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 国境にある検問を、あっさりと通過できた。

 堅牢な門を潜り抜けた勇者・フィルートは訝しげに門兵達を振り返る。

 白金色の長髪を襟足で無造作に束ねた彼の瞳は、澄んだ青色。年齢よりも幼く見える外見は、ひとえに大きめの瞳のせいだ。見た目に反して、彼の剣技は確かであり、王立軍に置いて中佐を頂いている。

 地味な茶色の外套に身を包んだフィルートの周囲には、同じ外套を着た四人の女がいた。

 ぽっちゃりとした体型の少女、リリア(十五歳)。茶髪を二つに分け、耳の上で束ねている。茶色くつぶらな瞳は、くりっとしていて保護欲を掻き立てる。

 その隣にショートヘアのスティナ(十八歳)。こちらは少年のようにすらりとした体型だ。

 フィルートの反対側にはとても豊満な体を持つ、熟女、アリー(二十八歳)。燃えるような赤髪に、金色の瞳をしている。その隣に、可もなく不可もない、平凡な容貌のシンシア(二十三歳)がいた。

「どうした、フィル」

 長い名前は、いつの間にか短縮されている。アリーがきらりと門兵を見やり、すぐに視線を前に戻した。

 フィルートは視線を前に戻しながら、首を傾げる。

「いや……妙にあっさり通れたと思って」

「そりゃあ、王様特製の、身分証があるからだよ」

 スティナが面白くもなさそうに答える。

 アテナ王国からデュナル王国へ入った途端、周囲の雰囲気が変わった。

 まず道だ。国境へ近づく程、アテナ王国の道は舗装路から踏み固められた土の道になる。中央都市などは煌びやかな外灯や外装、舗装が行き届いているが、国境付近には誰も住みたがらないからか、ほとんど手が付けられていない。

 だがデュナル王国は、門をくぐるところから完璧に石で舗装された道が広がった。

 更に、国境沿いの街は人で溢れ、商人たちの交流が盛んな証拠に、次々と荷馬車が出入りしている。

 デュナル王国を忌避し、国交を断絶しているアテナ王国からではなく、近隣の小国の商人達のようだ。

 どの商店も活気があり、店先は新鮮な食物が所狭しと並んでおり、店主が大きな声を上げて行き交う人に商品を推している。

 フィルートは門兵に見せた通行証を懐から出す。『第二級商業取引証』と書いている木札だ。認可証はもちろん、デュナル王国と国交がないアテナ王国ではなく、隣国のものを偽造している。

 念のため大きな布袋を担いで通ったが、荷の中身の確認もされなかった。中身はその辺で採集した果実や藁だったりするので、検査されずに済んで良かったのだが――。

 フィルートはもう一度だけ振り返る。

 ――みんな荷物検査を受けている……。

 門を通る人間は皆、通行証の提示と荷の検査を必ず受けているように見えた。自分達だけが検査を免れた理由が分からない。

 隣を歩くリリアも変だと思ったのか、こて、と首を傾げる。

「どうして、あたしたちだけ荷物検査が無かったのかなあ……」

 甘えたような、幼い声がフィルートはたまらなく好きだった。ついにっこりと笑ってしまう。

「きっと、僕たちの荷が少なかったからだよ」

 フィルートは、自分も疑問に思っているのに、適当な理由を上げた。リリアはくるりと瞳を丸くして、にか、と笑う。――うわあ、可愛い。

「そっかあ。きっとそうですね」

「うん。大丈夫だよ、何かあっても、僕が何とかしてあげるからね」

 守ってあげる宣言を聞き咎めたスティアが、冷徹な眼差しを注ぎ、アリーは鼻を鳴らし、シンシアがぼそりと呟いた。

「浮かれた空っぽ頭め……」

 フィルートはうっと呻き、シンシアに涙目で講義する。

「僕は空っぽ頭じゃない!」

「じゃあ、発情期の屑……」

 ぎくり、と体が強張った。リリアのつぶらな瞳が不思議そうにシンシアとフィルートを見ている。これを甘んじて受け入れてはいけない。

「違う! 僕は紳士だ!」

「紳士ねえ……」

 アリーが意味深に笑んで、フィルートを見下ろす。(フィルートは身長百七十センチだったが、アリーは百八十センチの長身美女だった。)その目がフィルートの目からつつつ、と下へ降りて行き、股間に注がれた。思わず股間を覆い隠す。

「ななな、なんですか!」

「それは大人しくないようだが……」

「……!」

 ――まさかそんな、見られているはずが無い!

 アテナ王国からの道のりは長かった。首都から郊外までは馬車を使って移動できたが、郊外からは徒歩になった。馬を使いたいところだったが、馬に乗る五人組は、いかにも何らかの使命を持った者達に見える。それに、馬は高価なので、一般人は乗馬できないものなのだ。間諜を警戒し、出来るだけ目立たないように、『魔王討伐部隊』は郊外の街から三週間をかけて、国境まで来ていた。

 この三週間、若いフィルートにとって狂おしい日もたまにはあった。しかも討伐部隊は勇者以外全員女だ。若い男の苦しみなど知ったことではない彼女たちは、時には薄着で目の前を歩き回り、全員が眠りについた夜中に、自分を慰めたりしていた。

 誰にも見つからないよう、ひっそりとしていたはずなのに、アリーは見て来たかのような笑みを浮かべる。

「おや……身に覚えがおありかい……?」

 ぷっくりとした、大人の唇が怪しく笑う。女性経験皆無の少年・フィルートは、真っ赤になった。

「なななな……なんの話ですか……」

「まあいいよ。魔王は目と鼻の先だ。気を弛めないでおくれよ、勇者殿」

 留めとばかりに、耳に息を吹きかけられ、フィルートは短く悲鳴を上げた。

 ――早く魔王を倒して、リリアちゃんをゲットしたい!

 勇者フィルートは確実に、魔王討伐よりも、隣を歩くぽっちゃりとした女の子にうつつを抜かしていた。



 入国後一週間ほどで、難なく魔王城に辿りつけた。

 それは荘厳な建物だった。白と金を基調として作られたアテナ王国城と相対的に、黒と銀を基調に作られていた。城壁は二階建ての家くらいに高く、城門も黒の鉄格子で作られている。その門前にいるはずの警備兵は、一人もいなかった。城の周りには深い堀が張り巡らされ、地上と城を繋ぐ吊り橋が、無防備に降りている。

 閑散とした周辺を見渡し、フィルートは眉根を寄せた。

「どういうことだ……全く警備されていないぞ」

 アリーは顎を撫でる。

「歓迎されているんじゃないかい?」

 スティナは周囲を睨みつけるように、見回した。

「隠れている気配もないよ。完全に無人だ」

 リリアがにか、と笑った。

「じゃあ、警備する人が戻る前に入っちゃいましょう!」

「そうだね!」

 フィルートはリリアの笑顔が可愛くて、一も二もなく頷いた。一気に吊り橋を駆け抜ける途中で、シンシアがぼそりと言った。

「……もげればいいのに」

「やめて!」

 フィルートは股間を押さえて、涙ぐんだ。



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