表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/5

始まりのお話

 フィーネ(16)は、茶色い髪に緑色の瞳をした、活発な少女である。

 それゆえに幼い頃から、外を走り回る事が好きで、木の棒で剣術の真似事をしたり、男の子に混じって遊んでいた。

 ついでに男の子に混じるだけならばまだしも、男の子達を従えて、ボスと呼ばれていた。

 とはいえ、それには理由があったりするのだが。

 そんな彼女は6歳の頃に剣術を習い始めその才能を開花させてきた。

 だが剣を巧みに扱うその様子に、将来は女剣士に……とは親は思っておらず、そろそろ大人しくおしとやかな女の子らしくならないと、嫁の行き手がないのではと不安にかられていた。

 そもそも親にしてみれば、幼馴染の特に仲の良い男友達――名前をカイという――の母親に、

「フィーネちゃん、剣に興味があるの?」

「ある!」

「だよね、男なんかに負けたくないよね!」

 という理由でそのフィーネの負けん気の強さが好かれて、教え込まれてしまったのだ。

 彼女の子供が体が弱いと同時にカイは大人しい息子であったため、自分の技がここで絶たれてしまうのかと嘆いていた所で、フィーネが現れたのだからし方がないのだが。

 とはいえ、フィーネの両親は勉強にも厳しかったので、フィーネは理数系の科目だけは出来た。

 但し文系科目はさっぱりだったが。

 物語を読むのは大好きなのになんでこうなのかしら、と悩みながらも、一つでも得意なものを持てば良いと両親がある種の諦めに似た気持ちを抱いていた。

 だがフィーネは勉強よりも、剣術の方が好きだったし、その方がカイを守れるからと理由で逃げ回っていたのだが、そんなある日。

「僕、寮のある、アリシア魔法学園に行くよ」

 そう告げて、カイは都市の魔法の学校に行ってしまったのである。

 もともと勉強もそんなに好きではなかったし、いつも弟のように後ろをついてきて守ってきていた男の子であるカイがそんな事を言うとは、フィーネは思ってもみなかった。

 幾らフィーネが止めてももう受かったし、決めたからといって話を聞いてくれない。

 それが二人が12歳の時。

 カイは元々頭が良くて勉強が出来たから、特待生でその学園に入ったらしい事もフィーネは聞いていた。

 そして休みになってもほとんど村に戻ってこなくて、戻ってきてもあまり話さないどころか、目もあわせてくれない。

 そんなカイは、村に来た時、様々な魔法を使ってみせる。

 揺らめく炎の魔法に、日の光にきらめく氷の魔法。

 その鮮やかさに、フィーネが凄いと褒めると、少しだけ嬉しそうに笑う。

 けれどすぐ二回はフィーネから目をそらしてしまうのだ。

 それがフィーネには気に入らない。

 昔は守ってあげる対象だったカイが遠くに行ってしまうようで気に入らない。

 しかも村に戻ってきてフィーネからは逃げるのに、他の男の子達と遊んでいれば建物の影からじっと見ているのだ。

 本人は気づかれていないと思っているだろうが、剣術を習う関係で人の視線や気配にフィーネは聡くなっていた。

 更に付け加えるなら、彼女のある力がそれを増幅させていたのだが。

 そしてそれに気づいたフィーネはいい加減頭にきて、カイを追いかけることに決めた。

 それも突然の事で驚くような形で。

 そしてフィーネは16歳になる頃、カイのいるアリシア魔法学園へとやってきたのだった。


 ぬくぬくとした布団がとても心地良い。

 カーテンからさし込む日の光がもう朝だというのを告げていて、うるさく鳴り響いてそこら中を駆け回る魔法時計を布団の中に入りながら巧みな仕草で捉えて消したばかりのフィーネは、このまままたぐっすりと寝たいなと思った。

