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ヴぁんぷちゃんとゾンビくん  作者: 空伏空人
そのに 見世物小屋の家族関係
36/70

ヴぁんぷちゃんは正直じゃない。

 首元に牙を突きたてる。

 柔らかな少女の肌は、鋭い牙を受け入れ、牙は首筋を通る血管を貫いた。

 牙の周りから赤い血が漏れ、滴り落ちる。

 少女の体はビクリと震え、恍惚とした表情から、濡れた吐息をもらす。

 牙の周りから漏れる血を、舌で拭うように舐めとり、ノドに流しこむ。ノドが動く度に、少女の体は震え、次第に力が抜けていき、腕は垂れた。


「ごちそうさま」

 口元についた血を、人差し指の腹で拭いながら、ルーミアは呟いた。

 ひざをついて、跪くようにしていた少女は、力なくぐらりと倒れる。

 もう二度と、起き上がることはないだろう。


 言わずもがな、その少女は件の暴動のリーダー格とみられる少女である。


「不楽、それ食べて」

「了解」

 近くにいた不楽は、倒れている少女に噛みついた。


 ――しかし、どうするべきなのかしら?

 暴動がおきてから、一日が経過した。

 街にでたルーミアは魅了(チャーム)にかかっている少女に、今の街の状態を尋ねていた。

 少女曰く、次暴動をおこす予定はないそうだ。

 どうやら事件は昨日の夜にもあり、奇しくも暴動に参加した人たちの目が、クンストカメラの無実を証明したようだった。

 なのだが、未だ街の住人の中では『クンストカメラ』が怪しい、という認識は拭えておらず、アリバイがある昨日も、どうにかして人を襲ったに違いない。そう考えているようだった。

