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ヴぁんぷちゃんとゾンビくん  作者: 空伏空人
そのいち ヴぁんぷとゾンビの恋愛関係
9/70

ヴぁんぷちゃんは遊びに行く事にした

「いやあ、それにしても驚いたなあ」

 草木も眠る丑三つ時。

 しかし今日はサイレンや野次馬の声で少し騒がしく、草木も眠れなさそうで、なんなら夜空に浮かぶ月もうるさそうに、その姿を雲で隠している。


 そんな薄暗い夜道を、少しホコリを被っているルーミアとゾンビは、周りの人の流れに逆らうように歩いている。

 ――あなたでも驚くことがあるのね。

 そんな事を思いながら、ルーミアは自分の後ろをついてくるように歩いてくるゾンビに、振り返らずに尋ねる。


「なにに?」


「ルーミアさんが襲われていた事」


「それだけ?」

 ルーミアは不思議そうに首を傾げる。


「私たち奇っ怪なものは、存在を知られたらああいった退魔師に狙われるのが当たり前でしょう?」


「僕は狙われた事ないから」


「でしょうね」

 ルーミアは呆れたように呟く。

 行動的ゾンビである彼は、例えばルーミアの魅了(チャーム)のように、意識(クオリア)に直接関与するようなスキルがない限り、ぱっと見、ただ血色の悪い青年にしか

見えない。

 それは喉が渇いていて集中力に欠いていたとはいえ、ルーミアが噛みついてしまった程で……。


「〜〜っ!」

 にがーい、自らの汚点思いだしてしまったルーミアは、体をぷるぷる震わせて、唇を噛みながら振り向いて、ゾンビを少し涙ぐんだ目で睨んだ。

 ゾンビは首を傾げる。そしてどうやら『さっき襲われたのが怖かったから』だと勘違いしたようで。


「まあ、あんな大きな化物に襲われたら誰だって恐いよね」


「恐くなかったわよ」

 なんて言い返すと、なんだか言い訳に聞こえるような気がして、ルーミアは不機嫌そうに鼻を鳴らして、再び前を向いた。

 なんだか『恐かった』のを認めているようにみえるような気もしたけど。

 そしてゾンビも、そういう風に察したようで。

「じゃあ僕の家に泊まっていく?」

 と提案してきた。

 もちろん、それを聞き逃すほどルーミアも抜けていない。歩いていた足をピタリと止めて、筆舌に尽くし難い表情で振り返る。


「はあ?」

 意味が分からない。という節を一言で伝えるも、ゾンビは意見を変えようともしない。


「だからあれに襲われるのが恐いのなら、僕の家に隠れる?」


「……誰が」

 恐がりよ。と、思わず激昂しかけたルーミアだったが、しかし落ち着いて考えてみるとそれは名案とまではいかないものの、妙案ではあった。

 今回敵は、救援(ゾンビ)が来たことで引き返してくれたものの、あのまま勝負を続けていたら負けはせずとも勝てもしなかっただろう。

 無論、全力を出せばあんな相手一捻りなのだが、あの姿はあまり好きじゃないし――むしろ嫌いだから使いたくない。

 それに、最近血液の補給がまちまち過ぎて、あの姿になるには少し量が足りない。

 端的に言うと、喉が乾いていて力が出ない。という事だ。


 敵はおそらく、ルーミアの個人情報は調べているだろう。

 まさか偶然出会して「あれ吸血鬼じゃね?」と、人払いをしてまで攻撃をしてきた。なんて事はないはずだ。というか、あって欲しくない。


 夜、ルーミアがあそこにいる事をきちんと調べた上で、あの退魔師は姿を現したのだろう。

 だとすると、彼らはルーミアの住処を知っている可能性もある。

 あのボロアパートのことだ。あのゴーレムの拳一つで軽く倒壊してしまうだろう。四方がマンションに囲まれ、日照権などないに等しい場所とはいえ、真っ昼間――つまりあの忌々しい太陽が頭上にある時に襲われてしまえば、彼女は一瞬にして灰燼(かいじん)に帰してしまうだろう。

 それだけは勘弁してほしい。それだけは避けて通りたい。

 しかし、相手が襲ってきてもすぐ対応できるようにずっと起きているというのもキツいものがある。ただでさえ最近、昼夜問わず起き続けていて睡眠不足だというのに。

 それにあのボロアパートを守りながら戦うというのはさすがに無茶な話だ。

 つまり、今は正に最悪のコンディションというやつだ。

 そう考えると、ゾンビの提案を受け入れるのもいいかもしれない。

 さすがの退魔師もゾンビの存在は知らないだろうし、普通の人間も住んでいるあのアパートならば、ゴーレムもそうそう破壊できまい。

 なるほど、確かに妙案だ。

 しかも私生活が殆ど謎のゾンビの部屋に入れるまたとないチャンスだ。ここで何か弱みを握る事が出来れば、この立場も逆転できるかもしれない。


「……あ、はは、ははは、はははは、ははははは」


「あの、ルーミアさん?」

 うつむき加減で口元を歪めて、なにやら画策していそうなのが丸わかりな笑みを浮かべているルーミアに、ゾンビは肩に手をあてて話しかけようとしたのだが、それよりもはやくルーミアは振り返って、ゾンビの顔を指さした。

 なんだかとっても楽しそうに。

 ほんのちょっぴり偉そうに。

「いいわ、その提案を受けてあげる。さっさとあなたの家に案内しなさい」


***


 結論から言うと。

 知識があっても知恵がなければ意味がないという典型的な例であるルーミアが浅はかに考えた知略は、思惑は、策略は、ものの見事に、速攻で未遂に終了してしまう。

 何一つ目的を果たすこともままならず。

 何一つ目標を達成することも出来ずに。

 なんなら、ゾンビの家に一歩として入ることなく――きちんと招かれて、入ることが出来るのに、彼女は惨めにも、逃走するのだった。

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