 そんな幸せを感じながら、フィーネは布団の中でもごもごとしていると体が揺さぶられる。

「フィーネちゃん、朝だよー」

「後五分、お願い、ナナ」

「駄目だよ、この前もそう言って遅刻しそうになったじゃない」

「今日は大丈夫らよー、ぐー」

 そんなフィーネに困ったように溜息をつくナナ。

 ナナはフィーネと同じ部屋の子で、ピンク色の髪に、とろけるように美味しそうな飴色の瞳をした少女だ。

 そんな彼女の実家はお菓子関係のお店か何かをしているらしく、フィーネも時々お菓子を貰っていた。

 性格も温厚で、賢く、けれど不思議とフィーネと気があった。

 そんな気の置けない彼女だからこそ、フィーネはお願いしてしまう。

 そして温かいぬくもりに引き込まれるように深い眠りへと誘われるフィーネだったが、そこで、バシッと勢い良くドアを開かれる音がした。

 ここの寮長のミアだ。

 金髪に青い瞳をした、態度が偉そうに見える寮長で、こうしてフィーネをたたき起こしに来る程度に面倒見が良かった。

 けれどそんな所は面倒見がよく無くても良いのになと、フィーネには思いつつ布団にもぐりこむ。

 そんなミアは、おろおろするナナを尻目にフィーネのベットの前にやってくると、

「フィーネさん! 起きてくださいませ!」

「……フィーネはここにいませんです」

「自分でいないと言ってどうするのですか! ほら、早く起きて!」

「にゃーん」

「にゃーん、じゃありません! まったく、カイ様の幼馴染がこんなでどうなるのですか!」

「にゃーん……」

 と、小さくフィーネは鳴いてみた。

 このミアは、カイの親衛隊という名の追っかけらしい。

 というか、カイを憧れて崇拝しているようなのである。

 カイはこの学園でも、百年に一人の天才と呼ばれているらしい。

 魔法の知識、応用力、魔力、それに関して類まれな力を発揮しているらしい。

 ついでにその見た目の容姿の美しさから、“氷の妖精”と呼ばれているそうだ。

 聞いた瞬間フィーネは噴出すかと思ったが。

 とはいえ、カイがそんな風になって憧れる人が多いというのも、この学園に来てフィーネが驚いた事の一つだった。

 昔はフィーネが守ってあげていた、“弟”のようなものだったのに。

 そう思うとお気に入りを取られたような気がして、フィーネはむかむかする。

 さて、話を戻すが、そんなわけでカイの信望者であるミアは、フィーネにもそれと同等のものを求めてくるのだが、無理なものは無理だ。

 なのでフィーネは再び眠る事にした。

 朝の二度寝の幸福感を味わおうとした所で、フィーネは布団をめくられた。

 そしてむっとしながら見上げると、ミアが冷たい声音で告げる。

「起きなさいませ」

「はい」

 ミアの声と表情があまりにも怖かったため、フィーネは渋々とベットから起き上がったのだった。


 さて、ミアは自分の取り巻きを連れてさっさと朝食を食べに行ってしまう。

 そしてフィーネはもそもそと服を着替えて、歯を磨いて髪を整える。

 けれどまだ眠気がして、何度もあくびをしながらどうにか着替えて、ナナと一緒に寮の食堂に向かう。

 食堂は男女共同で、時間が時間なた目大いに賑わっていた。

 A、B、Cの三種類から選べる朝食の中で、フィーネは、パンに野菜サラダ、焼き魚、野菜スープに牛乳のC朝食を、ナナは、野菜サラダとマルマル鳥の照り焼きサンドイッチにスープ、オレンジジュースのB朝食を選択する。

