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蒼穹の狭間で  作者: 藍原ソラ
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6.それぞれの決意(4)

 時計もなく太陽の位置で時間を知ることも不可能な地下では、どれくらいの時を歩いたのか分からない。変わる景色の中でなら一時間のウォーキングも苦痛ではないだろうが、ひたすら薄暗い中を延々と歩いているのはさすがに辛い。

 士気にも関わるし、飽きたなんて口が裂けても言えないけれど、それでも雅の表情がげんなりとし始めた時、まっすぐだった道の先が右に逸れていることに気付いた。

 それた道の先には古ぼけた木の扉がある。

 どうやら、この道のゴールらしい。雅は無意識に息を呑んだ。

 この先に陰羅がいるのだ。緊張するなという方が無理な話である。

「……雅ちゃん。……とうとう、なんですね」

 心配そうに雅の表情を窺う春蘭に、雅は笑って見せる。

「うん。そうだね」

 ふと微かな呟きを聞いた気がした。後ろからのその音に雅は振り返る。この空間には雅、慧、春蘭しかおらず、今の声が聞き間違いでなければその主は雅達の少し後方で立ち止まった慧に他ならない。

「慧?」

 雅の呼びかけに、うつむき加減だった慧が顔を上げる。その瞳に宿る強い光に、雅は思わず肩を震わせた。

 慧の唇が微かに動く。声はなかった。だが、ごめんと動いたように雅には見えた。瞬間。

「睡縛陣」

 はっきりと響いたその言葉とともに、強烈な眠気が雅を襲う。瞼が、雅の意思に反して降りていく。

 霞む視界の中で、雅は昨夜の慧の表情を思い出していた。

 そうして、気づく。彼が決意したこととは何だったのか。慧、と名を呼ぼうとしたけれど声にならず、唇が微かに震えただけだった。

 そこで雅の意識は暗転した。


 かくんと力が抜けた雅の身体を、慧は右手を差し出して支える。そうして、己の腕の中を見下ろせば雅が健やかな寝息をたてていた。

 ほっと息をつきつつ雅を壁にもたれかけさせる。その動作を呆然とした表情で追っていた春蘭がはっと我に返った。

「慧、君……! な、何を……何を、しているんですかっ? そんな……雅ちゃんを、眠らせてっ……」

 混乱した様子の春蘭に、慧は小さく苦笑を零す。雅がちゃんと眠っていることを確認すると、ゆっくりと立ち上がった。

 そうして、まっすぐに春蘭を見る。

「ずっと……考えていたことがあるんだ。……雅が召喚されるより前から、ずっと」

 薄暗い中でもはっきりと分かるほど深い慧の瞳の色に、春蘭は息を呑んでいた。

「ずっと……? 何を、ですか……?」

「光鈴召喚の、この伝説について。……何で俺達の中からは光鈴の転生者が生まれないんだろう、何で地界の者なんだろうって」

 その言葉に春蘭が受けた衝撃は、大きかった。

 春蘭もそれは疑問に思っていた。けれど疑問に思うようになったのは雅と出会い、国立図書館で伝説の真実を知ってからだ。

 出会う前はそんなことは微塵も考えたことがなかった。何の疑問も持たずに、ただ伝説を信じて。

 春蘭は雅に視線を落とす。

 雅が地界から召喚されることに疑問を持つどころか、神であることを押し付けた。地界で普通に生きてきた少女だということを少しも考慮にいれずに。

 中央神殿によって真実を隠蔽された光鈴の伝説が広く伝わっている天界で、慧のように疑問を持つことは難しい。難しいというよりも異質というべきか。

 それほどまでに中央神殿の教えと信仰は天界で生きる人々に深く根付いている。

 そんな春蘭の思考を読んだように、慧は小さく苦笑する。

「まあ、こんな捻くれたことを考えてたのも俺くらいだろうけどな。……でも、ずっと疑問だったんだ。どの文献を読んでも、地界から光鈴の生まれ変わりが召喚されるって書いてあって……天界の問題なのに、何で地界の者が出てくるんだろう。何で俺達じゃダメなんだろうって……」

 春蘭は手を強く握りしめた。

 その答えを、慧も春蘭も未だ知らない。もしかしたら、雅は何かを晄潤から聞いているのかもしれないけれど。

「光鈴として雅が召喚されて……戦い方も知らないって知ってから、その疑問はさらに強くなって……」

 そんな疑問を抱いたまま、天界救済の旅に出たのだと、慧は呟く。

 旅自体に疑問を持ちながらも、戦う術を持たない雅をほおっておけなかったのだろう。

「暗奈との戦いで、はっきりと思った。雅をこの戦いに巻き込むべきじゃないって。……そうして、国立図書館で……」

 そこで慧は一度言葉を区切る。だが、春蘭にはその言葉が簡単に想像できた。

 あの場所で伝説の真実を知り、地界の少女を巻き込むこの伝説の悲惨さと過ちに、気づいたのだから。

「……伝説自体が間違ってるって思ったんだ」

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