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蒼穹の狭間で  作者: 藍原ソラ
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6.それぞれの決意(1)

 気づけば、一人闇の帳の中にいた。

 数度瞬きを繰り返して周囲を見回すが、自分以外の姿はない。

 それでも恐怖も不安も感じないのは、その闇から嫌な気配がしないからだろう。そんな風に思ったのと同時に、目の前に白いスクリーンのようなものが現れた。

 暗闇の中でこんな状況だと、まるで映画館のようだ。

 その考えに呼応するかのように、白いスクリーンに映像が流れ出す。


 袴姿の、一人の少女がいた。その少女は悲しそうに笑う。

『……いいんです。私に家族はありません。天涯孤独の身です。……地界には私を待つ人も、悲しむ人もいませんから』

 だから、陰羅を封印します。

 そう告げた少女の視線の先には、痛ましげな視線を向ける晄潤と、その後ろで複雑そうな表情をする少年と少女の姿があった。


「……これは」

 雅が小さく呟くと同時に、映像が切り替わった。次に画面に現れたのは、着物姿の少女だ。少女は、泣いていた。


『無理だよ、アタシには……! こんな大きな力……怖い!』

 黒髪に金の瞳の男の目の前で、そう言って嫌々と首を横に振りうずくまる。そうして全てを閉ざしてしまった少女を途方に暮れた表情で見下ろす、少年と少女。

 その姿に、黒髪の男は冷めた笑みを浮かべる。そうして爆発した大きな力に、泣き続ける少女を守ろうとした少年と少女は倒れ。そして――……。


 それからも次々と映像が現れては消えていった。戦いたくないと頑なに拒み続けた少女がいた。死にたくないと泣き続ける少女もいた。力に溺れ、その果てに力を暴走させた少女がいた。

 どれも、光鈴の生まれ変わりとしてこの大地に召喚された少女達に起こった出来事だ。

 そう分かったけれども比較的冷静に見ることが出来たのは、映画館の雰囲気のせいだろうか。少女達の運命を変に感情移入することなく客観的に見られたのは、自分でも驚きだ。

 事前に、晄潤から今までに天界に召喚された少女達のたどった道を聞いていたというのはあるだろう。けれど、それ以上に少女達と共にいた煌輝の生まれ変わりであろう少年と巫女の少女の表情に衝撃を受けたのが、客観的に見ることができた要因なのかもしれない。

 どんな思いを抱いていたのか、それは今の映像からは分からない。彼らが口を開くような場面は一度もなかったからだ。けれど、その表情は複雑な感情と苦悩に歪んでいた。

 それだけは強く感じた。

 そうして、光鈴の生まれ変わりの少女と同じ運命を辿っていったのだ。彼らも。生きて戻った者は誰一人としていなかった。

 終わらない伝説。それは、地界の少女だけに当てはまるものではない。煌輝の生まれ変わりも、巫女もこの伝説の犠牲者なのだ。

 それを改めて痛感して、雅はそっと瞳を閉じた。

 死にたくない、生きて帰りたいと思う。そして、それと同じくらい彼らを死なせたくないと切に願っている。

 だから。

 雅は目を開くと、きっと虚空を睨み付けた。

 雅が光鈴の生まれ変わりで、この魂が転生を繰り返してきたというのなら、この悲しい記憶たちは魂に刻まれたものに違いない。このタイミングでこんな映像を見せる真似が出来るのは、この魂の最初の持ち主に違いないんじゃないだろうか。

「……光鈴!」

 そう思って声を張り上げたけれど、闇に雅の声が響くのみで何の反応もなかった。それでも、雅は叫ぶ。

この映像が、どんな意味を持っているのか雅には分からない。雅を焚き付けたいのか、それとも改めて厳しい現実を突き付けたいのか。

 ただ、雅の決意がより強固なものになったのは、事実だ。

 だから、届くか届かないかなんて関係なく、これは光鈴への決意表明だ。

「あたしは死なないし、慧と春蘭も絶対に死なせない! あたしが、この伝説を終わらせてやるからねっ!!」

 そう叫んだ瞬間、目の前のスクリーンがふわりと消え去り。闇が晴れた気がした。


 目を開ければ、目の前に広がるのは木目の天井だった。

 雅は数度瞬いてから、ゆっくりと身体を起こす。隣のベッドに眠る春蘭を起こさないように、そっとだ。

 枕に背を預けて雅は自分の手を見下ろした。そうして、ぎゅっと握りしめる。

「……うん」

 小さく呟くと、朝日が差し込む窓に視線を向けたのだった。

 決戦の日が、はじまる。

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