わんこは顔を赤くする。
ロッヅ・セルストは狼男である。
その気になれば、まん丸で黄色いもので狼の姿に変わることもできるけれど、今は普通の少年の姿である。
背丈は低く、茶色い髪を残切り頭にしていて、常に緩んだその表情は見る人によっては愛おしいと感じるかもしれない。
確かにそれだけでも十分人目は集めそうだけれども、奇人変人異形異常の集まり、フリークショー『クンストカメラ』のチラシを配っている今、その姿はいまいちインパクトに欠けていた。
まあ、そんなことを気にしないし気づけないのがロッヅ・セルストなんだけれども。
「クントスメカ! クントスメカ! 楽しいショーを見せてやるからみんな来てくれよなー!」
フリークショーの名前を若干間違えながら(団員なのに)ロッヅは腕の中にある大量のチラシを配っている。
しかしどうやら、あまり受け取ってもらえていないようで、その腕の中にあるチラシはあまり減っていないように見えた。
「……捨てたらダメかな」
ダメなことを考えていた。
無論、そんな考えは一番最後の最終手段であり、ロッヅは配る場所を変えてみることにした。
そこで。
ロッヅは歩いていた人の足におのれの足をひっかけて、腕に抱えていたチラシを放り捨てながら、思いっきりこけてしまった。
チラシがひらひらと辺りに舞い、アスファルトに額からぶつかったロッヅの目は涙に濡れる。
「ち、チラシ!」
「大丈夫?」
慌ててチラシを集めようとするロッヅの前に、誰かが膝を曲げてしゃがみこんだ。
ロッヅと同い年ぐらいの少女である。
黒色の髪を二本のおさげにまとめていて、大人しげな雰囲気がある。
彼女は散らばっているチラシを見ると、それをせっせと集めてロッヅの前に差しだした。
「はい、災難だったね」
「え、あ、ありがと……」
しどろもどろになりながら、ロッヅはお礼を言いながらそれを受け取る。
少女はニコリと笑う。
ロッヅの顔は少し火照って、心臓はどきりとはねる。
「お仕事してるの?」
「う、うん。チラシ配り……」
「大変だね」
「これ全部配らないといけないんだ。お前はいつもサボるから罰だって言うんだぜ、ひどいよなー」
「サボるほうが悪いよ」
クスクスと少女は笑う。
「じゃあ一枚、ちょうだい」
少女は手を伸ばし、ロッヅはその手にチラシを渡した。
「へえ、クンストカメラ……サーカスなんだね。あれ、開演時間が遅いけど」
「夜しかやらないんだ。ふいんきづくりが大事だって団長は言ってたな」
「なるほどなるほどー。うん、暇があったらいくね」
少女は折り曲げていた足をまっすぐ伸ばして、スカートについていた砂を払う。
「そういえば、名前なんて言うの?」
「お、俺はロッヅ・セルスト」
「ロッヅくんか。私の名前は狛谷柴。それじゃ、また今度ね!」
大きく腕を振りながら去っていく彼女を目で追いながら、ロッヅは今更ながら、自分の顔が火照っていることに気づいた。