 そこで何処か空いている席はないかとフィーネは探していると、丁度窓際の席が空いているのが見えた。

 しかもそのすぐ傍に座っていたのが、銀髪に青い瞳のカイと、金髪に緑色の瞳のバードがいた。

 なので、フィーネとナナはそちらに向かって走っていき、フィーネは声をかける。

「カイ、バード、おはよう!」

「……おはよう」

「フィーネちゃん、ナナちゃん、おはよう!」

 少し黙ってから小さくおはようとカイがいい、その親友で同室者のバードは元気良くフィーネとナナの名前を呼んだ。

 一見対照的な二人だが、意外にも気があっているらしい。

 そんな仲の良い親友は村にはいなかったので良かったとフィーネは思う。

「所で、隣りが空いているから私達が座って良いかしら」

「どうぞどうぞ、可愛い子二人が一緒なんて、朝からついているよ」

「……バード」

「はいはい、大丈夫ですって、にまにま」

 何故かバードが楽しそうに笑っていたが、フィーネには良く分らなかった。

 それは良いとして、フィーネはカイの隣に座って、ナナがバードの隣に座る。

 そこでフィーネは気づいた。

「カイ、私と同じC朝食なんだ。でもなんでオレンジジュースじゃないの? 牛乳元々あんまり好きじゃなかったよね?」

「……今は好きなんだ。それよりも、何でフィーネも牛乳なんだ」

「だって、カイよりも背が高くなりたいし」

 カイが沈黙した。

 そして少し何かを考えてから、

「フィーネは背よりも別の部分を気にしたほうが良いと思う」

「? 何……」

 そこでカイの視線が何処に向かっているのかに気づいた。

 気づいて、ぷうっとフィーネは頬を膨らませて、

「うるさいな、その内大きくなるもん。そもそもカイだって何で私と同じくらいの背丈なのよ。昔は私の方が背が高かったのに」

「……追い越せたと思ったのに」

「残念でした。でもまた抜いてやるんだから! あ、それ私の牛乳!」

 そこでカイはフィーネの牛乳を飲んでしまった。

 ついでに自分の牛乳をカイは飲み干して、ふうと大きく嘆息して、

「フィーネはこのままチビでいれば良いんだ」

「ほう……よくもそんな事を私にいえるわね。いいもん、必ず追い越してやる!」

 そう言い返してフィーネは食事に口をつける。

 絶対カイよりも背が高くなってやると思いながら。

 そんなカイとフィーネの二人に、一部始終を見ていたバードとナナは、カイも素直じゃないなと思ったのだった。


 そして授業が始まる。

 四人とも同じクラスで授業を受けている。

 そしてフィーネはあまり魔法と縁が無かったために、眉を寄せながら教科書と格闘している。

 黒板に白いチョークで女の教師、イリア女史が図を書いて説明している。

「えー、魔法には七つの属性があります。光、闇、火、水、土、風、その他です」

 その他って属性ではないんじゃないかと思いつつ、教科書をフィーネは見る。

 光属性は、主に治療や修復に関する、世界をあるべき形に戻す魔法。

 闇属性は、幽霊や魔物を生まれさせたり、世界を異なるものへと変化させる魔法。

 但し闇属性に関しての注釈を見ると、

「この変化させる性質を使用して、魔道具は作られますので、一方的に恐ろしい属性ではありません」

 と、書かれている。

 ついで、どの属性も良い面と悪い面があり、その魔法を扱う者によっても変わるような事が書かれている。

 そのために学ぶのが、“魔法倫理学”という学問である。

 魔法その物が体系化して、より巨大な力を持つようになった現代社会だからこそ、使う魔法使い達の道徳が重要という事らしい。

 フィーネにしてみれば、特に眠くなる授業で何度もナナにこずかれて起こされていた。

――あのミシル先生の話し方がなんだか眠くなるのよね……子守唄みたいで。

 ぼんやりと白髪交じりの頭をした、年配の先生を思い出して、でも続き続きとフィーネは教科書を読む。

 火属性は、主に火、熱(加熱)を操る魔法。

 水属性は、主に水、熱(冷却)を操る魔法。

 土属性は、主に大地、植物(成長も含む)を操る魔法。

 風属性は、主に風を操る魔法。

 見れば大体分る大まかなわけ方。

 けれど使ってみて分るのだが、結局、属性の魔法といっても他の属性の影響を受けて発動するので、学問の形式的に分けているだけに過ぎない。

 実際に誰もが多かれ少なかれこの六つを持っているものだ。

 その中で特に強いものが、その子にとって伸ばすのが良いだろうという属性である。

 ちなみに、フィーネの潜在的に多い属性は火らしい。

 カイ曰く、フィーネらしいそうだ。

 ちなみにカイは、水が全体としては強いが、潜在的な属性がどの属性もずば抜けて多いらしい。

 とはいえ、火の属性だけは、フィーネの方が多いので、火に関する魔法だけはフィーネは特に力を入れていた。

 これで六つの属性を見たから良いだろうと思いつつ、一応その他の属性を見る。

 その他属性は、歴史上に名を残すような魔法使い達が使う、天賦の才である。

 上記の六つの属性以外の力を指す。

 例えば、大魔法使いリトルの怒りを買って、時の止まった古代都市ミーシャ。

 現在ここは観光地になっており、未だ時を止めたままの人の生活が見る事が出来るという。

 他にも、伝説の古代魔法使いウィードによって作られた、悪魔の住まう迷宮キオル。その迷宮に入ったものは二度と元の時代に戻れないらしい。

 運よく外に出ることができたとしても、そこは人の姿すらない過去か、気の遠くなるほどの未来か、である。

 ちなみに何故それが分っているかといえば、文献により過去へ戻った人間がその迷宮に訪れたと記されているからであり、また、未来にやってきた者達は現在国を挙げて保護しているのも理由である。

 彼らから得られる過去の生活、歴史、失われた知識……それが貴重だからである。

 時間関係のものが多いように今の例を出すと見えるし、光と闇属性を使えば出来そうに見えるが、実の所現在の魔法はその他ほど強大な力を秘めていないので不可能である。

 それがその他と普通の属性の魔法の違いでもある。

 他に、この世界の全てを従え操る、神の様な魔法使いや、音楽に関する魔法使いもいるらしい。

 とはいえそんな魔法使いはその時代に一人生まれれば良いほうなので、特に考えないでその六属性を中心に勉強をしていく。

 けれど眠い。

 特にこの朝ごはんを食べたこの時間は特に眠い。

 そう睡魔と戦いつつ頑張っていると、授業の終わりの鐘が響いたのだった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