1-8 ルネの魔法陣講座 初級編
魔法陣学だ。ルネの言葉が頭の中でなんども響く。
僕は魔法陣があまり好きではない。あの時のことが若干トラウマになっているからかもしれない。それはルネも知っているだろうし、それなのに僕に教えるの?
混乱の最中で、ルネは優しく新たな爆弾を投下した。
「ソエル、お前魔法使えないから」
魔法使えないから
使えないから
ないから
why?
思考が停止した。
ランディを見ると、たき火に薪を継ぎ足していた。
「お前が使えない理由も含めて理論をすべて頭に詰めるぞ。嫌とはいわせねぇからな」
こうして、僕は魔法陣を学ぶこととなったのだ。そこに僕の意思は存在しなかった。
「まずは魔法陣の利点と欠点を教えてやろう。魔法陣最大の利点はな、誰でも使えることだ。それこそ赤ん坊から老人まで、種族も関係なく、魔法が使えなくとも。ただ起動という言葉を言えたらいいんだ」
ルネは一息つくと、次は欠点について話し出した。
「欠点だが、魔法陣には欠点が大量にある。そのうちの一つが魔法陣の書き手を減らしている最大の理由でもあるんだ」
深刻そうに言うルネの表情は真剣そのものだ。
「それはな、書くのが面倒くさいことだ」
何言ってんだこいつ。
「おい、そんな変な奴を見る目はやめろ。これは冗談でも私の独自の意見でもないからな。3人書き手がいたら1人は思うことだ」
どうやら彼女の持論ではないらしい。その他の欠点も聞いてみたが、利点が誰でも使えることなのに欠点が誰でも止められることとか、戦闘中は前もって用意していないと一方的にやられるとか、明らかに欠点の方が多かった。
それに一般的に皆魔法が使えるので魔法陣に頼る必要がないというとんでもない欠点があるのだが、この時ソエルは教えてもらえなかったのだ。
魔法陣を利用するのは、その魔法がどうしても使いたいのに使えるものがいない。というのが大きい。つまり誰でも使えるような魔法を魔法陣として作る必要がないのだ。
「とりあえず、まずは使い方だ。何回か聞いてると思うが、魔法陣の起動方法は起動と唱えること。あと、視界に魔法陣が入っていることが条件だ。他に停止もある。これは発動している魔法陣を止めるものだ。条件の視界に入れることはこっちにも当てはまる」
ふむふむ、起動と停止か。
「そこで、なぜ誰でも使えるのか。ということに論点を置こう。お前が魔法を使えないことも関連しているしな」
よく考えると僕は魔法に関して何も知識をもっていない。魔法があるということだけだ。
これからそこらへんをしっかり学んでいこう。
「まず魔法と魔法陣は魔力の供給源が違う。魔法は生物から魔力をもらい、魔法陣は非生物から魔力をもらう。まぁ非生物ってのは、そこらへんに漂ってるやつってことだ。んで、お前には魔力がほとんどない。だから魔法を使うことはできない」
なるほど、確かに今の説明なら僕が魔法を使えない理由に事足りる。しかし疑問もあった。
「生物ってことは自分以外の魔力も使うことができるのではないですか?」
「ああ、確かにできる。ただし、それは禁術に指定されている」
「なぜですか?」
「供給したやつが死ぬからな」
詳しく聞くと、自分の魔力を使うのは簡単だが、他人の魔力はその限りではないということだった。他人の魔力を使って発動する魔法は生贄魔法と呼ばれ、一回でも使えば反逆罪で首がぽーんと笑えないことをケラケラ笑いながら説明してくれた。
「この筆は……何て名前だったかな。とりあえず魔筆にしよう。この魔筆は筆菅のとこにたくさん魔法陣がついてるんだ。その効果で穂首のとこから魔力が出る。原理はよくわからんが、これがあれば空中にかけるんだぜ? いいだろう」
まるで宝物を見せびらかす子供みたいなルネはともかく、魔筆は普通の代物ではなさそうだ。
「次は魔法陣の書き方についてだが、今は教えるだけだ。実践はむこうについてからにするんだな」
「なぜですか?」
「歩きながら正確な図形かけんのか?」
「無理です」
魔法陣の効果は図形の正確さによって効果の強弱が変わるらしい。汚すぎると爆発するぞと言われた。魔法陣恐るべし。
「魔法陣の図形にはひとつひとつに意味がある。その組み合わせで魔法として完成するんだ」
ルネはそう言って虚空に魔筆を振るう。3つの形が出来上がった。
「初歩の初歩からいくぞ。まず一つ目は円だ。これがいっっっっちばん基本的な図だから覚えておけよ。【循環】を意味する形だ。次に星、これは【魔力】を意味する。これがないと始まらんからな。最後に三角だな。これは【放出】だ。この3つを組み合わせると…」
ルネはさらさらと慣れた様子で大きめの円と星を書き、真ん中にちょこんと小さく三角を書いた。
「よしできた」
「ルネ、小さくないですか?」
「心配すんな。ほれお前が動かしてみろ」
ここにきて初めて魔法陣を動かすことになった。少しドキドキするが、今の説明だとこの3つでは大したことはおきないのだろう。しかし緊張はする。
「……起動」
すると魔法陣が輝きだした。そして小さい三角から徐々に何かが出ている。そして代わりに周りの星が薄くなっていく。星が完全に見えなくなった時、円と三角も一緒に消えてしまった。
とてもあっけない。いや、大したことは起きないことも分かっていたのだが、炎とか水と出てほしかった。なんで加湿器程度ほどしかでないんだよ。
「一応言っておくが、今のはて三角の【放出】から星の【魔力】が流れたんだ。そして魔力がなくなれば放出は止まる。陣が消えたのはこの魔筆で書いた魔法陣だけだからな」
その後、火や水を出す図形を聞いてみたが、「それは応用だからまた今度な」といわれてしまった。
僕の魔法陣道は始まったばかりだ。
魔法陣について、まとめます。
魔法陣の使用方法
・発動、または停止したい場合、起動または停止と言う。
図形の種類
・円……【循環】
・星……【魔力】
・三角……【放出】
これからどんどん増えます