対ドラゴン
少女、日向美夏は動揺した。 美夏は同じ境遇の人間達と共同体ようなものを作って暮らしているのだがすでにぎりぎりの生活だ。 これ以上人を受け入れる余裕などないしかし目の前に倒れた人間を放っておけるわけなど無い。 しょうがなく美夏は青年の片足をひっぱって家まで向かうことにした。
青年、柳御影は目を覚ますと見知らぬ場所にいた。 御影はとりあえず布団から這い出し辺りがどのような場所か確かめる、床はたたみで壁はコンクリートタンスなどの類は一切ない。 さらに周囲を見たところで枕元に先ほどまで自分が着ていた黒い革のコートがたたんでおいてあったのでとりあえず着てしまうそれなり愛着のあるものなのでとりあえず、ホッとため息が出た。
となるとあらためてここはどこだろうという考えが出てくる。 ボーっと考えているとドアが開いて一人の少女が入ってきた。 腰まである黒がかった茶髪どことなくキリッとした感じの11,2歳の女の子である。
「眼が覚めましたか。」
少女が問う。 御影は首肯する。
「それはよっかた。 しかし私たちが暮らしていくのはすでにギリギリなのです私達というのは身寄りのない人間が集まって作った共同体のようなものです。 ですがもう経済的余裕なんて全くありません、ですからできればあなたには出て行ってもらいたいのですが。」
そこで少女は一息入れる。
「私達もそこまで鬼ではありません。 あなたが何か私達にとって役に立つ特技があればここに置くこともできるのですが。」
御影は少し考えてきいた。
「護衛とかそんなのでもいいですか。 戦闘以外の事だとあまり出来るのはなくて。」
少女は大きくうなずいた。
「戦闘が行える人間が少なくて困っていたんですよ、だからこれはうれしいですよ。」
「ようこそ、私達の共同体へ。」
少女は満面の笑みとともに言った。
その後、御影は少女に施設を案内された。 ちなみに名前は日向美夏といいここの共同責任者の一人であるらしい、まだ小さいのに大変だなと御影は客観的に思った。
「とりあえず、あなたの実力を知りたいので私についてきて下さい。」
そういって美夏は出口に向かって歩いて行った。
美夏が御影をひきつれて向かったのは歩いて15分ほどところにあるごみ山だった。 そこには先ほど襲われた猫より少し小さめのそれでも2メートル半ぐらいはある個体がいた。
「最低でもあれぐらい倒せるレベルじゃないと足手まといだからね。 とりあえずやっちゃってください。」
御影は特に急ぐことなく猫に向かってゆっくりと歩き出す猫は先手必勝とばかりにうえから襲いかかる御影はあわてることなく少しからだを左にづらして無防備な腹めがけて拳をつきだした。
それを見て美夏は微かに唸り声をあげた、控え目にいってもかなりの実力者だったこれは捨てておかなくて正解だったかなと思いつつ美夏は声をかけた。
「や~、ここまで強いとは思わなかったなよ試験には合格だよ。 改めてようこそ御影さん。」
「じゃあついでにそのゴミ山から使えそうな物と売れそうな物探しましょうか。」
有言実行とばかりに美夏はゴミ山に向かっていく。 少し遅れて御影もついてきた。
そこから30分ばかり何か無いか探していると、御影が驚いたような声をあげた。
「どうしたの・・・!」
美夏も思わず動揺してしまうほどの物。 御影の手に握られているのは銃身がかなり長く銀色に輝く拳銃は日本が誇る兵器会社「四葉」の最高モデルといわれる「シルバー・ドラゴン」持ち手の滑り止めが竜の鱗のようなところからきているのだがこの銃、売れば中古でも50万はつくといわれるあらゆる意味で恐ろしい銃である。 勿論威力も半端じゃなくそこらへんの魔獣なら頭を打つだけで殺せるといわれといる。
「ち、ちなみにうちは問った人が決めるってことになってるけどどうする?」
「俺が使おう。」
即答だった。 美夏はかすかに笑みを浮かべつつ作業に戻ろうとした。 しかしその手元に影が落ちたいかぶしく思い上を見上げると黒い鱗と革のような羽をもつトカゲを大きくしたような魔獣がいた。
「ドラゴン!?」
半ば悲鳴を上げるような感じで美夏は叫んだ。
魔獣はステージによって分類され
ステージ1が喧嘩が強い人間なら単独で撃破できるレベル
ステージ2が一定期間訓練を受けた人間が単独で撃破できるレベル
ステージ3が一定期間訓練を受けたプロが単独で撃破できるレベル
ステージ4が一定期間訓練を受けなおかつ一定期間の経験を積んだプロが単独で撃破できるレベル
ドラゴンはステージ4に属するが国連が特に危険と言っている一般人が遭遇する中では最強の一角である。 しかしステージ3より上は人里には滅多には表れない。 その事が美夏を動揺させ行動を鈍らせる、その瞬間ドラゴンが大きく口をあける。 美夏は他人事のようにここで死ぬのかなと思っていた必殺の威力を秘めた火炎がこちらに迫ってくる。
そこに割り込んでくる人影があった。
「簡単にあきらめてんじゃねーよ!」
明確な怒りすら感じる声で割り込んできたのは御影である迫りくる火炎に対して右腕を躊躇なくむける。 どうするつもりかと思ったら右手を中心に半径1メートル程度の青く輝く盾が現れ、必殺の火炎を防ぐ。 10秒ほど続いた火炎攻撃を受けても御影は平気そうだった、それを見てドラゴンも眼前の男が危険と判断したのか少し後退する。 御影も盾を引っ込めると左腕で美夏を抱き、右手でシルバードラゴンを持って大きく後ろに跳躍した。
御影はドラゴンを見てひそかに冷や汗を流すステージ4、さらにドラゴンである。 本来なら逃走一択であるのだが相手はこちらに狙いを定めていて逃げさしてもくれそうにない。
「やってやろうじゃないか・・・!」
ゆっくりとした動作で立ち上がり美夏に支援をたのみドラゴンに向かって歩いていく。
「無理だぞ! ドラゴンだぞ! やれるわけないじゃないか!?」
取り乱した口調で美夏が言う。
「なんとかならなきゃ、何とかするしかないじゃねえかよ。」
御影は不敵に笑うとドラゴンに向かって走り出した同時に考えられる手を頭の中で考える。 どれも隠された力の使用が前提の作戦である。
(中二病みたいだな・・・)
心の中のつぶやきは余裕の表れか。 御影は左手を顔の前にもってくると人差し指に躊躇なく歯を立てた、その瞬間体が一回り大きくなりふさふさと尻尾と耳が生えてきた。
「ふぅぇええ!??」
美夏の動揺した声が聞こえるが無視である。 彼のこの体は人類を地球上にある様々な遺伝子を進化させようとするプロジェクト通称人類進化プロジェクトの恩恵である、御影の能力のベースは狼。 絶対的な敏捷性とかなりの筋力、圧倒的な五感を左手の人差し指から自分の意思で血を流すと手に入れることができる。 勿論それなりの代償もあるが今は関係ない。
一瞬でドラゴンの真後ろに回り込み強烈なけりをはなつ。 空中で姿勢を崩すドラゴンそのタイミングで空から雷が落ちてきてドラゴンを撃ち落とす。 たまらず地面に頭から真っ逆さまに落ちていくドラゴン、ぐしゃりと何が潰れるような音がしてドラゴンは動かなくなった。
御影は特に姿勢を崩すことなく落ちてきて着地した。