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ヴぁんぷちゃんとゾンビくん  作者: 空伏空人
そのに 見世物小屋の家族関係
30/70

ラミアちゃんは見られなくない。

 焼きそばを食べ終えたルーミアは、クロクがやっている焼きそばの屋台を後にして、途中で見つけた旭と偉がやっている屋台で綿飴を貰った。

 手の数が二倍だからといって、二倍のスピードでやれる。という訳ではなかった。

 そして不楽のいるところに戻ってみると、彼はまだ、疲れも見せずに緩急をつけながらキャラバンのお手玉を続けていた。

 さすがにそれだけしかやらないからか、いい加減に飽きられ、集まっていた人はもういなくなっていた。

「あ、お帰りルーミアさん」

「あなたにはサーカスで働くのは無理そうね」

「そうみたいだね」

 くすり、とルーミアが笑いながら言うと、不楽は辺りの閑散としている風景を一瞥してからあっさり答えた。

「ほら、これからフリークショーを見て回るからついてきなさい」

「了解」

 そう言うと。

 不楽はキャラバンを回す手をあっさりと止めた。

 回されていたキャラバンはまだ空中にある。

 しかし不楽はもうお手玉をやめている。

 結果。

 空中に浮かんでいるキャラバンは重力に従って自由落下をはじめ、地面に激突した。


「それじゃあ行こうか、ルーミアさん」

 不楽の後ろでぶっ壊れているキャラバンを見て、ルーミアは頭を抱えてうずくまった。


***


 フリークショー。

 名前は『クンストカメラ』というらしい。

 サーカスを銘打っているのだから、てっきりルーミアは真ん中にある大きなテントの中で演目を披露するのかと思っていたのだけれど、不楽やカラ・バークリーの例から見るように、テントの周りのあちこちで団員たちは芸を披露していた。

 路上芸というか、猿回しみたいな感じだ。

 手長足長のくっそたかいたかーい。

 オオカミ少年、ロッヅ・セルストで遊ぼう。

 デュラハン、カラ・バークリーの生首お手玉(たまに観客に投げる)。

 人魚姫の歌唱ショー。

 カーバンクルの宝石鑑定。

 奇形人外各々が己の持つ特異性と個性を存分に使って、芸を普通で普遍な大多数に披露している。

 そんな中。

「彼女、ショーの最中でも毛布を脱がないんだね」

「彼女が避けたいものが溢れかえっている場所だし、当然といえば当然じゃあないかしら」

 フリークショーを見て回って普通に楽しんでいた二人は、見知った顔に出くわした。

 いや、顔というよりは毛布――だが。

 屋台が立ち並ぶ場所に、毛布を身にまとう少女、エマ・サヘルは立っていた。

 サヘルは毛布の間から縦笛を吹いている。

 その音色にあわせて大蛇であるニナが、彼女の前でうねうねと踊っていた。

 言ってしまえばただの蛇操りであり、フリークショーという場所では一見して地味に見えるけれど、毛布で全身を隠しているその姿は、人間の好奇心をくすぐるには充分なようで、ある程度の客を集めていた。

「人目を気にした結果人目を引いているなんて、変な話ね」

 キャラバンの一件で若干の確執があるルーミアは、彼女の近くに行こうとはせず、少し離れた場所からサヘルの芸を眺める。


 ――私とニナは一心同体だからいいの。

 なんて彼女は言っていたけれども、そんな事言えるだけあってニナとサヘルの息はぴったりと合っていて、サヘルの笛の音に合わせてニナはその長い体をくねらせて、観客の体に巻きついてみせたりする。

 そして最終的には自身の体に巻きつかせて終了。その状態のまま頭を下げた。

 その頭を伝ってニナは地面に降りる。

 そのままサヘルはその場から立ち去ろうとしたのだが。


「なー、なんでお前毛布なんかに包まってるんだ?」

 そんな声をかけられた。

 サヘルは帰ろうとしていた体の動きを止めた。

 振り返ったりはしなかった。

 ただ、サヘルの後ろをついていくように地を這っていたニナが頭を持ち上げて、サヘルの感情を代弁するように舌を震わせた。

「いいよ、ニナ。放っておこう」

 毛布の中から鱗だらけの腕を伸ばし、ニナの頭を撫でる。

 その腕を見た周りの空気を敏感に感じ取ったらしく、サヘルはすぐにその腕を引っ込めて、その場から逃げようとする。

 しかし。

「ちょっと待てよ。放っておこうってなんだよ、こちとら暇じゃねえ時間を削ってお前らを見に来てやってんだぞ」

 その声の感じと口調から推測するに、そいつは多分さっきの野次を飛ばした客なのだろう。

 『放っておこう』と捨て置かれたのがよほど不服だったのか、人混みの中から飛びだしてきた男はサヘルの肩を毛布越しに掴んだ。

「っ!」

 過剰に驚いたサヘルはとっさに体を捻るようにして、その手を払いのけようとした。

 ただ、それが不味かった。

 払いのけようとしていたその手は毛布越しに肩を掴んでいる。

 だからだろう。

 払いのけた時、その手は肩を離したものの、毛布は手放すことなくそのまま引っ張った。

 下半身が蛇、腕が鱗に覆われ、蛇のような目をした少女が顕になる。

「あ……」

 サヘルは。

 じわり、と涙をにじませる。

 その顔が決して、姿を晒してしまった事からだけではないことは、さしものルーミアにも理解できた。

 確かにそれももちろんあるだろう。

 しかしそれ以上に、毛布を手に持っている男の、気持ち悪いものを見るような目は、なによりもこたえる。

「止めにはいるわよ、不楽」

「了解」

 いざこざがあって、決して仲がいい。という訳ではないけれど、だからといって、今の状況を見て止めに入らないという選択肢を選べるほど、ルーミアの性格は悪くない。

 ともかくルーミアは止めに入ろうとしたのだが、それよりも早くに、男とサヘルの間に入る人影があった。

 パチィン、と頬を引っ叩く音がした。

 男とサヘルの間に入り、男の頬を引っ叩いたその女に、ルーミアは見覚えがなかった。

 それはサヘルも同じようで、涙がにじむ目で、不思議そうにその女を見ている。


「い、いきなりなにすんだよ!」

「最低ね、あんた」

 引っ叩かれた頬をおさえながら男は声を荒げるも、女は涼しい表情のまま、男から毛布をふんだくった。

 そしてそれを、サヘルに返してやる。

 サヘルは半ば奪い取るように取って、自身の体を覆うように着込んだ。


「あ、ありがと……」

「どういたしまして」

 顔を(というか全身を)隠しながら、それでもモゴモゴと口を動かしながらお礼を言うサヘルに、その女はニコリと笑いかける。


「ふうん」

 その光景を見たルーミアは少し驚いた風に、鼻をならす。

「気持ち悪がらない人間もいるのね」

 そんな感じにルーミアは、人に対しての考えを改めようとしたのだが、しかし、残念なことに、今回の騒動は決してそんな綺麗事なんかではない。

 もっと性格が悪くて、性質の悪いものだった。


「あんたねえ」

 サヘルに向けてニコリと笑った彼女は、振り向いて件の男の方に顔を向ける。

 腰に手を当てて、明らかに落胆した風に、あからさまに怒りを含んだ口調で言った。


「彼女だってなりたくてこんな姿で産まれてきたわけじゃあないの。それなのに気持ち悪いって、言っていいことと悪い事があることぐらい分からないの?」


***


 逃げだした。

 エマ・サヘルは、毛布で全身を覆いながら、その場から。

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