割れているとはいえ、窓にはめられたガラスの隙間からは小さすぎて人は逃げられず、金具もさびて動かせそうにないほどである。

 ここに誰か、もしくは何かが居た。

 楽器を弾いていたのだからそれは確かだ。

 けれど現状では服数人ではない事は確かで……ここに白い少女の幽霊が入っていった。

 つまりここで弾いていたのは……。

「動かないでください!」

 そこでフィーネは背後から声をかけられた。

 振り返ろうとすると、再び動かないでください、ともう一度繰り返される。

 凛としたはっきりとした少女の声。

 しかもフィーネに何かを向けられている気配がある。

 とりあえずフィーネは見知らぬ彼女に問いかける。

「あの、私は何かしましたか?」

「ここで何をしていたのですか? 私は先ほど奇妙な霊の気配を感じてそれを追ってきたのですが、そこで貴方を見つけました」

「そ、そうなんですか」

「こんな授業中に、一介の生徒がこんな場所で奇妙な霊達と一緒にいる……おかしいと思うのは当然では?」

「えっと、今日は授業が実習で、天気も良いから友達と鬼ごっこをしていて、白い幽霊を見つけたので追いかけてきただけなんです」

「……その話を信じろとでも?」

「えっと……もしかして、私は疑われていますか?」

「この状況で、疑われないと?」

 そう告げたと同時に、ぎりっと紐が引っ張られる音がする。

 ついでに殺気も感じる。

 これはもしかしなくてもとても危険な状況なんじゃないかとフィーネは思いながら、とりあえず何を疑っていたのかを少女に問いかける。

「あの、私が何をしたと思っているのですか?」

「今は分りません。ですが、あの奇妙な霊と貴方……妙に精霊の懐いている貴方の組み合わせは、警戒するに足ります」

「? 精霊が懐いている?」

 何の事か分らず、フィーネが聞き返そうとするとそこで、

「フィーネに何をやっているんだ」

 怒った冷たいカイの声が聞こえた。

 同時に、風が揺らめくのを感じる。

 攻撃系の魔法の気配に、今私はどういう状況なのだろうとフィーネが思っていると、

「仲間もいたのですか、随分と用意周到ですね」

「何を言っているのか分らないが、一般の学生を弓で脅すのはおかしいだろう?」

「……二対一、しかも強い力を持っているようですから、ここは引いた方が良さそうですね」

「フィーネを脅かしておいて、ただで済むと思っているのか?」

「なるほど、こちらの方はフィーネさんとおっしゃるのですか」

 カイが舌打ちした。

 名前が敵に知られてしまった自分のうかつさを呪うように、けれどすぐにカイは、

「それで武器を下ろせ。でないとお前を力ずくで排除する」

 その声からもカイが無茶苦茶怒っているなとか、弓が向けられているとか、フィーネは色々な意味でいや汗がでてくる。

 そこで、イリア女史が走ってきた。

「スズネさん、突然走り出して……カイさんとフィーネさんもどうしたのですか? というか、何をやっているのですか、スズネさん!」

「……奇妙な霊を追いかけてきて、その先に彼女がいました。だから怪しいと……」

「奇妙な霊? 良く分りませんが、幽霊なんてそこら中にいます。そもそも幽霊なんて、恐れるには足りない存在です。この国は貴方の国ほど魔力が濃密ではないのですから」

「……分かりました」

 そう言われて、彼女は弓をおさめる。

 同時にカイも魔法をやめて、そしてフィーネに近づく。

「フィーネ、大丈夫か?」

「う、うん、幽霊を追いかけてきたら、なんだかこんな事に」

「幽霊? こんな時間に?」

「だから不思議に思って……」

「昼間も動ける幽霊であれば、それほど力を持った悪霊であり魔物です。人に害を成す前に退治しなければいけません」

 スズネと呼ばれた少女が告げる。

 そこで初めてフィーネは振り返り少女の顔を見た。

 黒い髪にピンク色の瞳の綺麗な容姿をしているが、無表情と雰囲気が硬質なのも相まって不安を掻き立てられる。

 そこでイリア女史が嘆息して、

「この国は貴方の国ほど魔力が多くないので、魔物も多くなく、平和なのです」

「……話には聞いていましたが……信じられません」

「とりあえずは、この状況に慣れてください。貴方はここに魔法を学びに留学してきた彼女達のクラスメイトなのですから」

 同じクラスと聞いて、フィーネはスズネを見たが、そこには特に感情は浮かんでいないようだった。


 そんなこんなで、次の日から正式に同じクラスにやってきたスズネだが、どうやら彼女は東の方の国出身であるらしく、しかも魔物を退治する“みこ”の家系らしい。

 しかもその容姿から、初日には男女共に注目の的で、話しかけていた。

 それによると、東の方にある彼女の出身国、ジパングは土地柄か魔力が強く、多くの強い精霊達が住んでいるらしい。

 どうも彼女にしてみれば、魔物もその精霊の一種に入るようだ。

 そしてその人に害をなす“悪”である精霊を退治するのが彼女達の一族だという。