 そう、例えば現在家出中のエマ・サヘル――とか。


 どうやら昨日の事件の目撃者が、その付近で彼女を目撃したらしい。

 彼女はルーミアや不楽と違い、人を襲わないタイプの『奇っ怪なるもの』である。

 しかし残念なことに、人々の思考では『個々と集団』は同一視されるものである。

 まあつまり、彼女は現在、謂れのない免罪を被っていることになる。


「おい、あっちで死体が見つかったってよ」

「くそっ、またか!」

 ルーミアたちがいる所から少し離れた場所が、にわかに騒がしくなってきた。

 どうやらまた、被害者が見つかったらしい。


「死体を毎回残してるけど、犯人は知性の低いタイプなのかな」

「さあ、どうかしら」

 食べ終え、何気なく呟いた不楽の問いに、ルーミアは返す。


「欲望そのままに行動するタイプなら、その姿が目撃されていてもおかしくないし、もっと派手に動いて、別の意味で大騒ぎになってるはすよ」

 それこそパニック映画みたいにね。と、ルーミアは言う。

 その映画でよくうごめいているゾンビである不楽は、首を傾げる。


「ルーミアさん。映画なんてみるんだ」

「人並みにね。どれだけ貧乏だと思ってるのよ」

「でもあのボロ屋」

「日本は別!」

 思わず叫び返してしまった。

 ルーミアは唇をかみしめながら「むー」と唸る。


「いいわ」

 そしてポツリと呟くと、不楽の顔を指さした。

「いつかあなたには、私の本当のすみか。山奥の古城を見せてあげる。楽しみにしてなさい!」


「うん、楽しみにしてるね」

 対して不楽は簡素に返す。

 不楽に対しての文句はやはり、一人相撲をしている感覚に陥ってしまう。

 だからルーミアは少し不完全燃焼気味に、話を区切る。


「それで相手の目的だけど――この状態が目的なんだと思う」

「この状態?」

「今この街はかなりの混乱状態に陥っている」

 迷っている。乱れている。おかしくなっている。

 連続食人殺人事件という、意味の分からなくて、理由も定かではなく、次の被害者に誰でもなりうる問題が街を覆っている今、力ない彼らは怯えることしか出来ない。

 恐れて、怖れて、恐怖して、ピリピリしている。

 向けようのないマイナスの感情をどうにかして、何かに向けようと躍起になっている。

 向けて、自衛ができていると勘違いして安心しようとしている。

 もちろん、それが勘違いであることを彼らも自認しているだろう。

 ゆえに今のような暴動が巻き起こっているのだ。


 敵。敵。敵。敵。

 見つけ次第、殺せ。殺せ。殺せ。

 理由も聞くな。

 弁明も聞くな。

 とにかく、殺せ。殺せ。殺せ。

 安穏を取り戻すために。

 平穏を取り戻すために。


「まったく、いつの時代よって感じね」

 呆れたようにルーミアは息を吐く。

「このままだとこの街は自壊する。自分たちで、自分たちの平穏を殺す。この状態をつくりだした犯人は、きっとそれが目的なのでしょうね」

 無論、人食いには別の目的があるのかもしれないのだけれど。

 確かに同種同族の食い散らかされた死体というのは、充分恐怖と憎悪と混乱を招けるだろうけれど、仮にそれが目的だとするならば、別に惨殺死体でも構わないはずだ。

 それなのに、わざわざ食っている。捕食をしている。

 ならばそこに理由を求めるのは、なんらおかしくはないだろう。


「ふうん」

 と、不楽は曖昧に頷いた。

 疑心暗鬼とか恨み辛みからある意味もっとも離れた存在である彼からしてみれば、今の状態の理由が今一理解できていないのだろう。


「恐怖に陥れて、一体何がしたいんだろうね」

「さあ、奇っ怪なるものにも色々いるから。驚かせるのが目的なだけのものもいるし」

「あらあら、二人揃って、こーんな人気のない場所に隠れてさ。一体何をやってるのかなー?」

「……彼女みたいに注目を集めたいだけのものもいるしね」

「たった二人から見つめられてもさ、ちょっと気持ちいいだけだねえー」

 いつの間にやら、二人の隣にカラ・バークリーがいた。

 自身の首を腰の辺りで両手で持ち、話している二人をニヤニヤと見ている。

 なんだか下世話な感じだ。


「……なにか用?」

「いやいや、サヘルを探していたらさ。ここでひそひそ話している二人の姿を見つけてさ。気になって話してみたというね」

「そう」

 ならば、食事は見られていないか。

 安心した。


「それでさ、二人ともサヘルを見なかった?」

 それは、サヘルが疑われているということを知ってから、フリークショーを休業してまで、クンストカメラの面々が行っていることだった。


「いえ、見てないわね」

「僕も」

「そっか……二人だけの空間の邪魔しちゃって悪かったねー」

 少し残念そうに言って(そして少しだけ茶々をいれて)カラは、その場を後にしようとした。


「……ねえ、ちょっと」

 その背中に、ルーミアは声をかける。

 振り返ったカラに、ルーミアは後ろにいる不楽を親指で指しながら、提案を口にする。


「もし目が足りないというのなら、不楽をかすけど」


「いいの?」


「ええ、別に四六時中一緒にいなくちゃいけない訳じゃあないし。ね、不楽」


「僕は別に構わないけど」

 と、不楽は一度断りをいれてから。


「でも目を増やすのならルーミアさんも一緒に探したほうが効率的じゃあ」


「私、あいつ、嫌い」

 あっさり言った。

 スゴく嫌そうな顔で言った。

 かなり感情的な理由だった。

 ルーミアは口に手を添えて小さくあくびをする。


「それに最近、重苦しい雰囲気のせいであまり眠れていなかったし。今ならゆっくり眠れそうだから、キャラバンに戻るわ」


「食べたばかりで寝ると太るよ」


「うるさい」

 不楽の空気の読めない忠告に不機嫌そうに返したルーミアは、ひらひらと手を振りながらさっさとその場をあとにした。


***


 そしてその後。

 そこら辺をうろちょろしているルーミアの姿を、クンストカメラの面々ほぼ全員が目撃しているのは、まあ、お約束ではあった。

どうも。

拙作、ヴぁんぷちゃんとゾンビくんを読んでいただきありがとうございます。

この度、『ヴぁんぷちゃんとゾンビくん』は新人賞に応募するため、10月25日をもって、一時非公開とさせていただきます。

その状態でも更新はしますので、ブックマークをしている方は問題ないとは思われますが、それでも一応『そのニ』のみを掲載しているバージョンもありますので、読めなくなっている場合はそちらから読んでいただければなと思います。

これからもヴぁんぷちゃんとゾンビくんをよろしくお願いします。

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