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ヴぁんぷちゃんとゾンビくん  作者: 空伏空人
そのさん わんこと三つ編みの初恋関係
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ヴぁんぷちゃんは答える

「ねえ、青春ごっこはよそでやってくれない?」

 と。

 二人の間に不意に現れた銀髪の少女に、狛谷とロッヅは、驚きの声をあげて、よろめいてひっくり返った。


「お、お前! 急に現れるなよ。ビックリするだろ!」

「なによ。私が寝ていたキャラバンに勝手に入ってきたのは、あなたたちでしょう? 寝ている人がいるというのに、大声で話して」

「ああ、つまり、きみが例の吸血鬼か!」

 ひょい。と倒れていた体を持ち上げた狛谷は、目の前にいる銀髪の少女――ルーミアの顔を見ようとしたが、しかし、ルーミアは顔をそむけていた。

 狛谷は口を尖らせる。


「なんだ。なんだなんだい。人と話すときは目と目を合わせてって親に習わなかったのかい? せっかくお話しようと思ったのに。好感度よくないよ?」

「親の顔なんて、もう覚えてないわ。それより、吸血鬼と話すときは目と目を合わさないって親に習わなかったの? 親が陰陽師なのに」

「悪いね。私、親に妖怪関係の話は禁止されてたんだ。過保護なんだよ」

「ふうん。そう。ねえ、私の眼は何色?」

「見てないのに分かるわけないじゃん」

「なら、そのままでいいわ。私の眼を見たら、あなた死ぬから」

「こわっ!?」

「吸血鬼の眼は、人を操ることができるんだよ」

 こそこそと、ルーミアの顔を見ないようにしながら、狛谷の元に近づいてきたロッヅが、耳打ちをする。

 狛谷は「へえ」と頷く。


「そういえば、不楽? だっけ。あの不健康そうな顔の、ゾンビだっていう。主従関係だって聞いたけど、じゃあ、彼は、その眼に操られてるってこと?」

「操ってない。操れない。彼にはこの眼が効かない。不楽は『特別』なの」

「それって、効かないことが特別ってこと? それとも、『彼』があなたにとって特別だってこと?」

「……どっちでもいいでしょ、そんなこと」

 ルーミアはそっぽを向きながら、投げ捨てるように言う。

 ただ、その耳は真っ赤になっていた。

 狛谷はニヤニヤと笑う。


「なるほど。目を合わせない会話というのもいいかも。表情が見えない分、想像できて楽しいし」

「私がここから出た方がいいかしら、これ」

 ばっとルーミアは立ち上がって、ドアの方へ向かった。

 しまった。怒らせてしまったか。

 狛谷は慌てて弁明しようとしたが、目の前に現れた黒い影のせいで、口を動かすのを止めてしまった。

 それは、コウモリだった。

 薄い皮膜の翼をはためかせながら、狛谷の眼前を飛んでいる。

 ロッヅの方を見てみると、彼の目の前にも同じようにコウモリがいた。

 ただ、ロッヅの方は飛んでおらず、彼の鼻の先に足をかけて眠っていた。どうやら害意はないようだ。小馬鹿にはしているようだけど。


「あげるわ」

 ドアの前で立ち止まっていたルーミアが言う。

「それは私の体の一部。吸血鬼は体を、コウモリに変えることができる。そいつに手紙を渡したら、どんなところでもすぐに相手の方へ送ってくれるわ。ああ、でも、昼間に外に出したりしないでね。私の体だから、痛いのよ」

 狛谷とロッヅは顔を見合わせると、おかしそうに笑った。


「なにがおかしいのよ」

「いや、今どき文通を勧められるとは思ってなくて、電話番号とかメールアドレスとかを交換するならまだしも」

「……………………悪かったわね。そういうこと、私、あんまりしたことがないのよ」

「ああ、ごめん。ごめんなさい」

 笑いながら謝って、狛谷はルーミアの背中を見た。


「ありがとうございます。吸血鬼さん。コウモリ、大切にします。ああ、あと。ケガも治してくれて、ありがとうございました」

「別にいいわよ。気にしなくて。なんとなく、気分で、私の勝手で、治しただけなんだから」

「ところで」

「なに?」

「あなたの名前は、なんですか?」

「…………」

 そういえば。

 名乗ってなかったし、なんなら、話したのも、これが初めてだった。


***


 バタン。と後ろ手でドアを閉じたルーミアは、背中をドアに預けるようにしながら、日傘の調子を確かめた。

 まだ太陽は昇っている。日傘は手放せない。

 キャラバンの中からは二人の笑い声が聞こえてくる。

 紆余曲折あったけれども、しっちゃかめっちゃかだったけれども、長々と語りすぎてしまったかもしれないけど。

 まあ、ハッピーエンドというやつだろう。

 エンドマーク。

 ルーミアがここを離れて、映像は次第に暗くなり、エンドロールが流れる。

 ここから先をするとしたら、それは、蛇足というやつだ。

 くぁ。とルーミアは大きくあくびをした。

 最近、というか、もう殆ど毎回、ちゃんと眠っていないんだ。そろそろしっかりと眠りたい。


 ――もう一つのキャラバンの方で、眠りましょう。

 あっちの方にも、ルーミア専用の布団がある。

 そうしようそうしよう、と。ドアに預けていた背中を持ち上げて、もう一つのキャラバンの方へ向かおうと目を向けると――不楽がいた。

 長身痩躯。針金細工みたいな細い手足。白髪交じりの黒髪。目の下には濃いクマ。なんにも思ってなさそうな、灰色の目。

 その目には、ルーミアの姿が映っている。

 映ってはいる。

 いるけれども。

 彼は、自分を見ているのだろうか。

 たまに、不安になる。


「ねえ、ルーミアさん」

 両腕をだらりと下げた、だらしない体勢のまま、不楽はルーミアを見る。

 ルーミアの顔を。ルーミアの眼を、じっと見ている。


「僕は、特別?」

「…………」

 こいつ。どこから話を聞いていたのだろうか。

 じっと見てくる不楽に、きっと睨み返したルーミアは、暫くして、呆れたようにため息をついた。

 まったくこいつは。こいつはいつもそうだ。

 話の筋道なんてどうでも良くて。物語の流れなんてなんでも良くて、ストーリーのテーマなんて、なんだって良いのだ。

 自分の答えだけ分かればいい。

 そんなやつだ。

 そんなやつだから、いいんだ。

 ルーミアは不楽に近寄る。正面から向き合って、しかし、顔は見せないように(・・・・・・・)、日傘で隠しながら、小さく呟いた。


「あなたは特別よ。私にとって。当然でしょう?」




 わんこと三つ編みの初恋関係――成就

 ヴぁんぷとゾンビの恋愛関係――進展?

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