 要するに魔物を狩る人なのかなと聞いていたが、幽霊も狩るらしい。

「幽霊は、確かにそれ単体では弱いですが、怨恨を残した幽霊が魔力を浴びて、人々を傷つける悪霊へとなるのです」

「ええー、幽霊なんてただ漂っているだけだろう?」

「そういった悪霊に、村一つ滅ぼされたという話もあります」

 淡々と答えるスズネに皆ぎょっとしたようだ。

 それを冗談と皆は受け取ったらしいが。

 そして気づけばそんなスズネの誰にも心を開かない態度に周りからは人は消えていく。

 けれどようやくフィーネは合点がいく。

 スズネがフィーネを警戒していた理由。

 彼女にとって幽霊は、恐るべき“敵”なのだ。

 それに、彼女の不器用さは、何処かカイに似ているなとフィーネは思う。

 とはいえあんな事があったばかりなので、フィーネからスズネに問いかける機会はしばらく無かったのだった。

 

 最近カイが妙にフィーネを特に気にしている。

「良いからこっち」

「うん、なんだか最近、カイは私を避けないね」

 食事の時に誘われてフィーネがそう問いかけると、カイは黙る。

 実の所、この前フィーネが弓矢を向けられていたのを見てカイは、フィーネに対して過保護になっていたのだ。

 けれど心配だからといえるほど素直でもないカイ。

 そもそもこの魔法学園に来て魔法を学んだのも、全部フィーネを守りたいからだった。

 けれどフィーネを心配させたくないので未だカイはあの出来事を心の奥深くに隠したままである。

 一方フィーネはフィーネで、一人でいるスズネを気にしていた。

 ここ数日彼女は気づかれていないと思っているようだが、フィーネの様子を観察している。

 疑われているなと思いながら、フィーネはいつものように、カイとナナとバードで今日はお昼を食べていた。

 今日も天気が良いので木陰でご飯を食べようという話になる。

 なので学園とクリアルの森とを区別する柵付近で今日は食べる。

 学園は都市の端に位置し、その敷地の一角は柵という結界で隔てられているが、クリアルの森は魔物もいる危険な森である。

 その傍にどうして魔法使いの学び舎があるかといえば、この学園を作った初代学園長である、その他の属性を持つ大魔法使いアリシアの案らしい。

 何を考えて作ったのか、天才の考えは今いちわからない、という事で今だに謎であるらしい。

「そういえば最近魔物の影を見た人がいるらしい」

 ポツリとカイが零した言葉に、フィーネは、

「そうなの? でも結界が破られたという話は聞かないよね」

「……強い魔物だとそもそも結界は意味がないから。とはいえここには魔法使いの先生達が沢山いるから、そんな強い魔物が入り込んでも大丈夫だけれど……見間違いだとしても気をつけておく方が良いだろう」

 と、カイは言うので、場所を変えたほうが良いかと問えば、自分がいるから大丈夫だと告げる。

 昔よりも随分自信がついたみたいだとフィーネは嬉しく思うと同時に、寂しく思う。

 カイが遠くに行ってしまいそうで。

 そう思いつつ歩いていくと、ご飯を食べるのに良さそうな場所がある。

 魔物のいるクリアルの森の傍だが、森が近い分涼しいのだ。

 しかも木漏れ日がきらきらとして美しく、ご飯を食べるには丁度良い。 

 と、いうわけでフィーネ達は木漏れ日の下でご飯を食べていたのだが、

「じゃーん、紫苺のムース」

 ナナが手作りお菓子を取り出した。

 彼女自身もお菓子を作るのが上手く、絶妙な甘さと香りに魅せられる、そんなお菓子を作るのだ。

「おいしそう……いただきまーす。うん、美味しい、さすがナナ!」

「フィーネちゃんはいつも美味しそうに食べるから、つくりがいがあるよ。ほら、バード君もカイ君も、食べて食べて!」

 ナナに急かされてバードが一口。

 食べた瞬間目を輝かせる。

「美味しい! 何だこれ、今まで食べた事がない!」

「本当! 嬉しいなー。カイ君はどう?」

「雪さくらんぼのお酒の香りが邪魔にならない程度にして、凄く美味しい」

「カイ君分かるの! そう、隠し味で香り付けに入れたの!」

 そんなはしゃぐナナに、カイは美味しかったよとにっこり笑う。

 その笑顔を見たフィーネは、昔は私にも仏頂面ばかりじゃなくて、あんな笑顔を見せていたのにともやもやする。

 と、そこでナナが、

「フィーネちゃん、機嫌が悪そうだけれどどうしたの? 美味しくなかった?」

「ん? 違う違う。ただカイが最近私に笑顔を見せてないなって。カイの笑顔が私、好きなのに」

「……教室に用を思い出したから、先に戻る」

 そうフィーネが言うと、突然、カイが立ち上がって教室に戻っていってしまう。

 フィーネは何か変なこと言ってしまっただろうかとしゅんと俯くも、ナナとバードはカイの耳が真っ赤になっているのに気づいていた。

 すれ違っているなと思いつつ、それも恋愛の醍醐味だとナナとバードはやさしく見守ることにしたのだった。

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