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ヴぁんぷちゃんとゾンビくん  作者: 空伏空人
そのに 見世物小屋の家族関係
28/70

ヴぁんぷちゃんとお手玉。

 その後、再び睡魔に襲われたルーミアは(まだ昼)、キャラバンの中から団員と不楽を追い出して、再び眠りについた。

 今度は誰も、彼女の睡眠を妨げるものはおらず、彼女が次に目覚めたのは、日もすっかり沈んだ夜中の事だった。

 久しぶりの吸血鬼らしい目覚めである。


「あふ……」

 口に手を添えて、白い牙をちらつかせるように、大きくあくびをしたルーミアは、眠気眼をこする。

 中途半端に覚醒していない頭を覚ますべく、頭を二三度振って、寝癖がたっている銀色の髪を手櫛で梳く。

 そして、周りが何やら騒がしいことに気がついた。

 まだテントを造っているのだろうか。

 最初はルーミアもそう思ったのだが、どうも外の喧騒はそういう感じの騒がしさではない。

 工事現場の騒がしさというよりは、人の行き来で騒がしい街中のような……そんな騒がしさ。

 何度かまばたいて、布団から這い出たルーミアは、布団の上でハンガーに掛けておいたいつもの黒いゴスロリチックなドレスに着替える。

 カーテンを透かせて、向こう側から来る光が日光でないことを何度か確認してから、ルーミアは外に出た。

 空は既に真っ暗で、あたり一面に星々が瞬いているのだが、それに反してキャラバンの周りはまるで昼のように明るかった。

 もちろん、実際昼な訳ではない。

 そうだとしたら、彼女の体は既にどろどろに焼け溶けているだろうから。

 フリークショーの会場になると一つ目の団長が言っていた広場の空には、提灯が並べられていた。

 それが喧騒ざわめく広場を淡く照らす。

 どこを見ても人が騒いでいて、さっきまで眠っていたルーミアの耳に響く。

「なに、もうフリークショー始まってるの?」

 喧騒から逃げるように耳を塞いで、目を細める。

 まるでというか、正に祭りのようなこの騒ぎはゴスロリ姿の銀髪少女のルーミアを見ても、あまり気にも留めない。


「あ、起きたんだ。おはよう、ルーミアさん」

 と、人混みの喧騒の中から、なにやら聞き覚えのある声が聞こえてきた。

 その声の方を向いたルーミアは、ぎょっとした。

 声がした方にはやはりというかやっぱりというか、不楽がいた。

 不楽はいつも通り、何を考えているのか分からない笑顔を浮かべながら――ルーミアが眠っていたもの以外のキャラバンをさながら、お手玉のように投げていた。


「なにしてるの、不楽……?」

「お手玉だよ」

 怪訝な目でルーミアは不楽を見る。

 不楽はキャラバンを投げる手を止めることなく答えた。

「……どうしてキャラバンを使って?」

「団長が『出来るだけ人には出来なくて、見た目のインパクトが強いことをしてください』って言ったから」

 よくよく見てみると。

 ルーミアの周りの喧騒は不楽を囲うように形成されていて、その視線は不楽に集まっている。

 その彼の足元には箱が置かれていて、その中には幾ばくかの金が入っていた。

 どうやらフリークショーの準備だけに飽き足らず、ショーの演目にさえ、駆り出されているらしい。

 確かにこき使ってやってとは言ったけれど――こき使われろ、と不楽に命令したのは自分だけれども、よもやこれまでとは思っても見なかった。

 そして芸をしろ。と言われてキャラバンを使ったお手玉をするとは、誰も思っても見なかった。


「けどルーミアさん。どうも人の集まりが悪いんだよね。どうしてだろう」

「そりゃあずっとキャラバンを投げ回してるだけじゃあね。確かに驚きはするけど、飽きも早いわよ。もっとこう、緩急をつけないと」

「なるほど」

 不楽は頷いて、キャラバンに緩急をつけながらお手玉を再開した。

 言いたいこととちょっと違う気もするが、まあいいか。

 ともかく、自分が眠っている間にフリークショーは開催していたらしい。

 とりあえずルーミアは、一つ目の団長を探そうと、不楽の持ち場から離れようとしたのだが、そこで視線に気づいた。

 不楽のことを快く思っていない視線――恨むような、恨めしい視線。

 それは、ルーミアの目の前にある生首からだった。


「ぬぐぐ……なんだか人の集まりが悪いなと思って辺りを散策してみれば、なにさ、ネタ被りしてるじゃあない」

 ルーミアの眼前にいる彼女は、ルーミアの怪訝な顔をまるで気にしないで、キャラバンでお手玉をしている不楽を睨む。

「しかも何さ。車使ってお手玉? 自分の頭を使ってお手玉をしている私なんかよりも目立つに決まってるじゃないか! あー、恨めしいっ!」

「いえ、それも充分目立つと思うのだけれど」

 ルーミアは思わずつっこんでしまった。

 目の前にいる、恨めしそうな顔の生首は、その長い黒髪を指に絡めるようにして掴まれている。

 まるで討ち取られた戦国武将の首のように持っているその首を使ってお手玉する芸が、彼女の十八番らしい。


「おかげで私の所には今一人が集まらないしさ……ぬうう、こうなれば!」

 自身の首を地面においた彼女は、どこからともなく木製のタライを取りだした。

 その中からはたぷん、と液体が揺れる音がする。

 なんだろうか、とルーミアはその中身を覗き見る。

 タライの中に入っていたのは、赤色の液体――大量の血液だった。


「これをぶちまけて、邪魔してさああぁァァッ!!」

「もったいなああいっ!!」

 と。

 不楽めがけてタライの中身をぶちまけようとした彼女を、ルーミアは吸血鬼の本能に従って、本音をぶちまけながら、身を乗り出すようにして阻止した。

 その後、自分が一体何を口走ってしまったか理解したルーミアは恥ずかしさのあまり酷く落ち込んでしまったのは言うまでもないし、その後、自身の首を手にした彼女から血をもらって機嫌をなおしたのも、やはり、言うまでもない。

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